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【書籍】自律と主体性ー陳建一氏の料理哲学から学ぶ

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp149「4月28日:マニュアルの先にあるものを読む(陳建一 四川飯店オーナーシェフ)」を取り上げたいと思います。

 陳シェフの管理スタイルは、指示を待つのではなく、自発的に行動を起こせるスタッフが成長するという信念に基づいています。彼は料理を提供することを最終目的とし、それに向けてスタッフが自主的に動ける能力を非常に重視しています。自分から何をすべきかを理解し、迅速に対応できるスタッフは、その能力が向上すると述べています。一方で、次の指示を待っているだけのスタッフは成長が見られないと彼は指摘します。指示されれば間違いなく実行するが、自分からは先読みして動けないというのが、彼が見る大きな違いです。

 陳シェフは自身の経験も語っており、若い頃は父親、陳建民氏のもとで料理の出張サポートをしていました。この時、いかにして父が仕事をやりやすい状態を作り出すかが彼の主な仕事でした。その過程で、様々な状況に応じて即座に動ける能力を養い、また先方との交渉など、細かな準備が必要な状況も多々ありました。これらの経験が、彼にとって速やかに物事を進める性格を形成する一因となりました。

 料理に対する彼のアプローチは、「料理人イコールサービスマン」という考え方に基づいています。彼は、料理人としての技術だけでなく、顧客サービスを非常に重要視しており、そのために彼の店では常に調理場の見学が可能です。これにより、スタッフは常に顧客に見られる環境にあり、そのプレッシャーが彼らの成長につながると信じています。また、このオープンな環境は、顧客に対して透明性を示し、信頼を築く手段となっています。

 陳シェフは、すべての料理人がサービスの精神を持つべきだと強調しており、ディズニーランドのような楽しい体験を目指すと述べています。彼の目標は、技術的な卓越性を追求するだけでなく、訪れた客が喜んで帰ることを最優先に考えることです。この考えは、単に料理技術の向上を目指すのではなく、客の体験を通じて真のサービスを提供することを意味しています。

僕の考え方は単純で、料理人イコールサービスマン。料理人よ、サービスマンたれと。だからうちの店では、ご存じの通り、お客さんがいつでも調理場の見学ができる。そうすると皆が笑顔で迎えるでしょう。見られることで弟子たちも成長する。料理人だからって料理を作っているだけじゃダメ。うちはディズニーランドを目指しているんだから。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p149より引用

 職人としての彼のスタンスも独特で、技術は高いが対人スキルに欠ける職人に対しては、その能力を尊重し、無理に変えようとはしません。彼は、人それぞれの性質や能力に応じて対応することの重要性を理解しており、それぞれの職人が最良の状態で働けるよう配慮しています。

ただ、職人の中にはそういうのが嫌いなのもいる。すごい技術を持っているけど、黙って集中するとか笑顔が出ないとか。僕はね、そういう職人はそっとしておくの。だってできないものは、できないんだから。しょうがないよね。それはその人間がよい悪いという問題とは違うからね。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p149より引用

陳シェフにとって重要なのは、彼が提供する料理とサービスによって、客がどれだけ幸せに感じるかであり、他人の評価や批評は二次的なものとして捉えています。彼の哲学は、料理業界においても広く受け入れられるべき価値観を提供していると言えるでしょう。

人事としてどう考えるか

 陳建一氏の言葉には、人事管理においても重要な教訓が含まれています。特に、自律性、主体性、そして個々の能力に対する理解と尊重の重要性が強調されています。彼の経験は、料理の世界に限らず、あらゆる業界での人材育成やマネジメントに適用可能な普遍的な価値を持っています。

自律性と主体性の育成

 陳氏の話からは、自律性と主体性を持った人材がいかに成長しやすいかが浮かび上がります。仕事に対する事前の詳細な指示を出さず、従業員に自ら考え行動させることで、彼らの自立心と問題解決能力を養うことができます。人事管理の観点からこれを解釈すると、従業員に一定の自由度と責任を与え、彼らが自分の判断で行動できる環境を整えることの重要性が示されています。これは、従業員のモチベーションの向上だけでなく、組織全体の革新性と柔軟性の向上にも寄与します。

個々の能力への理解と尊重

 陳氏は、個々の従業員が持つ固有の能力や特性を理解し、それに基づいて彼らを尊重することの重要性も語っています。例えば、彼は自身の料理人としてのアプローチを述べつつ、すべての職人が同じ方法で最高のパフォーマンスを発揮するわけではないと認識しています。人事管理においてこれは、従業員一人ひとりの個性を理解し、その能力や適性に合わせた役割や職務を割り当てることの大切さを示しています。このようなアプローチは、従業員の満足度と効率性を高めることに繋がります。

コミュニケーションと環境の整備

 さらに、陳氏は、良好なコミュニケーションとポジティブな職場環境の構築が、従業員の成長と組織の成功に不可欠であることを強調しています。料理人がお客様の前で調理することによって成長する機会を提供する彼の方法は、透明性と開放性がもたらす利点を示しています。人事管理において、この教訓は従業員が自己表現を行い、相互に学び合う機会を持つことの価値を強調します。また、労働環境を整え、従業員が安心して仕事に取り組めるよう支援することが、組織の生産性を高める上で重要であることを示唆しています。

まとめ

 陳建一氏の経験と考え方は、人事管理の実践において重要な洞察を提供します。自律性と主体性の育成、個々の能力への理解と尊重、効果的なコミュニケーションと職場環境の整備は、従業員の満足度を高め、組織の成功を促進するために欠かせない要素です。これらの原則は、料理界に限らず、あらゆる業界の人事管理において適用可能であり、組織が目指すべき人材育成とマネジメントの理想像を示しています。

四川飯店のオーナーシェフである陳氏の哲学を象徴するシーンを捉えています。自主性、職人技、そして顧客満足に焦点を当て、活気に満ちたオープンキッチンの環境が描かれています。シェフたちはお互いや顧客と積極的に関わり合いながら、個々の才能を生かしてチームとして調和しながら四川料理を情熱をもって調理しています。この温かく招待する雰囲気は、陳氏が推進する透明性とコミュニケーションの文化を反映しています。柔らかく優しい画風は、陳建一氏の経営と料理に対する哲学の背後にある温かさと人間味を伝えます。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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