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浦上咲を・・かたわらに ψ (psi)ーβ

Etude23ー2 Premonition=予感

咲はいよいよ「自分の肉体からだ」の限界を感じたようだった

「耕作、あたしね、もう、ホスピスに行こうかと思うんだ。」

突然の提案だった。
確かに、最近の咲は目に見えて「細って」いた。、

人はどうしても「楽観的」な方に、
おのが運命や環境を持っていこうと思うものだ。
だけど、咲の病気は、
そもそもが「これを運命づけていた」はずじゃないか。

そんなことは解っていたのに、
希望的な事しかみてない自分のバカさ加減に、あらためて気づいた。
客観的に彼女の病魔は、その命を奪うレベルにまで達していたのだ。

運命とは、いつも人の儚い希望なぞなにも考えず、
ただ、残酷に結末を持ってくるものだ。
「希望」とはあだ花のようなものだけど、
これを捨ててしまえば、人は生きる意味を持たない。

だけども、現実は思うとおりにはならないものだ。
それなのに、あくまでも人は希望を持とうとする。
これはむなしく徒労なのだろうか・・。
そんなことを思うのだ。

だが、それでいいと思った。

咲が「ホスピス」に行こうと思ったのは、
「ひとりで人生の総決算」を考えたいからだと聞いた。
 ホントにひとりで「自然に死んでいきたい」と考えたからだという。

強い意志だった。僕に反対する理由はなにもない。
なぜなら咲の人生は彼女だけのものだからだ、
夫と言えども、それは不可侵だ
だからその希望にそうのはあたりまえのことだ。

おそらく、彼女は「即身仏ほとけ」に
なろうとしているのではないかと、
ふと思った。

問題は、「はるか」だった。

僕は、咲が亡き後は、娘のはるかを育てるために、
今の仕事を変えるしかないと思っていた。
だから、今回のラングーンアウンサン慰霊式取材が終わったら、
今の仕事を辞めて、はるかを育てられる条件の仕事に
転職しようと思っていた。

「浦上の家の方で、はるかはなんとなくなついて暮らしてるし・・。
あたしがこんなんじゃ、耕作に申し訳が立たないよ。」
「はるかは、僕の娘だ、大丈夫、安心して。」
「・・・・うん、・・・。」

向こうのベビーベッドに、
そろそろハイハイを始めたばかりの「はるか」が
すやすやと眠っていた。

この子にも「人生」がある。その決定権は奪えない。
だから、なんとか、生まれてきた環境で
「そのあと」を生きるための仕掛けだけは
親としてやらなければならないのだ。

「だから、耕作・・、あたしより先に死んじゃダメだよ・・。」

僕は黙ってうなずいた。
だが、今回、ラングーン取材アウンサン慰霊式には、
大きな危険があることも予感していた。

 背後に、北朝鮮工作員による、
韓国大統領への「暗殺計画」があるようだという、
不確定なリークがあったからだ。

たしかに、あの国は何をやるか解らない。
しかしながらそれは、すべて「未確認」なのだ。
だからといって、なにもないとは言い切れないのだ。

だが、わが国の政府も、人々も、
もしかして世界中が、あの国の怖さを知らない。

たぶん何かが起こるだろう。
それに巻き込まれないとも限らないわけだ。

ひょっとしたら、咲も、何か予感していたのかも知れない・・。
昭和581983年の夏は、ことさら暑かった・・。


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