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想いの強さが資産の切り売りを招くインバウンドの不都合な真実 - 地方創生に不可欠なのは港区住民の下野 -

日本人が創り出せる世界は欧米や中国など大陸に住む人々と比べて小さいのかもしれない。それは絶対的な宗教観を持つ民族よりも小さいのかもしれない。

中国と日本の架け橋をやりたい、日本の素晴らしい商品を世界に広めたいからPRの支援をやりたい。インバウンド旅行客に対して日本の素晴らしい食や自然を体験してもらいたい。日本企業が中国に進出する際の支援をやりたい。

そういう人たちは沢山いる。

僕はそういった人々を極めて日本的な人々として捉えている。それは、PL(Profit & Loss:損益計算書)視点で物事を捉える人々のことだ。PLはある特定の(短く、一般的には年/四半期)期間における“出入り”を“フロー”として把握するももの見方のことだ。一番上には売上があり、その下には材料や商品の仕入れがあり、更にその下には宣伝や販売、場合によっては製造に関する費用がある。

場合によってはと書いたのは、PL志向の中でも、この“製造”に関する項目、”材料原価”、“減価償却”も含めて、ものづくりに関する項目について考える人が激減していると感じるからだ。

一方で大陸的な志向はBS(Balance Sheet:貸借対照表)が基準になる。BSは創業されてきた期間全ての集大成として最新の“価値”がそこに示される。そして、その“価値”を生み出すために、どれだけの“資産”を、どれだけの“投資”もしくは“融資“で生み出してきたのか、を把握することができる。

中国人の企業家と話をしていると、BSとPLの両輪で思考していることが良く分かる。それは陰陽の印のように表裏一体の概念であるということが当たり前のものとして捉えられているからだ。

中国人留学生が日本に来て生活をするにあたり、賃貸住宅に住むところを通り越して、住宅を買ってしまうというという考え方、日本人にはなかなか理解できないのではないだろうか。もちろん、日本に身元保証人がいなければ賃貸をすることも簡単ではないという事情もあるとは思うが、それだけで住宅を購入する決定的な理由にはならない。そして、住宅購入には家族の資金(資本)が拠出されており、そこには資本投下とそれに見合うリターンという、いわゆるBSとPLを両輪で考える意思決定を行なっているということになる。

日本からの中国進出、海外からのインバウンドの話を見ていていつも思うのはそこにBS的な考え方が介在せず、すでにある先人の努力の結晶としての資産を、他人にも関わらずいかに売っていこうかという考え方だ。

自治体のPRを行うためにオンラインのメディア選択とコンテンツの先鋭化をやることは間違ってはいない。日本企業の中国進出を行うにあたり、市場調査をし競争戦略を整理し、戦略のオプションを作ることも間違ってはいない。しかし、そこには誰かの資本・資産を、その他の誰かが売っていくという話でしかなく、その”価値“の源泉を今後も継続的にどう生み出していくのかについての議論とあまりに隔絶されている、もしくは議論そのものがされていない。

ある地方自治体をインバウンドによって活性化するためには、街の物理的もしくは資本的構造そのものをつくり変えることが最大のトリガーになるかもしれない。中国人が銀座からバックカントリーを目指すなら、海外からその街の林道へのアクセスを抜本的に変えることが最重要で、ともすればプライベートジェットを地元の空港に開放し、かつ通関フリーにすることが最重要課題かもしれない。

現場現場ではそういった話が出ているのかもしれない。しかし、現実化されないのは、新たな資本投下や既存の資産の再活用についてのテクニカルな議論ができていないのかもしれない。

こういった議論ができる人間はそれほど多くない。”価値創出“についての観点、”資本“についての観点、そして更には日本の地方への理解という“里山的観点”をミクロ視点で理解でき、かつマクロな絵を描くことができる人間はなかなかいない。

地方出身者の港区住人が下野することが重要だし、港区住人でなければないで、そういったスキルを、ある意味資本主義のドロドロの現場で身につけていかなければならない。

世の中、綺麗事だけでは進まない。

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