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【エッセイ】潰瘍性大腸炎患者の私にとって、安倍晋三さんは「ヒーロー」でした。

※本記事は潰瘍性大腸炎の具体的な病状に関する記載を含みます。恐縮ながら、どうぞ飲食を終えてからお読みください。食欲をなくしても、食事が美味しくなくなっても責任は取りません。

昨日、内閣総理大臣を務める安倍晋三さんが慶應義塾大学に通院したことが報道されました。Yahoo!ニュースやNewsPicksのコメント欄を見ていると、彼の病気を揶揄したり、健康状態をダシに辞任を期待したりする意見が散見されます。

潰瘍性大腸炎とは無縁の「ネット論客」の皆さんが羨ましくてたまりません。何を隠そう、私も安倍さんと同じ「潰瘍性大腸炎」の患者の一人です。

ロンドンから帰ってきたら「潰瘍性大腸炎」の診断

この4月上旬に、私は潰瘍性大腸炎の確定診断を受けました。

その後、処方された第一選択薬の「ペンタサ」が合わずに症状を悪化させたり、同じく試験的に少量を飲んでみた「アサコール」も合いそうになかったりと、薬剤アレルギーに苦しめられながらの治療がスタートしました。幸いにして、4月中旬に始まった大学の授業も、早くとも夏休みまではオンラインで開講されることになったため、日本国内で治療を続けられたのが「不幸中の幸い」でした。

潰瘍性大腸炎だって頑張りたい!

「ペンタサ」で悪化した症状はステロイド剤の「レクタブル」で抑え、なんとか生活を維持できるようになりました。今では多少なら脂っこいものも、生ものも、冷たいものも食べられます。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威がある中ではありますが、免疫抑制剤の「アサコール」にはアレルギー反応を起こさずに済んでいます。

夏休みが終わればロンドンに戻って、勉強を続けたいと思っています。また、大学院修士課程にも進学したいと思っています。そして、就きたい仕事もあれば、成し遂げたい実績もあります。

そんなときに、同じ病気を持つ安倍さんの健康状態を揶揄する人を見ると、「自分が将来、何らかのポジションに付いたら自分も同じ言葉で攻撃されるのだろうか」と思ってしまいます。

確かに、お腹が痛くなることもあります。先日もオンラインOB訪問の途中に強い腹痛に襲われ、中座してトイレに行ったことがありました。将来も、授業や会議の途中で便意を催すことがありません。でも、だからといって勉強を続けたり、好きな仕事に就いたりしてはいけないなんてことはないはずです。病気と向き合い、しっかりと治療を続ける必要はあるものの、それでも頑張って活躍したいと思うことを、誰に邪魔されなければならないというのでしょうか。

同じ病気でも大変な仕事に就いている安倍さんは「ヒーロー」である

もちろん、安倍さんの病気や体調を揶揄する人は安倍さんを批判したいのであって、他の潰瘍性大腸炎患者を攻撃したいわけではないでしょう。でも、安倍さんの病状を叩くことは、彼と同じ病気に苦しんでいたり、彼よりも酷かったりする患者さんを「誤射」「誤爆」しています。自分に向かって飛んできた銃弾や爆弾ではないとしても、撃たれているのですから、爆撃されているのですから、当然に傷つきます。こちらまで巻き込まないでいただきたい。

そして、それらの攻撃が誤射や誤爆でないとしたら、さらに悪質なものでしょう。「潰瘍性大腸炎の患者は要職に就くな」としたら、病気につけ込んだ差別に他なりません。

とにかく、指定難病である「潰瘍性大腸炎」の患者さんが、おそらく日本で最も大変な仕事の一つである「内閣総理大臣」を、それも憲政史上最長在任で続けておられるというのは、私にとって非常に大きな勇気になります。この病気になって、将来を悲観したことは何度もあります。自死を一切考えなかったと言えば、嘘になります。

それでも、同じ病気を持つ安倍さんが要職を続けている事実は、「この病気があっても出世して良いんだ!」「自分だって頑張れる!」と思わせてくれます。

しかも、安倍さんは私よりも早く、多感なはずの中学生のときに潰瘍性大腸炎を発症しています。思春期で好きな相手がいたり、格好つけたかったりしたであろうタイミングで、深刻な下痢や血便に悩まされているはずなのです。

自分だったら気が狂っていたと思います。そういう意味で、彼は本当にお強い。尊敬に値します。

それ、他の病気の患者さんにも言える?

というか、仮に安倍さんが私と同じ病気でなかったとしても、病気につけ込んで安倍さんを叩くのは間違っていると断言します。例えば、安倍さんが他に患者さんがいないような極めて稀な病気の患者さんだとしても、病気や健康をダシに叩くのは許されないはず。

あまり例に持ち出すのは倫理的に好ましくないかもしれませんが、参議院議員の舩後靖彦さんや木村英子さんを、彼らの難病や障害につけ込んで論(あげつら)っていたら、それは明確に「差別」でしょう。

他にも、衆議院議員で元総務大臣の原口一博さんは骨形成不全症の患者さんです。

安倍さんなら、もしくは潰瘍性大腸炎なら、コケにして良いのでしょうか。そんなことはないはずです。

好きでなったわけじゃないのにつけ込むなんて、さすがに「差別」じゃないの?

潰瘍性大腸炎は自己免疫疾患と言われていて、誰が発症するのかも分かりません。何より、当たり前ですが、好んでなるものでもありません。

自分の故意や過失で、何らかの病気になったり怪我をしたりしたなら、批判されるのもまだ理解はできるでしょう。でも、自己免疫疾患なんて、自分にはどうしようもありません。

安倍さんを潰瘍性大腸炎で叩くのは「男性だから」とか「山口県出身だから」攻撃するのと同じくらいに理不尽です。性別や出生地でどうこう言うのは「差別」ですよね。そして、病気や障害を理由に叩くのも同じです。

そこに、「潰瘍性大腸炎だから」とか「安倍さんだから」といった例外はありません。

安倍さんの政治家としての評価はともかく、同じ潰瘍性大腸炎患者として「頑張れ、安倍さん」とは言いたい

内閣総理大臣としての安倍さんは評価が分かれるでしょう。

いや、私が安倍さんの政策をまったく支持していないわけではありません。安倍政権になってから難病対策の政策は前進したし、予算も増えました。指定難病患者への医療費助成制度については、完全に「ありがとう、安倍さん」です。それに、私の興味関心は安全保障や国際関係であり、その観点から安倍政権を評価するときも多くありました。そうは言っても、やっぱり安倍さんの政策や言動に思うところもありました。NewsPicksやTwitterで安倍政権を批判することも何度かありました。この辺りは常に是々非々で長くなるので割愛します。

それでも。やっぱり同じ病気の患者さんが要職で頑張っている姿というのは勇気づけられます。別に政治家になりたいわけじゃないけれど、「同じ病気でも内閣総理大臣になれるんだ」と思わせてくれます。「自分だって頑張ろう!」と奮い立たせてくれます。

同時に、同じ病気の患者として、安倍さんに親近感を感じることもあれば、「病気を吹き飛ばすくらいに活躍して欲しい」と思うこともあります。やっぱり、潰瘍性大腸炎の患者さんが病気を吹き飛ばすかの如く頑張っている姿は、同じ病気で理不尽に苦しめられている立場として、言葉を選ばずに言えば「快感」ですらあります。だから、同じ潰瘍性大腸炎と戦っている立場として、政策の議論や言動の是非はさておいて、「頑張れ、安倍さん!」とは思います。

政治家になりたいわけじゃないけれど、彼くらい活躍したい!

キング牧師みたいなことを突然言い出して恐縮ですが、私には夢があります。活躍したい舞台があります。それが具体的に何であるかはここで述べませんが、そのためには修士課程を修了したり、実績を積んだりして、広義の「出世」を重ねなければなりません。

そんなとき、潰瘍性大腸炎に苦しめられることがあるかもしれません。病気が足かせになることもあるでしょう。だからこそ、同じ病気でありながら、憲政史上最長在任の内閣総理大臣を務めた人物がいるというのは、本当に励みになるのです。

別に政治家になりたいわけじゃない。それでも、同じ病気があっても活躍できることは安倍さんが証明してくれたから、彼くらい活躍したい。まさに彼の存在と活躍は私の勇気になっています。

安倍さんを批判するのは結構です。自由民主主義社会において、権力を監視して批判することは非常に重要です。それでも、相手の病気や健康を揶揄することは、間違いなく人倫に悖る行為です。明らかに道義的観点から許されません。

とりあえず、例えば日本共産党 中央委員会政策委員長で参議院議員の小池晃さんの対応は適切だと思います。政敵であっても病気や健康は線引きをして、「アンタッチャブル」であるべきでしょう。別に日本共産党は好きじゃありませんが、この対応はフェアで妥当です。

安倍さんを批判するなら、せめて政策とか言動とか「真っ正面から」「正攻法で」挑んでください。病気や健康につけ込むのは「卑怯」極まりありません。

関係ない潰瘍性大腸炎の私まで、巻き込んで爆撃しないでください。難病に悩まされる私からの、せめてものお願いです。

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