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「Demiちゃんが行く!」#30 写真家 緒方秀美 私小説 "カメラマン魂"

こんにちは。私の過去を振り返って私小説を書いていると最初の作品集となったBlankey Jet Cityの撮影も波乱の幕開けでした。その時はとても苦しかったけど今になって思うと必要な事だったと通り過ぎた時間が愛おしく感じます。人生なんてそんなもんさ!! 全て通り過ぎたら貴重な体験。なんとかなる!!楽しんでいこう〜〜〜!!

第30話 ”カメラマン魂"

ブランキー ジェット シティの撮影が始まって約半年が経った頃コピー写真集も10冊目になった、まわりのロック雑誌編集者に見せるとみんなが絶賛する、これはもう次のステップ行く時と思う時にブランキーはロンドンでレコーディングに行きライブもやるという。それは絶対に撮影する、でもそこにはさすがにデミの自腹では行けない、ここまで一人で撮って出来上がった写真でデミの本気を証明しているのだからレコード会社もデミの事を信用してくれるだろうとプロデューサーに今までの経緯を話してアートディレクターを変えくださいと頼んだ、そして最初に言ってたとおりプロジェクトとして経費も出してくださいませんか?と頼んだ。ひとりで身を削ってここまでやってきたデミに直ぐにオッケー出してくれると思ってた。そうしたらその答えはノーだった。レコード会社と出版社とアートディレクター三社でやってこのプロジェクトを進めているのに新人カメラマンが何を言ってるの?そんな事を言うのならもうブランキーを撮らせないと言われてしまった。三社でやってるって何をやってるの、アートディレクターも出版社も一度もライブには来ないし経費もださない、デミがツアーに行って撮って、そして東京にもどって仕事してそれで経費つくっているのに、新人カメラマンで信用がないだろうから、あるていどの写真が撮れるまで一人で頑張ったよ、みんなが絶賛するくらいの写真撮ってるよ、それでもタダの会社に守られて口だけ動かしている奴らを信用するの???デミは泣いた、悲しくてたまらなくて泣いた、今まで撮った写真を何度も見ながらワンワン泣いた、「もう撮らせない」という言葉が何度も何度も頭の中に出てくる、今までの撮影シーンが走馬灯の様に出てくる、何度もコピー写真集を見て泣いた。
泣いて目が腫れ上がったてる時に一本の電話がかかってきた、高田さんというアートディレクターだった「明日の夜あいてたら矢沢永吉撮ってくれない!!」
「はい大丈夫です」高田さんは糸井重里さんと組んで矢沢永吉の20年分の写真をまとめて写真集を制作中との事、矢沢永吉の事だから今まで名だたるカメラマンが撮っているけど、どうしても隠し球としてデミを送りたいと熱く言ってくれる、
大御所カメラマンだったらどんな写真になるか見えている、それじゃ面白くないから無名カメラマンがどういう仕事をするか、高田さんも一種賭けにでた様子だった、高田さんが勝負にでてるんだ、そしてそれがデミ次第で決まるのなら私やるわ~~~!!ブランキーの事はとりあえず今は忘れる、と気持ちを切り替えた。
翌日まだ目が腫れていたけど気にもせずに矢沢永吉の武道館ライブ会場に向かった
ライブ撮影と楽屋のドキュメンタリー撮影、矢沢さんが車から出て来た瞬間にパチっと撮ったら鋭い目で睨まれた、楽屋でちゃんとご挨拶しなきゃと思い「はじめましてカメラマンのデミです今日はよろしくお願いします」とデミ「矢沢です。女の子でカメラマン珍しいね。ヨロシク!!」と矢沢さん、意外にジェントルマンなんだ。
ライブがはじまると矢沢さんの声量とドウビーブラザース がバックミュージャンを務める中でデミは水を得た魚のように動きまくって撮った、矢沢さんのエネルギーを残す事なくグイグイと写真に収めていく、バックステージでもお構いなしに入っていき矢沢さんの自然な表情をカメラに収めた、ライブが終わって矢沢さんがシャワーから出てきた所に待ってると「やるじゃんカメラマン魂」とニコッと笑って楽屋に去っていった。今、何て言った??やるじゃんカメラマン魂って私の事だよね。
デミは自分の耳をうたがったが、確かに矢沢さんはそう言った。嬉しかった。矢沢さんが着替えてマネージャーからスタッフ一同がお見送りする時に私の方に近ずいてきて「あのさ~~~これから赤坂のキャピタル東急に飲みにいくけど来ない、もっと写真撮れるよ」とデミだけに言ってきた。矢沢さんのマネージャーはデミさん行ってください矢沢が初めて会ったカメラマンにこんな事を言ったのは初めてです。デミはキャピタル東急で矢沢さんと飲んだ、「あなたは俺の一番カッコー所を撮ったったね」と上機嫌、周りにいるドゥービーブラザーズにデミの撮影する姿も真似してシャカシカシャカShe is beautifulと言ってる。まだ写真が出来上がってもないのに矢沢さんはデミの撮り方だけでもう凄い写真が撮れてると実感してくれた。「どうやってこの仕事が来たの?」「アートディレクターの高田さんが私の事を隠し球として送るといって仕事頂きました」とデミ。矢沢さんはニャっとして「オッケーまた誘う。いい酒飲めた」と言って上機嫌で帰って行った。
まるで夢みないな一日だったけど、矢沢さんにはデミの本気度が通じたんだ、デミが無名だろうが経験がなかろうが、関係なく撮り方で感じてくれたんだ。「あなたは矢沢の一番カッコィー所を撮ったんだ」そう言ってくれたよね。「やるじゃん!カメラマン魂」とも言ってくれたよね。矢沢さんがデミのバックグランドなど全く関係なく今日の撮影で認めてくれた事が凄く嬉しかった。こんな矢沢さんみたいな大人もいるんだデミは泣いてなんていられない、ブランキーのプロデューサーにはもう撮らせないと言われてしまったけど、ビジネスマンからしたら新人カメラマンが年配のアートディレクターを変えろと言ってくるのを常識外れに感じるのも仕方ない事なのか?と相手の事も理解した。一週間後にブランキーにとって初めての武道館ライブがある、それは絶対に撮る。デミは矢沢さんの一言で蘇ったのだった。
ブランキーの初めての武道館の日、デミはそれを撮るとは決めているけど「もう撮らせい」と言われてるからな~~~弱気の気持ちが出てくる、また言われた事が頭の中でクルクルと何度もまわりだす。あぁ~~~あんな事言われたけど忘れたふりして行けばいいや、プロデューサーはそう言ってるけど、メンバーはデミの事を信じてくれる。もしメンバーまで信じてくれなければそこで辞めたらいい。もう記憶喪失になりたいよ。デミはドキドキする気持ちを少しでもおさえたいと、バファリン7錠も飲んで武道館に向かった。

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