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2020年の仕込みに向けて

 収穫したブドウを仕込み、ワインに仕上げる一連の流れを毎年繰り返す。出来たワインをお客様に提供し、見合った付加価値に対して対価を頂き、ワイン造りを継続するための運転資金を稼ぐ。このサイクルを毎年繰り返していく。ワインの仕込みは1年1回だ。例えば、このサイクルを10回繰り返すためには10年必要である。

 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言があり、全国的に移動や労働時間の制限が、時間の価値を見直し、自分自身のワイン造りのあり方を今まで以上に見直す機会をくれた。

伝統的な造り、今まで通りな造りでよいのか

 フランスで学んだ技術、先人から引き継いだ技術をこれまで通り大事に守っていく考え方をしていた自分がいる。

 毎日365日試行・評価・改善を繰り返すことが出来る業界で10年経験を積んだ技術者と、同じ期間でワイン醸造の技術者が到達できるレベルは同じだろうかと考えた。

365回 × 10年 = 3650回の機会
1回  × 10年 = 10回の機会

 もちろん、一概に比較・評価は出来ないが、機会が少ないワイン醸造の技術者が一般に不利だろう。だからこそ、1年1回のその機会に向けて、思考を巡らし、出来る限り多くの試行を行いたいと思った。機会は1年1回でも試行回数を10回に増やせれば、10×10=100回分となり、進化を早め、時間を稼ぐ事が出来る。

 限られた時間の中で試行回数を増やすのには労力はいるが、それに見合った進化も期待できるのではないか。

ヴィンテージが異なるから品質触れ幅が許される

 例えば、日本酒やビールは、同じ銘柄であれば同じ品質が求められる。しかしながら、ワインには同じ銘柄のワインであっても、その年の天候の善し悪しによって品質が異なるというヴィンテージの概念がある。

 振り返ってみると、納得できる品質のワインが出来なかった事をヴィンテージのせいにしていないか?と自分に問いたい。 

 直近でいうと2019年は7月−8月の天候不順がたたり、山梨県ではマスカット・ベーリーAの品質不良が目立った年だった。今思えば、更に工夫を凝らし、もっとより品質の良いワインを作るために出来る事があった。

 ワインを購入し、飲んでくれるお客様にとっては、購入したワインの味わいが満足できるかどうかが、重要である。

 ヴィンテージが良し悪しに関わらず、いずれにしろ、それを貴重な機会として捉え、最善を尽くさなければならない。

2020年の仕込みに向けて

 2020年はコロナで始まり、経済活動の停滞が余儀なくされている。しかしながら、この大きな刺激がきっかけとなり、様々な変化の兆しが起こり始めているように思う。

 あわよくば、このふとした自分自身の考え方の変化をきっかけとして、お客様が満足、或は驚き、感動を与えるようなワインを産み出せるように、技術者としての成長を加速していきたい。

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