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【書籍】少子化時代を支える工業高校—高求人倍率の理由とその魅力

 Wedge(ウェッジ)2024年7月号に、「求人倍率は大卒の約14倍! これだけすごい工業高校(小林美希氏)」(p43)が掲載されていました。工業高校は、少子化や大学進学率の上昇といった社会の変化にも関わらず、高い求人倍率と内定率を維持しており、卒業生の多くが社会で必要とされる技術者として活躍しています。
 長年、採用にも従事してきた私にとっても、大変興味深い内容である一方で、採用が難しくなっている現状において、改めて危機感を持ったところでもあります。

 茨城県立水戸工業高校の取り組みが例に挙げられていました。同校では、旋盤実習や化学実験など、実践的な技能教育を通じて、生徒たちが将来の仕事で必要となる専門知識と技術を習得しています。
 さらに、課題研究を通じて、生徒たちは自らテーマを設定し、研究を進めることで、問題解決能力や自主性を養っています。卒業生の多くは大手製造業で活躍しており、中には1000万円を超える収入を得ている人もいるとのことです。

 東京都立六郷工科高校も、特徴的な教育を行っているとのこと。同校には、企業と連携してインターンシップや長期職業訓練を行う「デュアルシステム科」があり、生徒たちは実際の職場で働くことで、より実践的な知識と経験を積むことができます。また、都内でも数少ない自動車整備士養成施設でもあり、卒業生はトヨタ自動車やJR東日本といった大手企業にも就職しています。

 このように、工業高校は、時代の変化に対応しながら、実践的な技能教育、課題研究、企業との連携など、多様な取り組みを通じて、社会で活躍できる人材を育成しています。工業高校の卒業生は、日本のモノづくりを支えるだけでなく、電気設備や土木などの現場でも活躍しており、その存在は社会にとって不可欠なものとなっています。

 また、工業高校の教育は、必ずしも大学進学が全てではないことを示しています。高卒であっても、専門的な知識と技術を身につければ、大手企業に就職し、高収入を得ることも可能です。工業高校は、生徒一人ひとりの個性と能力を最大限に引き出し、社会に貢献できる人材を育成する場として、今後も重要な役割を担っていくことでしょう。

人事にとっては期待と危機感がある

 人事の視点から見ると、工業高校は、企業の持続的な成長を支える、将来性豊かな人材の宝庫です。工業高校の卒業生は、専門的な知識と技術、高いモチベーション、そして地域への貢献意欲を持つ人材として、企業にとって非常に魅力的な存在です。

 まず、工業高校の生徒たちは、座学だけでなく、実習や実験を通じて専門的な知識と技術を習得しています。
 例えば、機械科の生徒は、旋盤やフライス盤などの工作機械の操作だけでなく、CAD/CAM(コンピュータ支援設計/製造)システムを用いた設計やプログラミングも学びます。電気科の生徒は、電気回路の設計や配線だけでなく、太陽光発電システムやスマートグリッドなどの最新技術にも触れる機会があります。建築科の生徒は、建築設計やCADの操作だけでなく、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)を活用した設計や施工管理も学びます。このように、工業高校の生徒たちは、それぞれの専門分野において、常に進化する技術に対応できる柔軟性と応用力を身につけています。

 さらに、国家資格の取得を奨励している学校が多く、中には社会人でも合格が難しい資格を取得している生徒もいます。例えば、機械加工技能士、電気工事士、ボイラー技士、危険物取扱者、施工管理技士、建築士など、これらの資格は、企業にとって貴重な人材であることを証明するだけでなく、安全管理や品質管理の面でも貢献できることを示しています。資格取得に向けて努力する姿勢は、向上心や自己成長への意欲を示しており、企業にとって魅力的な要素と言えるでしょう。

 また、工業高校の生徒たちは、モノづくりに対する強い関心や情熱を持っていることが多いです。採用の面接で質問をすると、幼い頃からプラモデル作りやロボット製作に熱中し、その経験を活かして工業高校に進学する生徒も少なくありません。このような「好き」を仕事にするというモチベーションは、仕事に対する高い意欲や責任感、そして困難な状況にも諦めずに挑戦する粘り強さにつながります。企業にとっては、このような情熱と粘り強さを持つ人材は、まさに会社の未来を担う原動力でしょう。例えば、自動車メーカーであれば、幼い頃から車に夢中になり、自動車整備士を目指して工業高校に進学した生徒は、その情熱を活かして、より良い自動車を作るために日々努力を重ねるでしょう。

 さらに、工業高校は地域産業との連携を重視している学校が多く、地元企業への就職を希望する生徒も多数います。企業にとっては、地域に根ざした人材を獲得できるだけでなく、地元の経済活性化にも貢献できるというメリットがあります。例えば、地元の食品メーカーと連携している工業高校であれば、そのメーカーの生産ラインで即戦力となる人材を育成することができます。また、地元のIT企業と連携している工業高校であれば、地域に特化したソフトウェア開発やシステム運用に貢献できる人材を輩出することができます。

 一方で、工業高校の卒業生を採用する際には、大学卒業生とは異なる点に注意する必要があります。例えば、コミュニケーション能力やプレゼンテーションスキルなど、ビジネスシーンで必要とされるスキルについては、入社後の研修などで補う必要があるかもしれません。しかし、これらのスキルは、本人の努力次第で十分に習得可能なものであり、工業高校の卒業生が持つポテンシャルを考えれば、十分に投資する価値があるといえます。企業は、メンター制度やOJTなどを活用して、工業高校の卒業生がスムーズに職場に適応し、能力を最大限に発揮できるようサポートすることが重要です。

 近年、多くの企業がダイバーシティ&インクルージョンを推進しており、多様なバックグラウンドを持つ人材の採用に力を入れています。工業高校の卒業生は、大学卒業生とは異なる視点や発想を持っていることが多く、チームに新たな風を吹き込み、イノベーションを促進する可能性を秘めています。
 例えば、製造現場で培った改善力や問題解決能力は、他の部署でも応用できる貴重なスキルとなるでしょう。また、工業高校で学んだ専門知識や技術は、新たな製品開発やサービス改善に活かせる可能性があります。企業は、工業高校の卒業生を積極的に採用し、多様な人材を活用することで、より創造的で革新的な組織を構築できるでしょう。

 企業は、工業高校の卒業生を採用することで、専門的な知識と技術、高いモチベーション、そして地域への貢献意欲を持つ人材を獲得することができます。人事としては、工業高校の卒業生が持つポテンシャルを正しく評価し、育成することで、企業の持続的な成長に大きく貢献できるでしょう。一方、今後は少子化もあり、工業高校の卒業生を採用することはまずます難しくなってくるものと思われます。企業もしっかりと魅力を出していくことが必要になっています。

左側には、実験室で旋盤や化学実験に取り組む様子が描かれています。右側には、インターンシップや自動車整備訓練に参加している場面があり、自動車作業場と企業との連携の様子が見られます。背景には伝統的な校舎と現代的な校舎が混在し、生徒たちが活気あふれる環境でさまざまな技術や工学の活動に取り組んでいる姿が描かれています。


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