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本とGoogleの同時服用による強烈なトリップ - インターネット時代における新しい読書の提案 -

インターネット時代だからこそできる体験の一つとして、Google Mapを利用すると本を読むことが旅行そのものになる、という面白い体験について紹介しようと思う。

さて、自分の現時点での最大の関心事は、もともと不条理で不公平なのが動物、そして人類であり、それを合理化、平等化すること自体が自己矛盾をはらむにも関わらず、それが推進されていく社会の行く末、増大するエントロピーのその先であることは、下記に一部書かれている。

知能という人類の能力のごく一部についてのみ評価される社会を、知能の低い側が後押しし、その結果として格差が開き、嘆くという古典的コメディのような展開を見せる今日このごろだが、その現象の最たるものが大国アメリカにおける”さまよえる貧困白人、すなわちプアホワイト”だ。ということで、今まさに下記の本を読んでいる。

アパラチア山脈の丘陵地帯、ケンタッキーのカウボーイの子孫として生まれた作者が、両親が拠点としたオハイオ州の鉄鋼城下町で育ちつつ、カウボーイたちだけでなく、北部的中産階級の白人たちまでもが没落していく様子を自伝ドキュメントとして描いている。

そこでは、白人たちがプアホワイトに没落していく過程が実際に特定の場所で、特定の出来事として描かれていく。その具体的内容や示唆をここで書くことは本質ではないが、その具体的な場所や出来事について、インターネット前であれば図書館に行って調べ物をしないと、その出来事についての複眼的な知識を得ることはできない。ましてや、場所となると旅行して行ってみないことには、自分の想像の領域を出ることはできない。

ところが、便利になったものである。今ではGoogleがここにある。

さて、作者が生まれ育ったオハイオ州のミドルタウンという街は、アームコという鉄鋼大手の本社と工場があったため、労働集約型の企業城下町として非常に栄えた。ところがアメリカが重厚長大型の製造業から転換していく過程でアームコは川崎製鉄(現JFEスチール)に買収されるとともに合理化という名の仕事・人減らしが進んでいく。結果、かつて栄華を誇った街の中心部は衰退していくことになる。本書では、

ミドルタウンの市街地は、アメリカの産業の過去の栄光を示す建物になりはじめたのだ。市街地の中心部、つまりセントラル・アヴェニューとメイン・ストリートが交差するところですら、窓ガラスが割られた廃店舗が列をなしている。

と書かれている。ここでGoogle Mapを開いて、オハイオ州ミドルタウンを検索する。検索窓に「ミドルタウン」とカタカナ入力するだけで、

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候補が出てくる。ミドルタウンがオハイオ州にあることは分かっているので上から2番目をクリックする。

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すると地図画面に変わり、ミドルタウンの全域が表示される。

そして、すぐに具体的なポイントを探しに行っても良いのだが、まずは上記画像の下、”ミドルタウン”と表示されている表示の下に並ぶボタンの中で”保存”を選択する。そして、”ミドルタウン”を自分のテーマに沿った保存リストの中にまず保存してしまう(上記画像はすでに保存されていることを示している)。そうすることで、いつでもそのポイントに戻ってくることができると同時に、なぜそのポイントを保存したのかという背景が分かるようになる(できれば保存リストの中でコメントも入れておく)。

スクリーンショット 2020-02-04 12.50.25

保存した内容は、Google Mapの”マイマップ”→”保存した場所”というメニューからいつでも呼び出すことができる。上記は自分が保存しているマイマップだが、参考になれば幸いだ。

https://goo.gl/maps/4MZC2jKBDMXpXpgKA

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さて、再びミドルタウンの地図に戻ろう。文章では「セントラル・アヴェニューとメイン・ストリートが交差するところ」とある。このどちらかの道を地図を拡大しながら探すことになる。ここは勘を頼りすることになるのだが、幸いにして上記の縮尺でも”セントラル・アヴェニュー”が分かるため、”メイン・ストリート”を探せば良いことになる。

自分はこう考えた。「セントラル・アヴェニューと交差する道で、それがかつての街の中心部であれば、道のメッシュがかなり細かく、かつ川に近いところにあるのではないか?」と。そこで、川に近いところ拡大していくと、

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”サウス・メイン・ストリート”という道が見つかった。”セントラル・アヴェニュー”との交差点も上記地図から分かる。さて、本にはさらに

空き店舗や、板でふさいだ窓が並ぶ目抜き通りからほど近いところに、ソーグ家の屋敷がある。ソーグ家は19世紀にさかのぼる有力で裕福な一族で、ミドルタウンで大きな製紙工場を経営していた。かなりの額を町に寄付し、地元のオペラハウスには一族にちなんだ名がつけられているほどだ。ミドルタウンがアームコを誘致できるほど立派な町になったのも、ソーグ家のおかげだと言える。

とある。こう書かれると、そのオペラハウスを見てみたくなる。それもできてしまう。Google Mapの”サウス・メイン・ストリート”上のそれらしいところを長押しすると、ストリートビューに変わる。

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右に見える重厚な建物がそれっぽいなと分かる。もう少し近づいてみよう。

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これがソーグ家の名がつけられたオペラハウスのようだ。Map上で確認するとたしかに”Sorg Opera House”とある。これもポイント情報としてコメントとともに保存する。

しかし、よく見ると寒々しい。ガラス窓越しに見ても部屋が活気のある状態に見えるどころか使われているようにも思えない。そして極めつけは入り口の看板にある”SAVE OUR SORG”, "Private & Corporate Donations Welcom”と書かれている。このオペラハウスはすでに運営どころか維持ができなくなっていて、寄付を募っていることが分かる。

さて、この背後を振り返って”サウス・メイン・ストリート”の反対側に目を向けてみよう。

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2軒の住宅が見える。しかし、人が住んでいる様子はなく、窓の奥は板切れなどが見え、朽ちかけているようだ。

同じ通り沿いには、その昔、ミドルタウンの全盛期に富裕層が住んでいたぜいたくな家がずらりと並んでいるが、そのほとんどが朽ち果てている。いまでも使わている建物といえば、ミドルタウンの最貧困層用に、建物のなかを区切って共同住宅にしたものばかり。ここは、かつてはミドルタウンが誇る通りだったが、いまや薬物依存者と売人の待ち合わせ場所になった。暗くなったら近づかない方がいい。

と書かれていることがどうやら本当だと分かる。

これは、本が好きな人間にとってはたまらない体験であるとしか言いようがない。作者が書いてあることについて彼我の対象にいる存在として受け止めるというのが今までの読書であったのが、作者の視点でそのまま追体験することができる、しかも自分の部屋の中でだ。

興味があれば”Sorg Family”についてGoogleで調べることもできるし、”サウス・メイン・ストリート”の空き家物件の実勢価格を見ることもできるだろう。本の中で書かれていた彼らの具象、僕らの抽象がの境目がなくなるということが、脳にとってどれだけエキサイティングなことであるのか。これは皆さんにも体験してもらう以外にない。


ぜひ、トライしていただきたい。そして、そういう人が増えたら体験を共有化する場などがあっても面白いのではないかと思う。

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