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若手の力を引き出す職場づくり:リクルートワークス研究所・古屋星斗氏の考察

 Aoba-BBTの番組『組織人事ライブ704』のテーマは「若手の力を活かす職場づくり~「ゆるい職場」を超えて~(古屋星斗氏(リクルートワークス研究所 主任研究員)」でした。
 現代の若手社員の育成に関する課題と解決策について詳細な議論が展開されました。大変興味深い内容でした。内容を確認し、考察してみたいと思います。


労働環境の変化

 近年、日本の職場環境は劇的な変化を遂げています。これは主に労働関連法の改正によるものです。具体的には、若者雇用促進法、働き方改革関連法、パワハラ防止対策などが挙げられます。これらの法改正により、労働時間の短縮が進み、若手社員の残業時間は大幅に減少しています。

 統計によると、週40時間以上働く若手の割合は、ここ数年で半減しています。 また、有給休暇の取得率も顕著に向上しており、半数以上の社員が有給休暇を取得できるようになりました。これは、年5日の有給休暇取得が義務化されたことも大きな要因です。さらに、パワハラ防止対策の影響で、職場でのコミュニケーションスタイルも変化しています。上司が部下を褒める機会が増え、厳しい指導や叱責の機会は減少しています。

 これらの変化は、全体的に職場環境の改善につながっていますが、同時に従来の育成方法の再現を困難にしている側面もあります。特に、長時間労働を前提とした「OJT(On-the-Job Training)」型の育成が難しくなっています。

若手の意識の変化

 職場環境の改善に伴い、若手社員の職場に対する評価は概ね改善傾向にあります。しかし、興味深いことに、キャリアに対する不安は増加しています。特に、「職場でスキルや技能の獲得が十分にできていない」「周りと比べて自分の成長速度が遅いように感じる」といった不安が顕著です。 また、大手企業においても若手の早期離職率が上昇傾向にあることが報告されました。

 これは、労働環境の改善だけでは若手の定着に十分でないことを示唆しています。若手社員の中には職場が「緩い」と感じて離職を考える者もいれば、逆に「きつい」と感じて離職を考える者もおり、個人差が大きいことが指摘されました。 さらに、SNSの普及により、同世代の友人や知人のキャリア情報をリアルタイムで得られるようになったことも、若手のキャリア意識に影響を与えています。他社や他業界での成功事例を見ることで、自身のキャリアに対する不安や焦りが高まっているケースも少なくありません。

育成の課題

 従来の日本企業では、若手社員を「囲い込んで計画的に鍛える」という育成方法が一般的でした。しかし、労働時間の短縮や職場環境の変化により、このような方法の再現性が低下しています。特に、管理職の労働時間も制限される中で、若手の育成に十分な時間を割くことが難しくなっています。 さらに、企業単独での育成にも限界が生じています。

 グローバル化や技術革新のスピードが速まる中、一つの企業だけでは必要なスキルや経験を全て提供することが困難になっています。このため、大学や他企業との連携、外部リソースの活用など、新たな育成方法の模索が必要となっています。 また、若手社員の多様化も課題の一つです。新卒採用だけでなく、中途採用や外国人採用も増加しており、画一的な育成プログラムでは対応しきれなくなっています。個々の背景やスキルレベルに応じた、よりパーソナライズされた育成アプローチが求められています。

新しい育成アプローチ

 これらの課題に対応するため、新しい育成アプローチが提案しています。特に重要とされたのは、「心理的安全性」と「職場のキャリア安全性」(成長予感)です。心理的安全性とは、職場で自由に意見を言ったり、新しいことに挑戦したりできる環境のことを指します。

 一方、職場のキャリア安全性とは、その職場で働くことで社会で通用する人材になれるという認識のことです。 これらの要素が高い職場ほど、若手社員のワークエンゲージメントが高まることが報告されました。また、外部での経験や他部署での経験が、自社での成長予感を高める可能性も指摘されました。
 例えば、副業や社外での勉強会参加などの経験が、自社での仕事へのコミットメントを高める傾向があるとのことです。 さらに、メンタリングやコーチングといった個別指導の重要性も強調されました。上司や先輩社員が若手のキャリア開発を支援し、定期的なフィードバックを提供することで、若手の成長を促進し、不安を軽減することができます。

これからの若手育成

 討論の結論として、これからの若手育成では個人差を考慮したアプローチが必要であることが強調されました。同じ職場環境でも、それを「緩い」と感じる社員と「きつい」と感じる社員が存在するため、画一的な育成方法では対応できません。 また、若手社員の「成長予感」を創造することがマネジメントの鍵となることが指摘されました。成長予感を高めるためには、自社の仕事の価値や可能性を再認識させる機会を提供することが重要です。
 例えば、他部署や他社での経験、ロールモデルとなる先輩社員との交流などが効果的であると提案されました。 さらに、キャリアパスの可視化や、スキル開発の機会の提供も重要です。若手社員が自身の将来像を明確にイメージでき、そのために必要なスキルや経験を計画的に積むことができるような支援体制が求められています。

まとめ

 労働環境の改善に合わせた「育て方改革」が必要であり、若手の成長予感を高めることが重要な課題であると結論付けられました。この「育て方改革」は、法律の変化や若手の意識変化に対応しつつ、個々の社員の特性や希望に合わせたきめ細かいアプローチが求められます。また、企業内だけでなく、大学や他企業との連携も含めた、より広い視野での人材育成戦略の構築が今後の課題として挙げられました。

人事の立場でどう取り組むか

採用戦略の見直し

 人事部門にとって最も重要な課題の一つです。多様な人材を確保するため、従来の新卒一括採用に加えて、通年採用や中途採用を積極的に取り入れる必要があります。これにより、様々なバックグラウンドや経験を持つ人材を獲得し、組織の多様性を高めることができます。また、採用時には候補者の成長意欲や適応力を重視する選考基準を設けることが重要です。
 具体的には、過去の学習経験や課題解決能力、チームワークスキルなどを評価項目に加えることで、将来の成長可能性が高い人材を見出すことができます。さらに、オンライン面接やAIを活用した選考プロセスを導入することで、より効率的かつ公平な採用を実現することができるでしょう。

オンボーディングプログラムの強化

 新入社員の早期戦力化と定着率向上に大きく寄与します。入社後の早い段階で会社の文化や期待値を明確に伝えることが重要です。このプログラムには、企業理念や行動指針の理解、業界知識の習得、社内システムの使用方法など、幅広い内容を含める必要があります。
 また、メンター制度を導入することで、新入社員の不安解消と早期適応を効果的に支援することができます。メンターには、入社2-3年目の若手社員を起用し、より身近な先輩からのアドバイスを受けられるようにすることが効果的です。
 さらに、オンボーディング期間中は定期的なチェックインを行い、新入社員の適応状況を把握し、必要に応じて追加のサポートを提供することが重要です。

柔軟な人事制度の設計

 若手社員のキャリア形成と組織の活性化に大きな影響を与えます。ジョブ型雇用の導入を検討し、職務内容と評価基準を明確化することで、若手社員が自身のキャリアパスを具体的にイメージしやすくなります。
 また、社内公募制度を充実させることで、若手の自発的なキャリア形成を支援することができます。公募情報を定期的に全社に公開し、応募のハードルを下げるための説明会なども開催することが効果的です。
 さらに、スキルベースの人事制度を構築し、年齢や勤続年数に関わらず、能力と成果に応じた評価・登用を行うことで、若手の意欲向上と組織の競争力強化につながります。

評価・フィードバック制度の改革

 若手社員の成長を促進し、モチベーションを高める上で非常に重要です。短期的な成果だけでなく、成長プロセスも評価対象に含めることで、若手の挑戦意欲を引き出すことができます。
 例えば、新しいスキルの習得や、困難な課題への挑戦なども評価項目に加えることが有効です。また、定期的な1on1ミーティングを制度化し、上司と部下のコミュニケーションを促進することで、タイムリーなフィードバックと課題解決が可能になります。
 さらに、上司だけでなく同僚や部下からも評価を受ける仕組みを作ることで、多角的な視点からの成長支援が可能になります。

研修プログラムの刷新

 若手社員のスキル向上と視野拡大に大きく貢献します。オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッド型の研修を導入することで、学習の効率性と柔軟性を高めることができます。オンデマンド型のe-learningと、対面でのワークショップを効果的に組み合わせることが重要です。
 また、外部講師や他社との合同研修を取り入れることで、視野を広げる機会を提供することができます。業界のトップランナーや異業種の経営者を招いた講演会なども定期的に開催することが効果的です。
 さらに、実践的なビジネススキル(プレゼンテーション、ネゴシエーション、データ分析など)に焦点を当てた研修を充実させることで、若手の即戦力化を図ることができるでしょう。


若手社員の育成に焦点を当てた現代的なオフィス環境です。様々な作業スペースがあり、社員が共同プロジェクトやトレーニングセッション、非公式なディスカッションに従事しています。オープンスペースと集中作業のためのプライベートエリアのバランスが取れています。メンターや上級スタッフが若手社員を指導する様子が見られ、ポジティブでダイナミックな雰囲気が漂います。壁にはホワイトボードやチャート、モチベーショナルな引用が掲示されており、オフィスは明るく、大きな窓から自然光が差し込み、植物が自然のアクセントを加えています。


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