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【リバーズエッジ】しらけてないからっぽさ

岡崎京子の『リバーズエッジ』がとても面白かった。

ぼくはマンガについて詳しくない。少女漫画というと目がやたらキラキラしていたり、さえない女の子の周りをイケメンが取り囲んだり、BLだったりのイメージが強く、なかなか手を出せなかった。ひょっとしたら僕と同じような偏見を持っている人も多いかもしれない。

そんな人にこそおすすめしたいのが本作。
バブル期の等身大(たぶん)の女子高生の生活が描かれる1巻完結の作品だ。
当時の東京の「1軍」高校生の雰囲気がよくわかる。

日本が一番浮かれていた時代。ブランドのバッグや化粧品を手に入れたくてパパ活するクラスメイト、体型を維持するために食ったものを吐いているモデル、ゲイであることを隠して嫌々彼女とデートを繰り返す後輩など、主人公の周りはパッと見きらびやかな学園生活を送りながら、からっぽなやつしかいない。作品全体で空虚さが満ちている。

この空虚さがふとしたきっかけでほころびだし、後半悲劇が立て続けに起こっていく。ストーリーを一から説明しても、作品の良さの1%も伝わらない作品なのでとりあえず読んでとしか言えない。ただ作中に載っている詩のような断片が本作の雰囲気をよくあらわしているので引用してみる。

惨劇はとつぜん
起きるわけではない

そんなことがある訳がない

それは実は
ゆっくりと徐々に
用意されている
進行している

アホな日常
たいくつな毎日の
さなかに

それは——

そしてそれは風船が
ぱちんとはじけるように
起こる

ぱちんとはじけるように
起こるのだ

山田玲司のように、作品をすべて世代で区切って批評なんてしたくないが、「リバーズエッジ」に満ちている「からっぽさ」「むなしさ」はバブル期特有の雰囲気なのだと思った。登場人物はむなしさを感じながらも、あるいは目をそらすために、あるいは積極的に楽しむために、努力している。パパ活をし、ゲロを吐いている。

同時期に松本大洋の『ピンポン』を読んだ。この作品の舞台はバブル崩壊後の神奈川の高校だ。主人公は努力を馬鹿にし、教師に「帰れ!」と怒鳴られたら本当に帰ってしまう。徹底的に「しらけてる」。どうして生きるのかとか、人生のむなしさみたいな問い自体が欠けている。『リバーズエッジ』の女の子よりやばい状態だと思った。

翻ってぼくらの世代や現代の子どもたちはどうなのだろうと考えてみた。もっと素直になっている。大人の言うことをきちん聞き、社会的な正義・ルールに従順になっている、のかもしれない。

「自分たちが社会を変える」(学生運動期)

「何をやってもむなしい」(80年代~90年代前半)

「そんなの考えるだけ無駄」(90年代後半~00年代)

「決まったルールに従う」(現在)

若者の空気感が上のように変わっていったのか、この若者の従順さのカウンターとして昭和の吊し上げが起こっているのか、などいろいろ考えてしまった。

後半蛇足な感想を書いてしまったが『リバーズエッジ』(『ピンポン』も)は時代の空気感をあらわした傑作だ。ぜひ手に取ってみてほしい。



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