【書評】 冒険の書
【概要】冒険の書孫泰蔵(書籍へはこちら)
いつの時代も誰もが世の中を良くしたいと願っている。しかし、「良いこと」は世の中の変化で大きく変わる時がある。
例えば産業革命以降の世の中では、様々な産業に分業された社会となり、「大人」と「子ども」は区別され、機械の「性能」を測定するように人の「学力」(=その産業、または細分化された専門での適応度)が測定されるようになり、その適応力が所得と相関が一定度あることで、そのスキルの習得の効率化を追求することが、特定のスキルにしか目を向けなくなるということが起きている。これは、「学校の勉強」ができないだけでその人は「劣る」、「時間どおりに起きられないから」生活習慣が身についていない、と人も大量生産品の商品のように振り分けられる社会を作り出してしまった。
しかし、21世紀に入り、ChatGPTに代表されるgenerative AIに専門的スキルが置き換えられる可能性が高まる中で、世の中のゲームのルールは大きく変わろうとしている。学びたいことを、学びたい時に、自分の興味の赴くままに学んで良いのだという事が実現可能になっているかもしれない。
そういう時代がもう来ていると信じて、現状の課題を解決するための新しい「良いこと」を提示し、それをみんなで実現するためにはどうするとよいか?と問いかける良書が本書である。
「学び方」はどう変わり、2030~2050年にどのようなより豊かな教育(学育-学び方を育みたいか?)に興味があるすべての人に読んでほしい良書。中学受験などの20世紀殻の変わらぬ環境に子どもを晒す前にすべての親が読んでおきたい。
【要約】もし我が子に下記のように問われたらどう答えるだろう?
私なりの著者との対話を通じた学びを回答として各セクションの問いに続いて書きました。
解き放とう - UNLEASH
【問い1】学びって本来はすごく楽しい事のはずなのにどうして学校の勉強はつまらないの?
(著書抜粋)
・ 学校でつまみ食いがダメだと言われる理由は明らかで、教育を提供する側である学校が効率悪くて大変だから
・これまでのように誰かから教えてもらい、それを覚えるという学びのスタイルはダメ
・リーダーシップは決して人工知能で置き換えられない能力。世界のどこに行っても通用する能力
・ 学校も親も学びを教わるという受け身のものに変え親自身や子供たちを教育サービスのただの消費者に仕立て上げてしまった
・学校は技能訓練と人間形成を無理やり結合させたものになっていて、自ら進んで規律を守る人間、看守がいなくてもちゃんと命令に従う人間、すなわち機械化された人間を作り出す仕組み
・自分の思いを押さえ込んで社会に合わせないといけないようなこんな心の狭い社会を作ったのは他でもない僕も含めた大人達
・恐竜や宇宙など子どもが興味をもった時は、48歳の大人である自分のほうが6歳の彼よりも知識も経験も一般的には知識も知恵も上だと思っていたのですがそうでもないことを気付かされた
・ 動物の能力の臨界期というのはオーストラリアの動物行動学者コンラートローレンツ博士の研究がきっかけ
・正解を教えてもらうと、盲目的にそれしかやらなくなり、試行錯誤をしなくなる。逆に絶対に失敗させて試行錯誤をしたらどれだけセンスのないやつでも成功できる
・早く習得する人が偉いともてはやす風潮は、効率よく知識を詰め込む教育法やシステムを発達させた。合わせて、基礎という概念も人々を学びに型にはめ学びをつまらなくさせている要因となった
・今の学ぶ⇒働く⇒何もしない(老後)で本当にいいのだろうか?
秘密を解き明かそう - UNLOCK
【問い2】どうして「遊び」と「学び」や「仕事」を区別する考え方が浸透したのか?
(著書抜粋)
・遊びと学びは元々シームレスにつながっていたが、近代以降は遊びと学びはまったく別のものとして区別されてしまった
・遊びは新しい学びや創造、発見などをするための本質的な活動であったにも関わらずただのエンターテイメント消費になってしまった
・ 時を忘れて何かに夢中になる時にこそ生きている実感を感じる経験を誰でもしたことがあるはず。そこには必ず遊びがある
・ 子供たちに学習させる前に身につけさせるべきものは何か?それは習慣である。興味や好奇心を刺激することで学習へと向かう姿勢や、よい習慣を身に付けさせることが大事
・ 自ら学習する習慣さえ身についてしまえば知識は後からいくらでもついてくる。あるべき教育とは子どもたちが自ら学習するようにすること
・教師が一方的に講義をしても学習効果は大して上がらない
・ 人間は生まれた時はまっさらな板(tabula rasa)とジョン・ロックはいった。 白紙のような存在であり、どのように物事を捉えるようになるかは経験や身につけた知識によってである
・ルソーは教育についてまとめた著書エミールの中で人間にもともと備わっている自然を大切にすることの重要性について触れ、本来の人間の在り方を引き出すことが教育だと説いた
・ 子供時代、特に小さいうちは自然の成長をゆっくり待たなくてはならない。ロックとは異なり、大切なのは習慣づくりではないと考え、「自然」に触れることによって感じることができる「実感」を身につけることが一番大切だとルソーは考えていた
・ルソーはまた「自然人」という考え方を大切にした。なぜ不平等が生じるのか?それは人間が必要以上に何でも欲しがるから。しかし「自然人」は生きていくのに必要なもの以上に何かを欲しがることはない。自然人はお互いに自立し、平等で完全に自由だ。他の人間を支配し従わせることもない自分だけで満ち足りていられる。様々な文明が発達した社会にも存在する自然人は誰か?子供である。人間は生まれた時はみな自然人である。
・ 庭師は植物を育てない庭師の仕事は花が開く条件を整えることだけ
・イギリスの実業家オーウェンは、1歳から6歳までの幼児をあづかる幼児学校を設けた。これが世界最初の子どものための学校と言われている。子供達を書物でいじめることがないよう教師に固く守らせ、身の回りの物の使い方や体験を通じて経験させ、子供達に好奇心が生まれ質問してきた時に答えるように環境を整えた
・ つまらない勉強を強制される学校はストレスの多い環境になりやすくいじめや不登校を生み出す温床となっているこの状況は深刻化するばかりで学校の最大の問題。
(参考)
・ホモルーデンス
・Why What How(How great leaders inspire action)
考えを口に出そう - THINK OUT LOUD
【問い3】どうして大人は「勉強」しろというのか?
(著書抜粋)
・能力の起源は優生学にある。人間の個人差の測定から出発し優劣が生まれる原因に遺伝と進化というコンセプトを当てはめて研究する中から次第に能力という概念が生まれて行った
・能力信仰は「子供は守られるべき可愛い存在だ」という信仰と同様に大変強い信仰
・勉強とはこの「能力」を高めるために行う活動にほかならない
・多くの人々が「能力を高めることこそが幸せになれるための唯一の道」と信じ、その教えにすがるように生きている
・現行の学校教育は格差の原因が偶然で決まるにもかかわらず平等な教育という名の下で子供たちに順位付けを行いさらにその順位は自分の努力の結果であることを押し付ける(責任という虚構 坂井敏晶)
・ 次第に人間はシステムの中でうまく機能する価値の高い存在でありたいじゃないと社会で生き残っていけないと考えるようになった
・結果論で失敗をこき下ろす社会では人々はリスクを取って大胆な決断や行動をすることをためらうようになる
・結果論で評価する社会は、誰かが失敗する⇒結果論で攻め立てる⇒縮こまる⇒先手を打たなくなる⇒後手にまわる⇒手遅れになるという展開になる
・アプリシエーションとは、何かに触れて湧き上がった感情とその感情が生まれるプロセス全てを指し示す言葉であり、ただそれがあるということがいかに有り難いことかという点に意識を向けた態度
・どんな芸術作品でもそれを鑑賞する人すなわちわかる人がいなければ意味も価値も生まれずいつか忘れ去られてしまう
・良い「作り手」は良い「使い手」であり良い「わかり手」であることが多いのは偶然ではない
・能力で評価されるのが世の中の現実なんだからその中でうまく生きていける人間を育てるしかないと考える人が多い
・メリトクラシーは「機会の平等」「能力別学習」「実績重視」という三つの要素からなる。(Intelligence + Effort = Merit)
・一つ目は人がどの職業に就くかはどこの生まれかとか家が金持ちかどうかなどによって差別されるべきではない才能や努力に応じて誰でも出世できる(以前は社会的地位が家柄で決まるアリストクラシー)
・二つ目は人それぞれの能力に見合った教育の環境や機会を平等に提供する というコンセプト。(この裏には、より高い能力を持つ人により優れた教育を与えるという目的がある点は注意が必要)
・三つ目は、業績を取り分け重視すること。私たちの社会では人々の地位や報酬で格差がある、業績の差は格差として認められてもいいという考え方がある
・ 人工知能は人間よりはるかに性能が高いし、その性能を常に自分でアップデート出来るならば、もはや「人工知能化した機械」の前に「機械化した人間」はただひれ伏すしかない
・メリトクラシーの究極の存在であるともいえる人工知能がありとあらゆるとこに入り込めばむしろメリトクラシーは終わるかもしれない
・能力信仰とメリトクラシーを批判しメリトクラシーを超えた新しい社会を作らなければならない5つの理由
・1つ目は、「学び」から「遊び」が分かれてどっちもつまらないものになってしまった
・2つ目は、「能力」や「才能」という概念がやる気や自信を失わせてしまう
・3つ目は、「能力信仰」や「メリトクラシー」がドロップアウトを生み出しやすい原因となっている
・4つ目は、本来は必要のないペシミズムに陥った不幸な子供たちが生まれ続けている
・5つ目は、ほとんどの人の仕事が人工知能に取って代わられてしまう可能性がある
・自己責任だから誰も責められない。だから自分を責めるしかない。そして自分が嫌いになり最後はペシミズムにはまって無限地獄をたださまようだけになる。これは終わりのない不幸である
・AIが答えを出してくれるならば、言われたことを効率よくやるよりも、” Thinking outside the box”が大切
探求しよう- EXPLORE
【問い4】どうして好きなことだけして生きていけなくなってしまったのか?
(著書抜粋)
・我々の身の回りにあるものは何かに使われるために存在している。そして、そこには機能というものが存在する。だからあるべきものはあるべきところにある必要がある
・無用の用という無意味の意味
・壮子先生にいくつか問われて僕が自分で考えたり気づいたりしただけだった
・役に立つか立たないかはものの見方次第で世の中に役に立たないものはひとつもないはずだという無用の用を信じて生きて行こうと思った
・親鸞さんは自力(阿弥陀佛の本願を拠り所にする)を出し尽くした時に初めて感じられる他力を君は感じることができるか?と問うた
・ 他力を本当に実感するためには自力を尽くすことが大事である、自力の重要性を逆説的に磨いているとも言える
・ 親鸞は善悪は結果に対する後知恵の評価に過ぎないと言っているのかもしれない
・教育は人間のあらゆる活動の中で最も心が広いものであるべき。教育という言葉は「教え育む」という意味ですが、これを「学び合い育み合う」という学育という言葉に変えたい
・答えるのではなくむしろ問うべき
・問いを立て、仮説をもとに調査や研究などの行動を起こし、そこから新たな問いが生まれまた研究するというプロセスを続けることを探求と言う
・イノベーションと言われるものは、探求のプロセスから生まれるのではないか?誰かがユニークな問いを立てて、行動を起こし、あくなき探求を続けた結果として、たまたま画期的な新しい発見や発明が生まれた。それが普及してふと気がついてみると問題とされていたものがたまたま解決していて、それを後世の私たちがイノベーションだったと評価する
・先が見通せない難問だらけのこれからの時代において大事なのは、論理的に解決策を出そうとすることではなく良い問いを立てること
・「主体」である私達人間がこんなものがあればいいのになあと考えたものを作る(作用する)ことによって形として現れた「客体」を実際に触って知覚して初めて私達「主体」は分かる。この作用する、分かるのサイクルを機能環という
・小さな問いに始まり、作ることを通じて分かるようになる。同時にわからないこともたくさん含まれさらにそこから問いが生まれる。これを繰り返すうちに形になったものが生まれてくる。それが何かを解決していたらイノベーションと呼ばれ新しい知恵を開くものであれば発明と呼ばれ、人の心を動かすものであれば芸術と呼ばれる。このサイクルはアプリシエーションによって支えられ素晴らしいものへと高められていく。
・評価や査定は人と違うことをするなという同調圧力を強め同調圧力が強い社会は生きづらい社会でもある
・今何が分かっていて何が分かっていないかを知ることはとても大事なことで優れた専門家とはそれをきちんと答えられることである
学びほぐそう - UNLEARN
【問い5】人はなんのために「学ぶ」のか?
(著書抜粋)
・起業家というのは職業ではなく生き方
・ 少なくない大人が、心の底では望んでいなかった環境にどっぷり浸かっているうちに、気が付いたら初心を見失ってしまい、諦めてしまい、死んだ魚のような目をして言い訳や愚痴ばっかり言ってくだをまいて人生を過ごしている
・小学生くらいの子どもたちはやりたいことだらけでいっぱい目の前のことにどんどんのめり込むことができる
・資本主義は機会の均等に繋がると多くの人が信じている。お金は誰でも努力をすれば貯めることができる。努力の成果だろうお金で何でも手に入る。それが一番公正で公平な社会じゃないか。お金で買えないものがあるほうが不透明で不公平じゃないか。資本主義とはそういう世界観
・ 自立とは依存しなくなることではなくて依存先を増やしていくことである
・いろいろな教育者が強調していることだが環境こそが人間に大きな影響を与える
・贈与こそがもっとも人間らしく崇高で美しいものであるということを常に自覚していたい
・教育の使命に人類の知り得たことを後世に伝えるというものがある
・世界は自ら変えられるということを信じるためには、「未来に希望が持てる」こと、「切り開こうと思えば実際に切り開ける」という二つの条件が満たされる必要がある
・ 何を学ぶのかやどのように学ぶかも大事だがそれよりもなぜ学ぶのかが一番大事
・自分たちの問題意識から生まれる会話こそ一番必要なもの
・あの時代にこういう手を打ってくれていたからこそ今を生きる私たちはさらなる取り組みを重ねることができると思ってもらえることに取り組むことは非常に意味のあること
・常識を捨て去り、根本から問い直す。その上で新たな学びに取り組むアンラーニングが通常のラーニング以上に大事な学びの態度となるはず。ラーニングとアンラーニングを繰り返しながら進めるこれこそ探求するという言葉の本当の意味
・ 学びの場は世界を良くするために集まった探求者のコミュニティであるべき
・できるならば我々の生まれた時よりもこの国を少しなりとも良くして逝きたい
・お金を貯めるのは難しく事業を残すのも並大抵のことではないならば思想を残すのが良い。後の世代に良い影響を与える本を残すことや青年に学問を教えることで人を残すことこれも実に尊い贈り物
・私たちは地上ではかけた弧、蒼穹の大きなら螺旋につらなる一辺の小さな弧である
・On the earth the broken arcs; in the heaven, a perfect round.
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