ジェンドリンの時間論をラグビーのパスにたとえる

ジェンドリンの心理療法における「時間」の考え方って、現在の時点で何かが起こること (occurring) によって、「さかのぼって (retroactively)」こういう可能性も「あったんだ (was) 」と過去の体験が意味付け直されるのだと。そして、そうした生起の連続をたずさえて生が前に進む (carry forward)のだと。

この考え方を僕なりの比喩的なイメージで言うと、ラグビーのパス的な進行の仕方です。ラグビーは、サッカーやアメフトと違って、直接前の味方選手にパスを出せません。

後ろの味方選手にパスを出し、パスを受けた後ろの選手が前の選手を追い抜くことで、また追い抜いた後ろの選手にパスを出します。

パスの例として以下にリンクを貼っているのは、「World Rugby」公式チャンネルの動画です。とりわけ、稲垣選手のトライに至るまでの連続パスを、動画再生の始まりとしてフィーチャーしました。

一度ボールがバックすることで前に進む、そんなイメージをしながらジェンドリンの現在と過去に関する一節を読むと理解しやすいかな、と思います。

「現在が過去に新しい機能、新しい役割を与える」(Gendlin, E.T., 1996, p. 14)
「過去が新しい現在において新たに機能する」(Gendlin, E.T., 1996, p. 14)

こういうたぐい過去のことをジェンドリンは「遡及的過去 (retroactive past)」(Gendlin, 1991, pp. 64-5)と呼んでいます。

もとをたどれば、ジェンドリンの時間論は、プラグマティズムの哲学者ジョージ・ハーバート・ミードの時間論を参考にしていると考えると、私は理解しやすいです。

「現在のただなかで創発的事象が生じると、過去は、創発的な観点から見直され、そうして異なった過去になる」(Mead, 1932, p. 2)

それでいながら、そうした見直しが恣意的な過去の改ざんではなく、いかに秩序があるかということにジェンドリンの哲学書は多くの論述を費やしているように思われます。

文献:
・Gendlin, E. T. (1991). Thinking beyond patterns: Body, language and situations. In B. den Ouden, & M. Moen (Eds.), The Presence of Feeling in Thought (pp. 21–151). New York: Peter Lang.
・Gendlin, E. T. (1996). Focusing-oriented psychotherapy: A manual of the experiential method. New York: Guilford Press.
・Mead, G. H. (1932). The philosophy of the present (edited by A. E. Murphy). Chicago: Open Court.

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