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石倉秀明氏『THE FORMAT』ー「読む・書く」の力ーわかりやすく伝えるための新フォーマット

 石倉秀明氏の『THE FORMAT』(サンマーク出版、2022年)を取り上げたいと思います。本書は、リモートワークが主流になりつつある現代社会において、「書く・読む」というコミュニケーション能力がいかに重要であるかを説いています。石倉氏は、ほぼ全員がリモートワークで働く会社で長年働いてきた経験から、誰にでもわかりやすく伝わる文章を書くためのフォーマットを独自に編み出してきました。そのフォーマットを惜しげもなく紹介し、読者がすぐに活用できるようになることを目指しています。フォーマットの活用の幅は広いです。

序章:「書く」ことの数多くのメリットについて

 書いたものは、一度作成すれば資産として残り、何度でも多くの人と共有することができます。つまり、同じ内容を何度も口頭で説明する手間が省け、時間を大幅に節約できるのです。また、文章を書く過程で自然と考えが整理され、論理的に物事を捉えられるようになります。加えて、文章でのコミュニケーションを重ねることで、相手に好印象を与えやすくなるという効果もあるのです。

 文章を書くことは、単に情報を伝達するだけではありません。自分の考えを深め、相手に説得力を持って伝えるためのツールでもあるのです。日々の業務の中で文章を書く機会は多くありますが、その一つ一つを大切にし、質の高い文章を目指すことが求められます。そのためには、型にはまった形式的な文章ではなく、読み手の立場に立って、わかりやすく伝わる文章を心がける必要があります。本書で紹介されているフォーマットは、そうした文章を書くための強力な武器になるはずです。

第1章:文章を「地図」に例えて、誰もが同じ内容を理解できるようにする

 具体的には、現状報告、目的、締め切り、論点、メリットとデメリットといった要素を盛り込むことが肝要だというのです。これらを押さえることで、読み手が迷子にならずに済み、スムーズに意図を汲み取ってもらえます。これらの要素を踏まえた、ビジネスシーンで活躍する万能フォーマットも提示されており、すぐに活用できるようになっています。

 文章を「地図」に例えるというアイデアは、非常に示唆に富んでいます。地図は、目的地までの道のりを明確に示してくれるものです。文章も同じように、読み手を目的地へと導く役割を果たすべきなのです。そのためには、文章の中に目印となるポイントを散りばめ、読み手が迷わずに進められるようにする工夫が必要です。現状報告や目的、締め切りといった要素は、まさにそうした目印の役割を果たしてくれるのです。

 また、メリットとデメリットを示すことも重要です。物事には必ず光と影の両面がありますが、それらを公平に伝えることで、読み手の理解と納得を得ることができます。一方的に自分の主張を押し付けるのではなく、読み手の判断を仰ぐ姿勢が大切なのです。こうした点に気をつけながら文章を書けば、信頼され、行動を促す文章になるはずです。

第2章:わかりやすく伝わる文章を書くためのテクニック

 わかりやすく伝わる文章を書くためのテクニックが、10個紹介されています。1つ目は、会話はチャットで気軽に行い、相談事は資料にまとめて伝えるという使い分けです。2つ目は、曖昧な表現を避け、具体的に聞くことです。3つ目は、1つのメッセージには1つの内容だけを盛り込むといった、単純明快さの追求です。他にも、事実と意見を分ける、適切な例を示す、定義を明確にする、主語を小さくする、数字や比較を盛り込む、といった実践的な技が並びます。これらを意識的に使っていけば、文章力は着実に向上していくと思われます。

 わかりやすい文章を書くためには、何よりも読み手の立場に立つことが大切です。専門用語を多用したり、難解な表現を使ったりすれば、読み手は途端に理解することが難しくなります。逆に、具体的な例を示したり、数字を使って説明したりすれば、読み手はイメージを膨らませやすくなります。また、事実と意見をきちんと分けることで、読み手は内容を冷静に判断できるようになります。このように、読み手の理解を助ける工夫を施すことが、わかりやすい文章を書くためのカギなのです。

 一方、わかりやすさを追求するあまり、内容が薄くなってしまっては本末転倒です。伝えるべき情報をしっかりと盛り込みつつ、読み手に優しい文章を目指すことが肝要です。その難しいバランスを取るためにも、本書で紹介されているテクニックを地道に実践し、文章力を高めていくことが求められるのです。

第3章:フォーマット紹介

 実際のビジネス文書を5つ取り上げ、それぞれのフォーマットを紹介しています。営業会議の資料、実績報告書、会議の進行表、予算承認の資料、会社方針の通達文と、どれもビジネスパーソンなら必ず目にする文書ばかりです。これらの実例をもとに、読み手目線に立って、どのように改善を加えればよいかを一つひとつ解説しているのです。情報の優先順位、強調すべき数字の示し方、共感を得やすい伝え方など、すぐに実践できるテクニックが満載です。

 ビジネス文書は、単に情報を伝えるだけではなく、読み手に何らかのアクションを促すことが求められます。営業会議の資料であれば、営業活動の方針を決めてもらうこと。実績報告書であれば、現状を理解し、課題を認識してもらうこと。予算承認の資料であれば、予算を承認してもらうこと。会社方針の通達文であれば、全社員が一丸となって目標に向かって行動してもらうこと。そうした目的を達成するためには、ただ事実を羅列するだけではなく、読み手の心に響く文章を書く必要があります。

 本書で紹介されているフォーマットは、そうした文章を書くためのテンプレートとして大いに役立ちます。必要な情報を過不足なく盛り込み、読み手の関心を引きつける工夫を施せば、説得力のある文書を作成できるはずです。ただし、フォーマットはあくまでも型であり、書き手の創意工夫が求められることはいうまでもありません。型にはめることに汲々とするのではなく、型を活用しながら自分の文章力を高めていくことが大切なのです。

第4章:リモートワークに関するQ&A

 メッセージの処理方法、オンライン会議の効率的な進め方、テキストコミュニケーションの基本的な心構えなど、リモートワークに移行して戸惑っている人の疑問に真摯に答えているのです。著者自身の豊富な経験から導き出されたアドバイスは、説得力があり、今すぐにでも実践したくなるものばかりです。

 リモートワークでは、メールやチャット、オンライン会議などのツールを使ったコミュニケーションが中心になります。そうしたテキストベースのやりとりでは、表情や声のトーンといった非言語的な情報が伝わりにくいため、誤解を生みやすいというデメリットがあります。しかし、本書で紹介されているように、適切なツールの使い分けや、明確なコミュニケーションを心がけることで、そうしたデメリットを最小限に抑えることができます。

 また、リモートワークでは、自律的に仕事を進めることも求められます。上司や同僚と頻繁に顔を合わせる機会がないため、自分で判断し、行動することが必要になるのです。そのため、自分の考えをしっかりと文章化し、相手に伝える能力が問われることになります。本書のアドバイスを参考に、日々の業務の中で文章力を磨いていくことが、リモートワークを成功させるためのカギになるでしょう。

第5章:リモートワークがさらに進んでいく未来像

 少子高齢化が進み、労働力不足が深刻化していく中で、場所や時間に縛られない柔軟な働き方を実現できるリモートワークは必然の流れになると著者は予測しているのです。そうした時代においては、テキストコミュニケーション能力の高い人材ほど、場所を選ばず活躍の場を広げていけるはずです。逆に、その能力が不足していると、キャリアの選択肢が狭まってしまう恐れもあります。個人の市場価値を高めるためにも、文章力を磨いておくことが肝要だと訴えているのです。

 確かに、リモートワークの普及により、働き方は大きく変化しつつあります。オフィスに通勤し、決まった時間に仕事をするという従来のスタイルは、徐々に過去のものになっていくでしょう。その一方で、テキストコミュニケーション能力の重要性は高まる一方です。メールやチャットでの的確なやりとり、わかりやすい資料の作成、説得力のあるプレゼンテーションなど、文章力が問われる場面は増えていくはずです。

 本書は、そうした時代の変化を先取りし、これからのビジネスパーソンに求められる文章力の重要性を説いています。単に型にはめるだけのテクニックではなく、読み手目線に立って文章を書くことの大切さを説いているのが特徴です。フォーマットはあくまでも道具であり、それを使いこなすのは書き手の腕次第です。

 リモートワークは、ビジネスパーソンに大きなチャンスをもたらしてくれます。時間や場所に縛られない柔軟な働き方ができるようになるのですから。しかし、そのチャンスを生かすも殺すも、文章力次第だと言っても過言ではないでしょう。本書で紹介されているフォーマットを活用しながら、日々の業務の中で文章力を磨いていくことが、これからのビジネスパーソンに求められているといえます。

 文章力は一朝一夕で身につくものではありません。しかし、正しい方法で訓練を積めば、誰でも着実に上達することができます。本書は、そのための指南書として最適だと言えるでしょう。フォーマットを自在に使いこなし、説得力のある文章を書けるようになれば、リモートワークの波をチャンスに変えていくことができるはずです。

 これからの時代を生き抜くために、本書で紹介されているフォーマットを活用し、文章力を高めていけば、リモートワークの時代にあっても、活躍の場を広げていくことができるでしょう。文章力は、ビジネスパーソンにとってまずまず必須のスキルとなっています。

人事の視点から考えること

 今度は、人事に長年従事してきた私の立場から、人事業務と組織運営に与える影響について深く考察してみます。この書籍の中で提示される標準化されたコミュニケーションフォーマットは、組織内の効率性、透明性、公平性を高めるために非常に有効といえるでしょう。

1. 明確なコミュニケーションの重要性と標準化

 人事部門は組織内のさまざまなコミュニケーション(採用通知、パフォーマンス評価、報酬変更通知等々)を担当します。これらの情報は正確かつ明確に伝える必要があり、本書で提案される標準化されたテンプレートを活用することで、全従業員に対して均一かつ一貫した情報を提供できるでしょう。これは特に法的な要求や規制の遵守において重要であり、誤解を避け、組織のリスクを最小化することに寄与します。

2. リモートワークと非同期コミュニケーションの最適化

 多くの企業でリモートワークやハイブリッド勤務が導入されている中、人事部門もこれに適応する必要があります。本書のコミュニケーションフォーマットは、書面による明確な指示とフィードバックを通じて、場所や時間の制約を超えた効率的な業務進行を促進します。これにより、タイムゾーンが異なる従業員や異なる勤務時間帯の従業員間でも、業務が円滑に行えるようになります。

3. 効率的な人材育成

 書面での明確な指示やフィードバックは、従業員が自己学習を促進し、自己反省を深める機会を提供します。人材育成プログラムで本書の方法を使用することで、従業員は自身のキャリアパスを効果的に管理し、目標に向けて具体的なステップを踏むことができるようになります。これは従業員が自己効力感を高め、長期的な職業的成長を遂げる上でも重要になります。

4. パフォーマンス管理の改善

 標準化されたフォーマットを使用することは、パフォーマンス管理プロセスの質を向上させます。明確で一貫した評価基準に基づくフィードバックと評価は、評価者の主観を排除し、より客観的かつ公平な評価を可能にします。これは特に多様な従業員がいる大規模な組織において、個々の業績と能力を正確に測定し、適切な報酬と認識を保証するために不可欠といえるでしょう。

5. エンゲージメントと従業員満足度の向上

 透明で一貫したコミュニケーションは、従業員が組織内での自己の位置を正確に理解し、評価されていると感じることを助けます。これは従業員のエンゲージメントを高め、組織への忠誠心と満足度を向上させます。高いエンゲージメントと満足度は、離職率の低下、生産性の向上、そして組織全体の業績向上に直接的に寄与します。

 以上のように、本書で提案される標準化されたコミュニケーション手法は、人事部門の業務を効率化し、組織の成果を最大化するための重要な戦略です。これを通じて、組織文化が形成され、従業員が明確なガイダンスのもとで自己実現を図ることができるようになります。このような環境は、持続可能な成長と競争力のある業務運営を保証する基盤を築くことにも貢献するでしょう。


リモートワーク環境をテーマにした横長の画像です。モダンな家庭のオフィスセットアップを中心に、様々な活動に従事する多様な人々が描かれています。明るく、快適で効率的な作業空間が感じられる雰囲気です。


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