見出し画像

【書籍】「雑談」の力を組織に活かす:『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』を人事視点で読む

 ピョートル・フェリクス・グジバチ氏『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』(クロスメディア・パブリッシング、2023年)を拝読しました。

 本書は、日本のビジネス社会における雑談と、グローバルなビジネスシーンでの雑談文化の違いについて深く掘り下げています。特に、日本と世界のビジネスリーダーがどのように雑談を活用し、どのようにその雑談がビジネスの成果に結びついているかが解説されています。

 「雑談」の重要性はよく言われますが、日本と世界ではその活用のされ方が大分異なるようです。一方、組織運営にとっても極めて重要なワードであり、考察してみたいと思います。

日本の雑談文化の特徴

 本書では日本の雑談文化について詳述しています。日本では、雑談は多くの場合、ビジネスの本題に入る前の「潤滑油」として機能します。これは、取引先との商談や会議などの際に、緊張をほぐし、和やかな雰囲気を作り出すために行われるものです。日本のビジネスマンたちは、天気の話や季節に関連する話題、そしてお互いの近況報告といった「定番フレーズ」を多用します。「今日は暑いですね」「本当に寒いですね」といった挨拶から始まり、特に意味を持たない会話が続くことが多いです。これらの雑談は、あくまで形式的なものとして捉えられ、深い意味や戦略的な意図は含まれていないことが多いのです。

 このような日本の雑談文化に対して、著者は強い疑問を投げかけています。彼自身が異文化での経験を持つため、日本の雑談が持つ表面的な側面に違和感を覚えています。雑談が単なる潤滑油としてではなく、もっと深い意味と目的を持って活用されるべきだと主張しています。特に、ビジネスの場においては、雑談が相手との信頼関係を構築し、ビジネスの成果を引き出すための重要な手段となり得ることを強調しています。

世界のビジネス雑談とその活用法

 世界のビジネスリーダーたちがどのように雑談を活用しているかについても詳しく解説されています。特に、Googleなどのグローバル企業においては、雑談は単なる世間話ではなく、明確な目的を持って行われます。ここでの雑談は、情報交換や問題解決のためのオープンな対話であり、ビジネスの成果を最大化するための重要なツールとされています。

 グローバルなビジネスシーンでは、雑談は戦略的なコミュニケーションの一環として位置づけられています。例えば、会議の前後に交わされる雑談では、相手のニーズや課題を引き出し、それに基づいてどのようなプロジェクトが可能か、どのような成果が求められているのかを探ることができます。また、雑談を通じて、相手のビジネスに対するスタンスや考え方を理解することで、その後の商談をよりスムーズに進めることが可能となります。

 著者は、グローバルなビジネスリーダーたちが雑談を通じて信頼関係を築き、その結果としてビジネスの成果を上げている点に注目しています。彼らは、雑談を通じて相手とのラポール(信頼関係)を築くことを第一の目的とし、それが最終的にビジネスの成果につながることを理解しています。このように、雑談がビジネスの重要な一部として機能しているのです。

自己開示と自己認識の重要性

 また、自己開示と自己認識の重要性についても本書で強調されています。グローバルなビジネスリーダーたちは、雑談を通じて積極的に自己開示を行い、相手との距離を縮めることに努めています。自己開示とは、プライベートな情報や自分の考えを素直に相手に伝えることであり、これにより、相手は自分がどのような人物であるかを理解しやすくなります。このプロセスが、信頼関係を築くための第一歩となります。

 一方で、日本のビジネスマンたちは、自己開示に対して抵抗を感じることが多いです。彼らは、雑談の中で自分の本音やプライベートな情報を語ることを避け、あくまで表面的な話題に留める傾向があります。これが、雑談を通じた深い関係構築を阻害している一因であると著者は指摘しています。

 自己開示の前提として、自己認識が重要であることも強調されています。自己認識とは、自分自身の価値観や信念、期待を明確にすることであり、これができて初めて効果的な自己開示が可能となります。自己認識が不足していると、雑談の内容が薄くなり、相手に対して十分なインパクトを与えることができません。したがって、ビジネスの場においては、まず自己認識を深めることが重要であり、その上で自己開示を通じて相手との信頼関係を築いていくことが求められます。

雑談を通じたラポール形成

 雑談を通じてラポールを形成することが、ビジネスにおいて極めて重要であることが本書では繰り返し述べられています。ラポールとは、相手との間に築かれる信頼関係や心理的なつながりを指し、これが確立されると、ビジネスのやり取りがスムーズに進み、成果が上がりやすくなります。

 著者は、雑談を通じて相手との信頼関係を築くためには、相手に対して無条件の肯定的関心を持つことが重要であるとしています。これは、相手の話を良し悪しで判断せず、相手の立場や考え方を理解しようとする姿勢を持つことです。この姿勢があることで、相手は安心して自分の考えを話すことができ、その結果としてラポールが形成されやすくなります。

 さらに、著者はエンパシー(共感)の重要性にも触れています。エンパシーとは、相手の感情や考えを理解し、それに応じて適切な反応を示す能力です。雑談の中でエンパシーを発揮することで、相手は自分が理解されていると感じ、信頼関係が深まります。エンパシーを持って相手と接することで、雑談が単なる会話ではなく、ビジネスの成果を引き出すための強力なツールとなるのです。

雑談の事前準備と戦略的活用

 世界の一流ビジネスマンたちは、雑談にも事前準備を怠りません。彼らは、相手の企業や個人に関する情報を徹底的にリサーチし、その上で雑談のストーリーを練り上げます。これにより、雑談の中で相手にとって有益な情報を提供し、信頼を得ることができます。
 例えば、相手が関心を持っているトピックについて事前に調査し、それを雑談の中で自然に取り入れることで、相手に「この人は自分のことをよく理解している」と感じさせることができます。

 日本のビジネスマンの中には、雑談に対して事前準備を怠る傾向があると著者は指摘しています。多くの場合、雑談が単なる世間話として行われるため、特に準備をする必要がないと考えられていることが原因です。しかし、雑談をビジネスの成果に結びつけるためには、相手に合わせた適切な準備が不可欠です。著者は、雑談を通じて相手とのラポールを築き、その上でビジネスの交渉を有利に進めるための戦略的なアプローチが求められていると述べています。

終わりに

 本書は、単なる雑談を超えて、それをビジネスの成果に結びつけるための具体的な方法と考え方を示しています。雑談を通じて信頼関係を築き、ビジネスを成功させるためのツールとして活用するためには、相手とのコミュニケーションに対する深い理解と戦略的なアプローチが必要です。この本は、日本のビジネスマンに対して、雑談の持つ可能性を再認識させ、それをビジネスの成功に活かすための貴重なアドバイスを提供しています。

雑談は組織運営にとって極めて重要(人事の視点から考える)

 本書を人事の視点から考察すると、組織運営や人材育成において雑談の重要性を深く理解し、それを戦略的に活用するための示唆を得ることができます。ここでは、人事の視点から考えられる重要なポイントをより詳細に考えてみたいと思います。

 本書で紹介されている、「雑談」の重要性は、社員間のコミュニケーションを円滑にし、職場全体の雰囲気を向上させることに直結しています。雑談は、社員同士がリラックスした状態で意見交換や情報共有を行うための自然な手段です。これにより、日常の業務における協力関係が強化され、チームワークが向上します。特に、異なる部署や階層の社員同士が雑談を通じて接点を持つことで、組織全体のエンゲージメントが高まる効果が期待できます。

 リモートワークが広がる現代においては、対面でのコミュニケーションが減少し、社員が孤立感を感じるリスクが高まっています。人事部門は、これを防ぐために、オンラインでも雑談の機会を意図的に設けることが重要です。例えば、バーチャルコーヒーブレイクやオンラインランチ会など、リラックスした環境で雑談ができる場を提供することで、社員同士の結びつきを強め、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することが可能です。

2. 「1on1ミーティング」における雑談の活用と効果

 「1on1ミーティング」は、上司と部下が定期的に対話し、部下の業務状況や悩み、キャリア志向について話し合う場として多くの企業で導入されています。しかし、形式的なミーティングに終始してしまい、期待した成果が得られていないケースも少なくありません。人事部門は、マネジャーに対して、雑談を効果的に活用する方法を伝え、ミーティングの質を向上させることが求められます。

 雑談を通じて、上司と部下が仕事の枠を超えて個人的な話題に触れることで、信頼関係が深まります。これにより、部下は安心して自身の考えや悩みを共有できるようになり、心理的安全性が確保されます。
 例えば、部下が抱えるプライベートな問題が仕事のパフォーマンスに影響を与えている場合、雑談を通じてその問題を把握し、適切なサポートを提供することができるでしょう。人事部門は、こうした雑談の効果を理解し、マネジャー向けの研修やワークショップでその活用方法を教えることが有効です。

3. 多様性とインクルージョンの推進における雑談の意義

 雑談を通じて社員が自己開示を行い、互いの価値観や背景を理解し合うことは、組織における多様性(ダイバーシティ)とインクルージョンの推進において極めて重要です。多様なバックグラウンドを持つ社員同士が雑談をすることで、互いの違いを尊重し、共通の理解を深めることができます。これは、特に国際的な企業や文化的背景が異なる社員が多い職場において、強力な効果を発揮します。

 人事部門は、雑談を単なる世間話としてではなく、多様な視点や意見を共有するための手段として推奨することが重要です。
 例えば、社内イベントやチームビルディングの活動の中で、雑談を通じた相互理解を促進するプログラムを導入することで、組織全体での多様性の尊重とインクルージョンが推進されます。これにより、社員一人ひとりが自分らしく働ける環境が整い、組織のイノベーションや創造性が高まることが期待されます。

4. 採用プロセスにおける雑談の役割とその効果

 採用面接においても、雑談は非常に重要な役割を果たします。面接官が応募者との雑談を通じてリラックスさせることで、応募者の本音や自然な姿を引き出すことができます。これにより、応募者の性格や価値観、そして組織文化との適合性をより正確に評価することが可能となります。

 雑談を通じて応募者がどのような考え方や価値観を持っているのかを理解することで、面接官はその人物が自社に適した人材であるかどうかを見極めることができます。また、面接官自身が応募者に対して会社の雰囲気や価値観を伝えることで、応募者の会社に対する理解と共感を深めることができます。人事部門は、面接官に対して雑談を戦略的に活用する方法をトレーニングし、採用の質を高めるための施策を講じることが重要です。

5. リーダーシップ育成における雑談の活用とその重要性

 リーダーシップ育成プログラムにおいて、雑談のスキルを含めることは非常に効果的です。リーダーは、部下との雑談を通じて信頼関係を築き、チーム全体のモチベーションを高める役割を担います。本書でも紹介されているように、雑談はリーダーが部下の状況やニーズを把握し、適切なサポートを提供するための重要なツールとなります。

 例えば、リーダーが雑談を通じて部下のキャリア志向や個人的な関心事を把握することで、部下のモチベーションを向上させるための施策を考案することができます。さらに、雑談を通じてリーダー自身も部下に対して自己開示を行い、信頼関係を強化することが可能です。人事部門は、リーダーシップ育成プログラムに雑談の技術を取り入れ、リーダーがより効果的にチームをマネジメントできるようサポートすることが求められます。

6. キャリア開発における雑談の活用と促進

 社員のキャリア開発において、雑談を通じて自己認識を深め、キャリア目標を明確にすることが重要です。人事部門は、社員が自分自身のキャリアについて考えるきっかけを雑談の中で提供することを奨励することが効果的です。例えば、上司が雑談を通じて部下のキャリア志向や興味を引き出し、それに基づいてキャリア開発プランを策定することができます。

 また、雑談を通じて社員が自分の価値観や強みを再認識することで、より明確なキャリア目標を設定し、それに向かって積極的に行動するようになることが期待されます。人事部門は、キャリア開発の一環として雑談の活用を推進し、社員が自分のキャリアを主体的に切り拓くためのサポートを行うことが求められます。

7. 組織文化の形成と雑談の役割

 雑談が組織文化に与える影響は非常に大きいです。人事部門としては、雑談を通じたコミュニケーションのあり方を組織文化の一部として取り入れることで、オープンで協力的な風土を育むことができます。特に、雑談が単なる社交辞令にとどまらず、建設的な意見交換や問題解決の場として機能するようにすることが重要です。

 例えば、組織全体で定期的に雑談の機会を設けることで、社員同士のコミュニケーションが活性化し、新しいアイデアや改善提案が生まれやすくなります。また、雑談を通じて上司と部下、異なる部署間の垣根が低くなることで、組織内の風通しが良くなり、より協力的な文化が形成されます。人事部門は、雑談を組織文化の一環として位置付け、その効果を最大限に引き出すための取り組みを進めることが求められます。

8. 雑談を通じた組織の課題発見と解決策の創出

 雑談は、組織内の潜在的な課題や問題を発見するための貴重な手段でもあります。社員が自由に意見を交換できる雑談の場は、日常業務では表面化しないような問題や課題を浮き彫りにすることがあります。例えば、ある部署で抱えている業務の負担や、社員の不満が雑談の中で共有されることで、それが組織全体の課題として認識されるようになるかもしれません。

 人事部門は、こうした雑談から得られる情報を積極的に収集し、組織全体の課題として解決策を検討することが重要です。また、社員が安心して問題を共有できるような信頼関係を築くためにも、雑談の場を設けることが効果的です。これにより、組織の健全性を維持し、社員がより働きやすい環境を作ることができます。

まとめ

 このように、雑談は単なる世間話ではなく、組織運営や人材育成において多くの重要な役割を果たすことが分かります。人事部門としては、雑談の持つ力を理解し、それを戦略的に活用するための施策を講じることが求められます。雑談を通じて社員同士のコミュニケーションを促進し、信頼関係を築き、多様性を尊重する組織文化を育むことで、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することが可能です。
 本書を参考に、人事の視点から雑談を効果的に活用する方法を検討し、実践することで、より強い組織を作り上げることができるでしょう。

日本の伝統的なビジネス環境からグローバルなビジネス環境へ移行するビジネスプロフェッショナルを描いています。左側では、形式的な雑談を交わしながら、控えめにお辞儀をする姿が見られ、伝統的な日本のオフィスの装飾がその場を引き立てています。右側では、同じ人物が国際的な同僚とよりオープンでダイナミックな会話を楽しんでおり、視線を合わせて笑顔を交わし、戦略的なビジネスのアイデアを議論しています。この変化が、形式的なコミュニケーションスタイルから、より戦略的で開かれたスタイルへの移行を象徴しています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?