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トリとロキータ/ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌの「トリとロキタ」を見る。去年2022年のカンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を受賞している。

兄のジャン=ピエールは1951年、弟のリュックは1954年にベルギーで生まれ、共同で監督をしている。演出にも彼らのこだわりがあり、映画では主演のトリ(パブロ・シルズ)、ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)ともに演技初経験だ。

多言語国家のベルギーでは多くの移民が暮らしているが、トリやロキタのように大人の同伴者を伴わなないで「流れ着く」子どもたちも多いようだ。トリとロキタはボートで出会い、ベルギーのリエージュで「姉弟」として生きている。リエージュはまた監督のダルデンヌ兄弟にとっても出生地であり、だからこそこういう映画がリアリティを持って撮られたとも言えよう。冒頭のシーン、ロキタへの入管の面談は、トリと彼女が同じ孤児院にいて離れ離れになった「姉弟」であるとの主張は偽称だと判断され、不調に終わってしまう。そこからは堕ちていく一方である。

ビザが下りないハイティーンの「姉」ロキタは、ドラッグの「運び屋」として祖国で暮らす家族のために金を稼ぎ母親に送金をしている。いわゆる不法就労であり、密入国を取り計らうエージェントへの借金の返済もある。「弟」のトリは孤児である故に養護施設に収容され、逆にというか、つまりは「人道的な」配慮によりベルギーという国家に守られビザも発給され学校にも通っている。映画では「偽り」ではあれど「姉弟」として、互いが互いの「支え」として生きる無垢な二人の姿が描かれる。

「運び屋」の元締めは生業を隠れ蓑にしたカラオケ屋のオーナーで、イタリア料理を調理していることからイタリア人だと思われる(もちろEU内での移動の自由がある)。困り果て「偽造ビザ」の取得を願うロキタに、より過酷で危険を伴う大麻栽培の倉庫での仕事を斡旋する。監禁状態である。ビザさえあれば家族にもっと送金ができる…。とはいえ得られるとしてそれはハウスメイド程度の仕事であり、どう考えてもロキタの思考は破綻しているのだが、それでも彼女は小さなアパートを借りて、トリと一緒に穏やかに暮らしたいと願っている。

そもそもの「格差」を生んでいる植民地政策(映画の中でベナンと言ったような気がするが、彼らがフランス語を話すのは当然そういう理由である)以来の問題が「紛争」を呼び起こし、それはまた新自由主義経済システムでさらに過酷なものとなっている。安価な労働力として搾取され、一方で当然のように故郷の家族を支えるため、ひとり外国の地を彷徨わねばならない、そういう子どもたちの人権は建前に過ぎず、そしてまた私たちはそのことを知らないわけではない…。

監督のダルデンヌ兄弟の静かな「怒り」がひしひしと伝わる映画である。その話は私たちにとっても決して人ごとではないわけだが。今日5月5日は日本では「子どもの日」でもある。

監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ 他  
出演:パブロ・シルズ | ジョエリー・ムブンドゥ | アウバン・ウカイ

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