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#20 LOOP BLAKE 第2章 腐れ縁 第7話「霊段階3・天狩鉤爪」
アメリカ合衆国のシカゴ都市、このアメリカ有数の大都市では決して何が起きてもおかしくはない。特に伽霊能力という摩訶不思議な能力が人類のパワーバランスを完全に壊してしまった“この世界”ではーーーー
ガンッ!!
道路のド真ん中で四人の適能者達がそれぞれ1対1で闘い合っていた。
肩まで伸びている青髪をたなびかせジーンズ生地の服を着ている日本人の中学生、藍川竜賀は右手に刀の納まった鞘を持ち立ち上がった。
竜賀「ふぅ……鎖付きの鎌か…しかも2つ、二刀流とはね…」
褐色の肌をして顔の右半分に刺青が入っている男が痛めた左手を庇いながら武器である鎖鎌を拾い上げた。
ジェイコブ「……ヒヒヒッ……」
竜賀「ん?」
ジェイコブ「…ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……」
竜賀「…どうした?何か可笑しいことでもあったのかよ?」
ジェイコブ「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ…ヒーーッハーーーッハッハッハッハッハッハッ!!!!!」
竜賀「!?…頭でも狂れちまったのか?」
ジェイコブが天を仰いで大声で高笑いしている姿を見た竜賀は刀をゆっくり構えながら怪訝そうな顔で見ていた。
ジェイコブ「ハッハッハッハ!!!死ねえええええええぇぇぇぇぇ!!!!」
ジェイコブが高笑いから一変して殺意剥き出しの顔に変わると、持っていた鎖を引き上げる様に振り回し始めた。竜賀の背後から鎌が引っ張られる様に飛んで来るのを紙一重で躱し、身体を捻りながらジェイコブと距離を取って次の攻撃に備えた。
ジェイコブ「テメェ!!何!!俺の!!体に!!攻撃!!してんだボケェ!!!」
ジェイコブは明らかに冷静さを失った口調で鎖を両手で振り回し、両端に付いた鎌で周囲を手当たり次第に斬り続けていた。
ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガガンッ!!!ガガガンッ!!!
竜賀「…!?…!!…!!」
竜賀は荒れ狂う2つの鎌の動きを目で追おうとキョロキョロし始めたが、鎌は長い鎖で操られている為目で全てを追うには限界があった。
しかしここで竜賀は1つ大きく深呼吸をして、自分の父親の言葉を思い出した。ーーーーーー
ーーーーーーモートレートタウンのモーテルの庭にて
光男「だーーかーーらーー違うって言ってんだろうが!」
木刀を持て遊びながら地面に横たわっている竜賀に向かって父・藍川光男は言葉強めに言った。
光男「何でそうやって俺の武器の動きばっかり目で追っかけようとしてんだ!違うんだって!真に見るべきなのは武器じゃなくて、敵の身体の動き全体をしっかり観察するんだ」
竜賀は刀を拾い上げながら、ゆっくり父親に向かい合った。
竜賀「ゲホッ!コホッ!……だからっていきなり人の腹蹴っとばしてくるか!?ズルいぜ!?」
光男「アホか?本当の戦場行ったらズルも卑怯も無いんだよ!敵はどんな手を使ってでもお前を殺しにくるんだよ!隠し玉、秘密兵器、秘策、力技、奇策、奇襲、そういったモンに全部対応出来なきゃ死ぬ!それがやったモン勝ちの戦いなんだ!」
ビュオッ!!!
光男「!?」
竜賀は光男の顔目掛けて不意を突く様な刺突を放とうとした。しかし、光男はこれを軽く躱し竜賀の背中を掴んで投げ出した。竜賀は完全にバランスを崩され地面に転がった。
竜賀「はぁ…はぁ…はぁ…」
光男「…………竜賀……剣道の基本を何で実戦で忘れてるんだ?」
竜賀「……!」
源太「剣道の?基本?」
光男「……別に技術にあれこれ言えはしないが……一番本番で大切なことだと!口を酸っぱくして言ってきたことだ!」
源太「…?」
竜賀「………遠山の目付け…」
光男「そうだ!」
竜賀が思い出したことを呟いたら光男はよしよしと言わんばかりの顔をしながら頷いていた。
源太「エンザンの…メツケ?なんなのそれ??」
竜賀「剣道の初歩の初歩……戦いに挑む際の精神状態を示すんだ」
光男「そう……戦いにおいて一番やってはいけないことが敵の攻撃や武器“だけ”を見過ぎてしまい、敵の動きや周りの状況が見えなくなってしまうことなんだ」
光男は木刀をもて遊びながら源太に説明をしていた。
光男「周りが見えてないと下手すれば仲間を攻撃してしまったり、戦いに関係ない人まで巻き添えにしてしまいかねない。実戦はお行儀の良いスポーツじゃないんだ」
光男は再び木刀を構え直し竜賀に向かい合った。
光男「竜賀……お前が今身に付けている剣の技はお前の身を守る為の物でもある。自分の身は自分で守らなければならない」
竜賀はゆっくり立ち上がって刀を光男に向け構えを取った。
光男「でもその為に関係の無い人達を多く犠牲にして良い訳じゃない」
光男は竜賀の目を真っ直ぐ見ながら言い放った。
光男「竜賀…お前の戦いは決して負けてはならない戦いなんだ!ーーーーー」
ーーーーーー走馬灯の様に見えた稽古の風景が、竜賀の精神状態をフラットにした。竜賀はまるで遠くの山を見る様に視野を広げることで、ジェイコブの身体全体、そして武器全体の動きを視界に収めることができた。
竜賀(……見える!!これなら…!!)
ジェイコブ「何ナメたツラしてんだコラァァァ!!!!!」
鎖を振り回し端に付いた鎌を竜賀目掛けて飛ばして来たのを光男は息をのみながら見守っていた。
光男(竜賀……解ってるよな…平常心だぞ!)
ビュオン!!!ビュオン!!!
鎌は竜賀を狙った動きで飛んで来るかと思いきや、2つの鎌は竜賀にさらりと躱されてしまった。
光男「…よし!!」
ジェイコブ「な!!?」
竜賀「………」
竜賀は眉1つ動かさず鎌と鎖、そしてジェイコブの動きを見ていた。ジェイコブは竜賀の表情に激昂し、伽鍵礼符を2枚取り出した。
ジェイコブ「だったらそのムカつくツラをソッコーで絶望に塗り潰してやるよ!!この俺の最強コンボでなぁぁ!!!」
ジェイコブの2枚の伽鍵礼符が光り出したかと思いきや2つの鎌が目にも止まらぬ速さで高速回転しながら宙に浮いていた。
キィィィィィィィィィィィィィン!!!!
空気を引き裂く様な音を立てながら高速回転をする鎌は、不気味な動きをしていた。
ジェイコブ「ヒヒヒヒヒヒヒ……これが俺の最強コンボ…その名を『音速切弾』だ!!」
竜賀「お名前だけはご立派なことで」
竜賀は吐き捨てる様に言い放った。
ジェイコブ「その生意気な口、一瞬で聞けなくしてやんよォ!!!」
キィィィィィィィィィィィィィン……シュッ!!!
鎖を投げ縄の様にグルグル回して鎌を投げたかと思えば、鎖が元の長さより数倍の長さになって伸びてきた。
ジャラララララララララ!!!
光男「竜賀!!」
蛇の首の様に伸びてきた鎖鎌は目にも止まらむ速さで竜賀の首を目掛けて飛んで来た。しかし竜賀はそれをあっさり上体を前に屈めて難無く避けた。
竜賀「ん」
ドガアァァァン!!!!
ジェイコブが投げた鎖鎌は背後にあった建物のコンクリートの壁を轟音を立てながら貫通した。
ジェイコブ「シット!!!」
竜賀「なんだよ……こんなモンかよ?……テメェの全力ってのは…?」
竜賀の身体から放たれる冷たいオーラの様なものが周りの空気を一層張り詰めさせた。ジェイコブはその雰囲気に押されジリっと一歩足を引いた。そのことに自分で気付いたジェイコブは激しい感情に支配された。
ジェイコブ「!!?………面白ぇ……この俺をここまでコケにしたのはボス以来だぜ…!!!」
また鎖鎌を振り回し始めたジェイコブは語気を荒げて暴れ回った。回転しながら宙を飛ぶ2つの鎌は手当たり次第に周囲の壁や金網や物を切り刻んでいた。
竜賀はその状況を眉1つ動かさず、ジッと見つめていた
竜賀「…………」
ジェイコブ「……何なんだよ…その目は…?」
竜賀「………」
ジェイコブ「…そのナメた目が一番ムカつくんだよ!!!」
竜賀「いちいち戦闘中に五月蝿い奴だな……もっと黙って闘いに集中しないのか?」
竜賀のこの言葉が引き金となり2つの鎌が再び竜賀に襲いかかった。ーーー
ーーーーもう一方で褐色の肌に黒いクシャクシャの髪をした13才くらいの少年、猿渡源太もトンプソン兄弟の双子の兄グレイブ・トンプソンと対峙していた。
グレイブ「腕に多少自信があるからって過信してたら死ぬことになるぞ?」
源太「お前がな」
源太は棍を構えながらグレイブを挑発していた。グレイブは右手の霊媒印から伽鍵礼符を取り出し、ニヤニヤしながら源太を見ていた。
グレイブ「クククク……この礼符が発動したらお前の負けはあっても俺の負けはなくなる」
源太「…防御礼符か…!?」
グレイブ「ご名答、『六芒星の輝き』発動!!」
グレイブはそう唱えるとグレイブの周囲にキラキラと光り輝き出した。源太はそれに全くお構いなしに突っ込んでいった。グレイブの胸を目掛けて源太は棍で刺突を放った。
バチィィィッ!!!
源太の棍は強烈な音と共に火花を散らして弾き飛ばされた。源太はバランスを崩して後によろめいた。
源太が急いでグレイブを見ると、グレイブの胸の前にお盆くらいの大きさの六芒星が光り輝きながら宙に浮かび上がっていた。
源太「それが…」
グレイブ「そう……これが俺の霊段階3『六芒星の輝き』だ……これが発動すれば霊段階6以下の伽霊能力を完全に遮断することができる」
源太「だったら…!!」
源太はグレイブに攻撃を加えようと横に、縦に、斜めに棍を振り回して殴打した。しかしグレイブ全く意に介していない様にその場から一歩も動かず源太の攻撃を腕組みしながらニヤニヤして見ていた。
何十発も攻撃をしても光の盾で防がれた源太はさらに伽鍵礼符を出し、礼符の能力を発動させた。
源太「こいつで…どうだッ!!!」
次の瞬間源太の口から火炎弾が無数に飛び出し、グレイブに向かっていった。
ダダダダダダダダンッ!!!!!
しかしグレイブの目の前に光の盾が立ちはだかり火炎弾が連続で防がれた。
火炎弾で発生した黒煙がグレイブの周囲を覆い、源太の姿が見えなくなっていた。
グレイブ「…ゴホッ……ヘイ!どうした?これで終わりってか?クソガキ!!」
源太「んな訳ねぇだろ!!」
グレイブの頭上からそう叫ぶ源太の声が聞こえ、その直後グレイブの背後から再び源太の攻撃が飛んできた。
バチィッ!!バチィッ!!バチィッ!!バチィッ!!バチィィィッン!!!
源太「〜〜〜ッ…クソ!!」
グレイブ「ククククク……この六芒星の輝きは前後左右上下全方位完全自動防壁なんだよ…どんな攻撃も奇襲も受け付けねぇんだよ」
源太「畜生……!!」
光男「それはどうかな!!」
源太とグレイブの戦いも見守っていた光男がグレイブに向かってそう言い放った。
グレイブ「どういう意味だ…?」
光男「俺が見る限りその盾の弱点は霊段階7以上の伽霊能力を防げない以外に!最低2つは弱点を俺は見つけたって意味だよ!!」
グレイブ「!!?」
源太「おやっさん!?それマジで!??」
光男「ああ!…源太その弱点を見つけて突け!!できなきゃソイツに殺されるだけだ!!この難関を自分で乗り越えろ!!」
源太はその言葉を聞くとグレイブに向かい、光の盾の弱点を探し始めた。
グレイブ(……光男…たったこの数撃の間に俺の六芒星の輝きの限定条件に気付いたってのか…!?…まさか!ハッタリに決まってる!!)
光男に肩を貸してもらいながら立っていたエリックが、光男の言葉を聞きながらも不安そうな顔で戦いの様子を見つめていた。
エリック「おいアンタ…本当にグレイブに弱点があると思っているのか?」
光男「ん…もちろんですよ…強力な能力ほどその反動や使用条件が必ずあるものなんです…ま、大抵の場合はその弱点に目が行かず、利点ばかりに目が行きがちなんですけどね」
エリック「光男…アンタ一体…?」
光男「ただの通りすがりですよ」
光男とエリックの会話を他所に源太はグレイブの弱点を探る為の策を練っていた。
源太(弱点ってなんなんだ!??だって俺の攻撃全然効かないから、一歩も動かずに突っ立ってるんだぞ?!!………ん??そういえばグレイブ何でさっきの攻撃で全然動かなかったんだ??)
源太はグレイブがこっちに向き直っているのを見て頭の中に引っ掛かっている1つの可能性に希望を見い出そうとした。
グレイブ「どうした?もう詰んだか?ギブアップしてタオルでも投げるか?」
源太「まさか……アンタこそ良いのかよ?こっちの攻撃はアンタに効かなくても、アンタは攻撃して来なけりゃ霊力切れを待つしかできないぜ?」
グレイブ「……それもそうだな……だったらそのお言葉に甘えてこっちも攻撃を仕掛けさせてもらおうか?」
グレイブは右手から別の伽鍵礼符を取り出した。礼符が輝き出し消えると、グレイブは左手を突き出し源太に狙いを定めた。
グレイブ「“十字架御免”!!」
グレイブの左手から十字の光が現れ、十字の交差箇所からレーザービームが源太目掛けて真っ直ぐ飛んで来た。
ドカァァァン!!!!!
源太が避けた光線は後の壁に直撃した時、皮膚が焼ける様な光熱を放ちながら大爆発を起こした。
源太「カハッ!!?」
背中が熔けたかと思える様な高熱を感じながらも、受身を取りながら立ち上がり攻撃の構えを取った。
源太「はぁ…はぁ…はぁ…さっきホテルのガラスを吹っ飛ばしたのも、このレーザービームか…」
グレイブ「正解…」
源太「防御はさっきの光の盾でやって、攻撃は今のレーザービームでするって訳か…」
グレイブ「クククク…俺のこの戦い方は攻守共に一切の隙を敵に与えねぇ」
源太は棍を握り直し頭の中でグレイブの攻略法を練っていた。
源太(グレイブの攻撃が遠距離・中距離型のレーザーである以上下手に距離を置けば奴の思うツボだ……だったら!!)
ダンッ!!!
源太は地面を思い切り蹴りグレイブに突っ込んできた。グレイブが近付いてきた源太に右手を向けるとまたレーザーを撃ってきた。
源太はそのレーザーが当たりそうになる直前で宙に飛び上がり、グレイブの背後に着地した。すると源太は棍を地面に向けて振り下ろした。
源太「オオオオオオリャァァァァァァ!!!!!」
ドガンッ!!!
源太の棍は地面に叩きつけられると、物凄い衝撃を起こしながら地面に大きなヒビを入れた。
グレイブ「うお!!?」
グレイブは自分の足元の地面にヒビが入り足場が崩れていくと、身体のバランスを崩してしまい膝を地面に着いてしまった。
グレイブ(しまっ!!!!)
源太「今じゃァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
棍を振り回しながら絶叫する源太が、確実に仕留める射程距離内にグレイブを捉えた。
源太「うおおおおおお!!!」
グレイブ「ウワァァァァァァ!!?」
ガンッ!!!
源太の渾身の一撃は、グレイブの頭から鈍い音を響かせた。グレイブは身体をフラフラさせて千鳥足の様になっていた。
光男「あんな攻撃を頭に喰らっても、ノックアウトできないのか……適能者ってのはマジでタフだな…」
エリック「あの小僧…本当にあのトンプソン兄を倒しおった…」
光男「そりゃそうですよ…みっちり稽古してきましたから」
エリック「光男さんだったか……なぜあの小僧はトンプソン兄のバリアーを破ることができたんだ?」
光男「ん?……いや、そんなに大したことじゃないですよ…グレイブ・トンプソンはあの六芒星の輝きを使っている間一歩もその場から動かなかったんですよ」
エリック「でも、それは…攻撃を避ける必要がなかっただけなんじゃ?」
光男「でも背後からの攻撃まで全く動かないなんて余りにも無防備過ぎるんですよ。相手がもし霊段階7以上の攻撃を背後から仕掛けられることがあったら対応できない。だから念の為に背後に振り返る必要があるはず」
エリック「確かに……」
光男「なのにグレイブはその場から動かなかった…でもそれはグレイブに余裕があったんじゃなくて、グレイブの光の盾は一歩でも動いてしまうと盾の効果が発動しなかったからなんです」
エリック「そういうことか!動かなかったんじゃなく、動けなかったのか!」
光男「そういうことです」
エリック「それじゃあ、もう一つのあの盾の弱点ってのは…」
光男「ああ、それは全然大した弱点じゃないので……グレイブが言ってたのは『霊段階6以下の伽霊能力を完全遮断』って言ってた…つまり伽霊能力ではない未適能者の物理攻撃は絶対止められないってことですよ」
エリック「そんな弱点が……」
光男「源太はその二つの弱点の内、一つ目の一歩も動けない弱点に気付いてグレイブの懐に飛び込んで背後から足場を崩して光の盾を発動できなくして、その間に攻撃を加えたってことです」
エリック「…凄い……」
光男「そんなに凄いことでもないですよ……普段の稽古の時から教えてきていることです…『相手の能力ばかりを見るな、よく観察しろ、相手の行動・癖・言動の中にきっと攻略法が眠っている』ってね」
エリック「光男さん…アンタ一体…」
光男「エリックさん…まだ戦いは終わっていませんよ…まだ竜賀がジェイコブと戦っています」
エリックはその言葉を受け、竜賀とジェイコブの戦っている場所に目を向けた。
そこには鎖に繋がっている二つの鎌を宙に浮かべ連続して竜賀目掛けて投げつけていた。
ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!
しかし、先程から物凄いスピードで投げつけているはずの鎖鎌を竜賀はヒョイヒョイと刀も使わずに簡単そうに避けていた。
ジェイコブ「クソ!!クソ!!クソ!!クソ!!何でテメェは俺の攻撃を全部避けられんだ!!?俺の音速切弾の最高速は音速に匹敵するんだぞ!!!」
竜賀「愚痴なら負けた後あの世で兄貴と仲良く言い合ってろ」
竜賀はそう言いながらゆっくりとジェイコブに気付かれないペースで近付いて行っていたのを光男は見逃さなかった。
光男「エリックさん!竜賀の位置をよく見てみて下さい…!徐々に相手に近寄って行ってるでしょう?」
エリック「ええ…ジェイコブの攻撃を避けながら、なのにいつの間にか距離がさっきまでよりかなり縮まってますね!?」
光男「そう!あれはすり足と言って日本の武道特有の歩法の一つなんです!」
エリックは光男が息子の成長を間近で見れて嬉しそうな声で説明してくるのを感じながら光男の説明を聞いた。
エリック「スリアシ?」
光男「ええ!地面に足の裏を滑らせる様に移動するので、相手に気付かれずに接近したり距離を取ったりすることができます」
エリック「それも攻撃を躱しながら…」
二人がそんな会話をしているのが耳に入っていない竜賀は、攻撃を冷静に躱しながらジェイコブとの間合いを詰めていった。
ジェイコブ「何スカしてやがんだ!!」
竜賀「……?」
ジェイコブ「テメェのその顔!!その目!!俺を全く怖くねェって完全に舐め腐ってる目だ!!」
竜賀「何だよ?自分より年下のくせに強い奴がこの世界にいるのがそんなに許せねぇのか?」
ジェイコブ「うるせぇ!!黙れッ!!年下だろうが!!無適能者だろうが!!俺を舐めた目で見る奴は!!誰だろうが!!ブチ殺してやる!!」
ジェイコブはそう言って鎌を振り回しているが明らかに最初よりも攻撃が竜賀に見切られていた。
竜賀「そうやって簡単に挑発に乗って頭に血が昇るから……簡単に敵に懐を許してしまうんだよ…」
ジェイコブ「何だと!?」
竜賀そうだけ言い残して、左手で持っている刀を居合の様に素速く構えた。
ーーーー次の瞬間ーー
ザンッ!!!
一瞬だった……たった一瞬で勝負が決してしまった。
竜賀は5メートル強の距離から目にも止まらぬスピードで間合いを詰め、ジェイコブの懐に飛び込み右斬上げをかました。
ジェイコブ「………な……何が…」
ジェイコブは一体何が起こったのか、自分が何をされたのか、理解が追い着いていなかった。ただ気が付いたら鎖が目の前で斬られてバラバラとなっており、自分の身体から血が吹き出ていたことを認識した。
ジェイコブ「ーーーッハアァァ!!!はぁ…!はぁ…!はぁ…!」
竜賀「決着はついた…!!武器を降ろせ…!!これ以上の闘いにもう意味は無い!!」
ジェイコブ「はぁ…はぁ…はぁ…ハッ!!な、何…言ってやがる…小僧…!!俺はまだこうやって武器を握れるぜ…!!」
竜賀「退がれ…もう闘いは終わったんだ!」
ジェイコブ「終わってねぇよ……!!これはお行儀の良いスポーツじゃねぇ…正真正銘の殺し合いだぜ…?どちらかが死ぬまで決着はつかねぇんだよ」
竜賀「退がれって言ってるんだ!!!もう次は間違無くお前は死ぬんだぞ!!!」
ジェイコブ「うるせぇ!!!餓鬼に負けたまま終わるくらいなら死んだ方がマシだッ!!!」
そう叫ぶとジェイコブは持っていた鎌の内一つを竜賀目掛けて投げ飛ばした。
ジェイコブ「“音速切弾”!!!」
竜賀は足元に飛んで来た鎖の切れた鎌を宙に跳んで躱した。
ダンッ!!
竜賀がジャンプで5〜6メートルの高さに跳んでいるところを、ジェイコブはもう一つ握っていた最後の鎌を投げた。
ジェイコブ「ヒヒヒヒハァーーー!!これでテメェも終わりだな!!空中に飛んじまったら俺の“音速切断”は絶対躱せねぇ!!俺を馬鹿にしやがったことをあの世で後悔しやがれ!!!」
エリック「終わった…!!空中じゃあの小僧に攻撃を躱せない……!!!」
光男「エリックさん、大丈夫ですよ…竜賀にはまだ切り札があります」
心配そうに見守るエリックは光男に問いかけたが、光男は息子を信じ切っている表情で見ていた。
竜賀は右手から伽鍵礼符を取り出した。礼符は青い光りを放ち消えた。
ジェイコブ「もう遅えぇ!!!これで終わりだあァァァ!!!」
竜賀に襲いかかる鎌はブーメランの様に高速回転して飛んできた。
ーーーしかし、竜賀の脚が青く光り出した。そして竜賀は空中で脚をググっと曲げて、ジャンプする様に脚をピンッと伸ばした。
ダンッ!!!
なんと竜賀は空中を蹴ってさらに何十メートルも上に向かって翔んだ。
エリック「な、何じゃそりゃあああァァァ!!??」
ジェイコブ「空中を蹴って…二段ジャンプだとおおお!!?」
何十メートルもの空中で身体を上下逆さになった竜賀は顔を下に向けジェイコブに狙いを定めた。
竜賀「これが俺の霊段階3『天狩鉤爪』だ…!!!これを発動すれば手足で空気や水を掴むことができるんだよ」
ジェイコブ「あ…あ…あ…」
竜賀は重力を無視している様な逆さまになった状態で、脚を曲げ力を込めていた。そしてまた脚を伸ばした。
ダダンッ!!!
竜賀は天狩鉤爪の能力で空中を蹴った脚力➕重力で猛スピードでジェイコブに向かって飛んできた。
ジェイコブ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ジェイコブは絶叫すると一目散に竜賀に背を見せて逃げようとした。
竜賀「逃がすか…!!!」
ダダダダン!!!
竜賀はまた空中を蹴ると、身体の進行方向が変わり、逃げるジェイコブに着いて行った。
竜賀は後3メートルと言う寸でのところで身体を上下逆さまの状態から正常に戻し、刀を頭上で持って構えた。
竜賀「はああああああああ!!!!」
ジェイコブ「あああああああああああああああああ!!!!???」
ガンッ!!!!
竜賀は両手で刀を渾身の力で真っ直ぐ振り下ろし、ジェイコブの背中に叩きつけた。
ジェイコブ「ガッ!!!???」
ジェイコブは地面にうつ伏せで倒れ、そのまま痛みに苦しみ悶えていた。
竜賀「諸手上段での唐竹割り……“烈火葬送”……今のアンタには勿体無さすぎたな」
しばらくして痛みに悶えていた状態から動かなくなる様子を竜賀は見ていた。
竜賀「この勝負、俺達の勝ちだ」
シカゴシティ・ローグホテル前;WINNER
藍川竜賀&猿渡源太
To Be Continued
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