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夏時間/ユン・ダンビ監督

2021-04-21鑑賞

ユン・ダンビ監督の『夏時間』を見る。去年見たキム・ボラ監督の『はちどり』もそうだが、躍進著しい韓国の若い世代の女性監督の作品である。韓国と日本は、人々の暮らしにしても、またそこに広がる風景にしても、少し似て、また少し違う。彼らの映画から学ぶことは多い。
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空になったキッチンは玄関との仕切りも無く、立て付けも粗末に見える。父親の運転する小さなワゴン車に荷物が詰め込まれ、オクジュと年の離れた弟ドンジュは住み慣れたであろう「我が家」を後にする。食器棚など大きな家財は処分されるようだ。この周辺は再開発地区なのだろう。外からもわかるよう、主人のいなくなった集合住宅の外壁には大きなx印がついている。この『夏時間』という映画が、夏のバカンスを描いたそれではないのは明らかである。

だいぶ長い距離を走ったのだろうか。たどり着いた祖父の家は、古びた佇まいではあるが門構えもしっかりした一軒家だ。認知症気味の祖父が一人で暮らす家に、父ヒョンギは、娘オクジュと息子ドンジュを連れ、やや強引に転がり込む手筈のようだ。ヒョンギの妹(オクジュとドンジュから見れば叔母である)ミジョンは、どうやら夫とは別居を決め込み、彼女もまたこの家(つまりヒョンギやミジョンにとっては「実家」なのだが)に暮らすことになる。奇妙な「夏時間」の始まり。

予告編からも分かるように極めて繊細な映画である。この夏の時間の中では様々なことが起こるのだが、10代のオクジュの心の動きを描くのには程良い長さではある。物語は彼女の目線で描かれ、この3世代の家族の有り様は、彼女の理解の速度に寄り添いながらゆっくりと進んでいく。彼女は自分と弟を残して家を出た母親にわだかまりがあり、母に会いに行く弟につい強く当たってしまう。彼女には恋人がいるのだが、自分からはを彼女を誘おうとしない彼氏の存在に不安を持ってもいる。父ヒョンギは路上でスニーカーを売る商売をしている。正規の商品ではない。子どもには優しい父親だが、一方で母親が家を出た理由も徐々に見えてくる。その一方で、初めはよそしく接していた祖父とその古びた家に、オクジュは次第に親しみを感じるようになる。そんなある日…。

ポン・ジュノ監督の『パラサイト』のような映画が描いた世界と、このユン・ダンビ監督の『夏時間』の日常は地続きである。そしてこの現在の社会の「構造」とその歪みをより的確に、10代の女性の目線から捉えようとするところが、これら韓国の若い世代の映画の特徴ではある。今、見るべき映画のひとつ。

監督:ユン・ダンビ  
出演:チェ・ジョンウン | ヤン・フンジュ | パク・スンジュン

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