一知(かずとも)/編集者

教育雑誌の編集者やってます。 大学から哲学と宗教学を学んでます。 生きている意味がわ…

一知(かずとも)/編集者

教育雑誌の編集者やってます。 大学から哲学と宗教学を学んでます。 生きている意味がわからなくなったとき 学問に救われました。 noteでは学ぶ楽しさ、日々の出来事、本の紹介などを中心に。

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小林秀雄がグッと読みやすくなる3つのポイント

ぼくの記事によく出る批評家・小林秀雄。 「生きてる意味がわからなかったらどうしますか。 そんなことを教えてくれない学問は学問でないね。」 小林秀雄(1902-1983) 日本の近代批評の確立者と言われ、一時期の文学界を引っ張った人。 一方で受験国語で学生を悩ましたせいか 「悪文野郎!」とか 「なに書いてるのかわからん!」 と罵られる作家でもある。 ぼくは高校のころからあこがれて読んでいたのですが、正直かっこいい文章にひかれて無理して読んでただけで、理解してませんでした

    • 中学受験はすべきか

      2024年中学受験者率が最多を更新した。 少子化が進む中で、中学受験は依然として注目を集めている。 理由としては、1人っ子世帯が増えて子ども1人あたりにかける金が増えたこと、リーマンショックレベルの不況が来ていないことなどがある。 ぼくは中学受験にはずっと否定的だった。理由は単純で「小学生のうちに学ぶべきことは走って、転んで、痛いと思うこと」だと信じているからだ。知識の暗記なんて中学、高校になってからでよい、そう思っていた。しかし教育系の仕事もしていく中で、考えが少しずつ

      • 【リバーズエッジ】しらけてないからっぽさ

        岡崎京子の『リバーズエッジ』がとても面白かった。 ぼくはマンガについて詳しくない。少女漫画というと目がやたらキラキラしていたり、さえない女の子の周りをイケメンが取り囲んだり、BLだったりのイメージが強く、なかなか手を出せなかった。ひょっとしたら僕と同じような偏見を持っている人も多いかもしれない。 そんな人にこそおすすめしたいのが本作。 バブル期の等身大(たぶん)の女子高生の生活が描かれる1巻完結の作品だ。 当時の東京の「1軍」高校生の雰囲気がよくわかる。 日本が一番浮か

        • 「個性」とは人と違うということではない

          個性の尊重が加速している。 教育でも1人ひとりの個性を伸ばそうと言われ、テレビでも「個性的」なアイドルや芸人が注目を集める。 ほんとにどこもかしこも意味もわからずに個性だ個性だと叫ばれている。 しかしぼくには世間で使われている個性が受け入れられない。個性は奇抜なファッションでも、特異な容姿でも、持って生まれた才能でもない。人と接し、自分を見つめ、養っていく何かである、と思っている。 理屈っぽく言えば、個性とは他人と違うことではない。私とあなたは違う、にもかかわらず、私

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        小林秀雄がグッと読みやすくなる3つのポイント

          なぜ日本人はルールをきちんと守るのか

          日本人は規則(特に法律)に従順だとよく言われる。批評家・柄谷行人は『思想と地震』の中で「日本人はなぜデモをしないのか」(以降「なぜデモ」)という講演録を載せている。デモ参加を呼び掛ける柄谷については批判も多い。しかしこの講演は初期の豊かな文学性はないにしても、「なるほど日本ってそうとこあるかも!」と思ったので紹介する。 ◆義務教育がある本当の理由 義務教育って意外に学者から批判されている。たとえばフランスの哲学者・ミシェル・フーコーは義務教育を、一か所に長時間座る習慣を叩き

          なぜ日本人はルールをきちんと守るのか

          コロナ後だからこそ観てほしい「デビルマン」

          ネットフリックスで2018年に配信されたアニメ「DEVILMAN crybaby」(全10話)を今更ながら観た。考えさせられることが多くとてもとても面白かった。特に9話はスシローで寿司食いながら観たのだが、途中で号泣してしまい、周りから変な目で見られた。 この作品のためだけにネットフリックス契約してもよいのではと思ったくらいなので、今回はデビルマンの魅力と考えさせられたポイントを紹介する。少しネタバレをしてしまうので嫌な方は読まないでください。 ◆悪魔=悪/人間=善? あ

          コロナ後だからこそ観てほしい「デビルマン」

          死と再生の年、27歳。

          今月末に28歳になる。僕の憧れる人たちは27〜28歳の頃、何をしていたのだろうと興味があり調べた。 ◆ピュアな27クラブ音楽だと「天才は27歳で亡くなる」という嫌な都市伝説が見つかった。僕が学生時代にコソコソ聞いていた、カートコバーンや尾崎豊、ジムモリソンなどは27歳前後で亡くなっている。もちろん27歳を過ぎて活躍する天才歌手なんてざらにいるが、「27クラブ」とくくられるくらいアーティストの厄年のようである。 僕自身を振り返ってみると、まだ生き方を決めかねてウジウジしてい

          死と再生の年、27歳。

          【柄谷行人】リアルをつかむのは難しい

          柄谷行人の『意味という病』がとても面白かった。実はだいぶ前から買っていたのだが、難しくて積んでいた。ふと取り出して収録作「夢の世界」から読んでみたところ、本全体に一貫したテーマがつかめて一気に読めた。今回は初期柄谷の傑作を紹介する。柄谷に興味ある人、批評に興味がある人には参考になると思う。 ◆「意味」とかいうからムズかしいんだよ 「それってどういう意味?」など「意味」は日常的に使われる言葉だ。だが柄谷の「意味」の使い方は独特だ。これさえつかめれば『意味という病』決して読めな

          【柄谷行人】リアルをつかむのは難しい

          「考える葦」は誤解されている

          無宗教な人間が宗教を学ぶ意味はあるのか? ぼくのメインテーマの1つだ。この問いの手がかりになる哲学者がいる。 ブレーズ・パスカル(1623年 - 1662年)である。 今回はパスカルの遺稿をまとめた主著『パンセ』の最も有名な断片「人間は考える葦」から現代で宗教を学ぶ理由を考える。 ◆人は考えるから尊い? 「人は葦(草の一種)のように弱い。けれども考える力があるんだ!」これが一般的な「考える葦」の解釈だろう。ヒューマニズムに溢れて力強い。しかしぼくの記事でよく登場する御大

          「考える葦」は誤解されている

          聞き手が必要な文系、いらない理系。

          文学部不要論、エビデンス主義、ひろゆき……。ここ10年のいくつかの流行は文系(人文知)の軽視で共通している。今日は文系がなめられきった時代だ。なぜこのような事態になったのか。今回の記事では「聞く」に注目して考える。 ◆人文学者のむなしい抵抗人文知の凋落に文系研究者は様々な発言をしてきた。たとえば以下のように。 「文系はビジネスに役立つ」 「人文知を知っているとかっこいい」 「馬鹿は文系の味わいを知らない」 「文系こそ個人の葛藤をすくい上げられる」 ざっくりまとめると、①

          聞き手が必要な文系、いらない理系。

          ☑2022年に読んだ本を振り返る

          明けましておめでとうございます。 更新がのびのびになってしまったが、昨年の1年の読んだ本を振り返るところから始めたい。 毎度のことだが、それぞれにコメント入れると膨大になるので、星5段階でよかったか判断する。 基準としては下記の通り。 好みなのであくまでご参考までに。 ★★★★★:絶対おすすめ! ★★★★☆:読んで損なし ★★★☆☆:あんま覚えてないけどそれなりに面白かった ★★☆☆☆:読まなくていい ★☆☆☆☆:不快 ◆1~3月★★★★☆ ★★★★☆ ★★★★★

          ☑2022年に読んだ本を振り返る

          【遠藤周作】弱く、臆病な文豪。

          「母を裏切らなければ殺す」と言われたら皆さんはどう答えるだろうか。いわゆる思考実験をぼくは好きじゃないが、あえて聞いてみる。ぼくだったら、程度によるが、まあ裏切れない。 ただスパッと終わらしてくれるならいいが、拷問なんてされたら、すぐに答えを変えるだろう。「ごめんなさいムリですたすけてください」と泣き叫ぶだろう。それだけぼくは弱い人間だ。 大作家と自分を比べるのもおこがましいが、遠藤周作も似た答えをする人だったと思う。そしてその弱さの自覚、恥ずかしさ、みっともなさが彼の思

          【遠藤周作】弱く、臆病な文豪。

          【深い河】遠藤周作の到達点

          遠藤周作の『深い河』がとても面白かった。『沈黙』と並んで作者の長年抱えていた宗教的問題を描き切った主著。 『深い河』は5人の日本人がガンジス川に観光する話。あらすじだけ書くとちっとも面白そうじゃない。だが遠藤がどんな思想を持ち、どんな思想と戦ったのかを読み解くとしみじみと考えさせる傑作だ。 中でも、成瀬美津子と大津という2人の会話に遠藤の悩みの核がある。今回はこの2人の会話を中心に作品の面白さを紹介してみたい。 ◆口下手なクリスチャンのモノローグ美津子と大津はキリスト教

          【深い河】遠藤周作の到達点

          なぜ司馬遼太郎は「思想」を嫌ったのか

          1928年生まれの心理学者・河合隼雄は「精神という言葉が嫌になり、科学や合理主義に飛びついた」と発言していた。これが終戦時20歳前後だった若者の共通した感覚だったのだろう。なぜ司馬遼太郎は「思想」を嫌ったのか。結論を先に言えば、太平洋戦争を阻止するどころか、積極的にコミットしていった当時の言論・思想界への苛立ちからだと思う。今回はこの辺を深掘りする。 ◆司馬遼太郎のモチーフ司馬の執筆の動機は「22歳の自分への手紙」だったそうだ。 司馬は22歳のとき終戦を経験している。軍隊

          なぜ司馬遼太郎は「思想」を嫌ったのか

          【世に棲む日日】司馬遼太郎を久しぶり読んでみた

          司馬遼太郎の『世に棲む日日』を手に取った。 吉田松陰と高杉晋作が主人公のいわゆる「幕末もの」。 「司馬遼太郎ほど大衆に愛され、知識人から軽視されている作家はないであろう」と司馬っぽく言ってみる。 半世紀前の大衆小説が今も読まれていること自体スゴいことだが、読者層も20代から70代まで幅広い。ビジネスパーソンを中心に熱烈な信者がいる一方で、専門家からは独特の「史観」に疑問も寄せられている。 と、まあここまではよく聞く紹介。 確かに司馬の小説は、 ・誇張表現が多い。 ・出典

          【世に棲む日日】司馬遼太郎を久しぶり読んでみた

          【ピュエット】人間らしく生きる「かのように」の考え方

          マイケルピュエットの『ハーバードの人生が変わる東洋哲学: 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』という本が面白かった。マーケティングを意識しすぎた酷いタイトルだが、現代は"The Path"。「道」だ。東洋哲学の中でも主に儒教と道教を紹介しており、仏教と墨子はやや切られ役。 中国哲学の研究者、中島隆博がすすめており手にとった。ハーバードの講義をもとにした本であり、抽象的な話は極力省かれ、身近なたとえが多く気軽に読める。孔子や孟子って説教臭そうだけど、何が魅力なの?と疑問を持

          【ピュエット】人間らしく生きる「かのように」の考え方