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50代社員の戦力化:内省とジョブ・クラフティングの効果ープレジデント記事より

 『プレジデント2024年7/19号)』は、「お金に困らない生き方 2024」でした。その中で、「失われた仕事への熱意がよみがえる「ジョブ・クラフティング」とは何か?(ライフワークス・佐々木淳氏)」(p110)は大変興味深い記事でした。

 この記事では、モチベーションを失った50代社員を再び戦力化するための佐々木氏が所属する企業(ライフワークス社)の研修を取り上げながら解説しています。

 現代のビジネス環境はめまぐるしく変化しており、企業は50代社員が持つ豊富な知識や経験を活かして、商品やサービスの企画、顧客の課題解決などに貢献することを期待しています。しかし、役職定年や昇進の停止などにより、働く意欲を失っている50代社員も少なくありません。

 そこで、ライフワークス社が提供する2日間、合計15時間のキャリア開発研修を活用します。研修のキーワードは「内省」で、過去のキャリアや価値観を深く見つめ直すことです。これは過去の失敗を反省することとは異なり、自分自身を客観的に理解し、新たな可能性を見出すためのプロセスです。

 研修の初日には、過去のキャリアにおける転機と、社会人になるまでの原点について内省します。例えば、過去のプロジェクトで成功を収めた経験や、学生時代に抱いていた夢などを振り返り、自身の価値観や強みを再認識します。

 2日目には、初日の内省を踏まえ、自身の仕事における新たなキャリアコンセプトを30字程度でまとめます。この際、「ジョブ・クラフティング」という手法を活用します。これは、自身の仕事を見直し、自分らしさや新しい視点を取り入れて再定義することで、仕事のやりがいやパフォーマンスを向上させる手法です。具体的には、「タスク(仕事の範囲や種類)」「関係(他者との交流の質や量)」「認知(仕事に対する考え方)」の3つの要素を再定義します。特に「認知」は重要で、自分の価値観や強みに基づいて、仕事に新たな価値を見出すことが求められます。

 研修の成果を最大限に引き出すためには、人事担当部門が彼らの上司を巻き込み、研修後のフォローアップを行うことが重要です。定期的な1on1ミーティングなどでキャリア開発を支援したり、研修の成功例を社内に共有することで、社員のモチベーション向上や組織全体の活性化を図ることができます。

 この記事で紹介されたメーカーのベテラン営業職の方の例は、研修の効果を具体的に示しています。研修を通じて自身の強みと弱みを客観的に把握し、物流の最先端化という課題に取り組むことを決意しました。そして、社内公募に応募し、東京営業部の業務課係長職という新たなキャリアを手に入れました。これは、ジョブ・クラフティングによって、自身の価値観と強みを活かせる仕事を見つけた好例といえるでしょう。

人事部門としての役割を深掘り

 研修の成果を最大限に引き出すためには、人事が上司を巻き込み、フォローアップを行う必要があることは、記述のとおりです。50代社員のキャリア開発研修は、組織の活性化と持続的な成長を促すための重要な戦略でしょう。この研修は、単なるスキルアップの機会ではなく、組織全体の活性化、知識・経験の伝承、多様な人材の活用、柔軟な人事制度の構築、上司との連携、そして組織文化の醸成といった多岐にわたる効果をもたらすものです。

1.組織の活性化

 50代社員は豊富な経験と知識を持つ一方で、役職定年や昇進の停止により、モチベーションが低下し、組織への貢献意欲が薄れてしまうケースも少なくありません。キャリア開発研修は、このような状況を打破する有効な手段となります。例えば、過去の成功体験や失敗から得た教訓を振り返ることで、自身の価値観や強みを再認識し、新たなキャリア目標を設定するきっかけとなります。これにより、組織に対するエンゲージメントを高め、組織全体の活性化を促すことができます。

2.知識・経験の伝承

 50代社員が持つ知識や経験は、組織にとって貴重な財産です。しかし、これらの知識や経験が適切に伝承されなければ、組織の競争力低下につながる可能性があります。キャリア開発研修では、50代社員がメンターとして、若手社員の育成に積極的に関わる機会を設けることができます。例えば、OJT(On-the-Job Training)やメンタリングプログラムを通じて、50代社員が持つ専門知識やノウハウを若手社員に伝授することで、組織の持続的な成長を支えることができます。

3.多様な人材の活用

 50代社員は、これまでのキャリアを通じて多様な経験を積んできています。キャリア開発研修を通じて、50代社員が持つ多様なスキルや能力を活かせる新たな役割を見つけ出すことで、組織の多様性を高め、イノベーションを促進することができます。例えば、50代社員が持つ豊富な顧客とのネットワークを活かして、新規事業の立ち上げに貢献したり、これまで培ってきたマネジメントスキルを活かして、若手社員の育成に携わるなど、多様なキャリアパスを提案することができます。

4.柔軟な人事制度の構築

 キャリア開発研修の効果を最大限に引き出すためには、研修後のフォローアップ体制を整備し、50代社員が新たなキャリアに挑戦できるような柔軟な人事制度を構築することが重要です。例えば、ジョブポスティング制度や社内FA制度などを導入し、50代社員が自身の能力や希望に応じて、社内の様々な部署や職種に挑戦できる環境を整えることができます。また、副業や兼業を認める制度を導入することで、50代社員が社外で新たなスキルや経験を積む機会を提供することも有効です。

5.上司との連携

 キャリア開発研修の効果を高めるためには、上司との連携が不可欠です。研修の内容を上司と共有し、研修後のフォローアップについて具体的な計画を立てることで、50代社員が研修で得た気づきや学びを実際の業務に活かせるようにサポートすることができます。例えば、定期的な1on1ミーティングを実施し、50代社員のキャリア目標や課題について話し合う機会を設けたり、研修で学んだスキルを活かせるようなプロジェクトへのアサインを検討するなど、上司が積極的に関与することで、研修の効果を最大化することができます。

6.組織文化の醸成

 キャリア開発研修は、社員一人ひとりが主体的にキャリアを考え、行動する組織文化を醸成するきっかけにもなります。50代社員だけでなく、全社員が自身のキャリアについて考え、成長し続けることを奨励する組織文化を構築することで、組織全体の活性化と持続的な成長を促すことができます。例えば、社内報やイントラネットなどで、50代社員のキャリア開発事例を紹介したり、キャリアに関するセミナーやワークショップを定期的に開催するなど、社員のキャリア意識を高めるための取り組みを積極的に行うことが重要です。

 人事としても、これらの視点を踏まえ、50代社員のキャリア開発研修を効果的に実施することで、組織全体の活性化と持続的な成長に貢献することができるものと思われます。50代社員のキャリア開発研修は多くの企業で行われるようになってきましたが、実効性のあるものとするためには、もう一工夫必要でしょう。今号の大テーマは「お金に困らない生き方」ではありますが、50代のキャリア開発が、お金に関する悩みもまた解決していく1つとなり得ると考えられます。

50代の社員が企業の研修セッションに参加している様子です。現代的な会議室で、大きな窓やプロジェクター、ノートがたくさん書かれたホワイトボードがあります。参加者は男女ともに多様で、メモを取ったり、自分の考えを発表したりしている姿が見えます。協力的でエネルギッシュな雰囲気が漂い、柔らかいパステルカラーの配色が暖かく前向きな印象を与えています。

この研修は、「ジョブ・クラフティング」を活用し、50代社員が再び働く意欲を取り戻し、企業に貢献するための新たなキャリアを模索する場です。過去の経験を振り返り、自分自身の強みや価値観を再認識することで、仕事に新しい価値を見出し、パフォーマンスを向上させることを目指しています。



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