「小世界大戦」の【記録】 Season1-5
*注)物語の設定時代背景が「昭和末期」の学校であるので、現在においては一部不適切(職員室の喫煙、体罰、上司のパワハラ、現在では差別用語ととられる表現)と感じられる表現が、演出上混じることを、ご容赦くださいますようお願いいたします。
その学校の「ルーティン」
ガラッと戸が開いて、イガクリ頭に黒縁めがねの、白衣の教員が、
戸から顔だけ出してこう叫んだ。
「2号館の渡り通路に車の移動をお願いします!」
その言葉に反応し、がたがたと数人の教師たちが廊下に出て行った。
職員室には新任と転任の教員と、
ひな壇の管理職だけが残っていた。
吾郎は、残っていた管理職に思い切って訪ねてみた。
「いまのって、駐車場の車の移動ですか?」
すると、平山先生がにやりと笑った。
「酒巻先生、あれは暗号です。今月は【車の移動】ですが、
2号館の渡り通路で異変発生、
緊急体制に入ってくださいという意味です。
先生方も、もうお客さんじゃないのですから、
2号館方面に向かってください。今日は、見学だけで結構です。」
見学だけという言葉がなんとなく気に障ったが、
そんなことで腹を立ててる場合でもなかろう。
そう吾郎は思って廊下に出た。
「うわ!」
廊下に出た瞬間、目の前を、二人乗りした原付バイクが通り抜けていった。
そのあとを何人もの教員が追いかけていく。
廊下から渡りにつながる出口を閉じようとした
数人の教員を威嚇するように爆音とホーンを鳴らし、
制止を振り切って渡り通路から、
野球部とサッカー部が練習をしているグラウンドの中を抜け、
裏門から外に通り抜けていった。
部活中の生徒たちは、慣れた感じで、
ささっと指示もない中、安全なところに避難していた。
すでに日常化している風景なんだな・・。
と吾郎は思った。
一連の騒ぎが収まると、部活中の生徒も、教師たちも、
何事もなかったかのようにそれぞれに散っていった。
気がつくとそばに財前がいたので、吾郎は話しかけた。
「財前先生、警察には通報したんですか?」
財前は、にやりと笑みを浮かべて言った。
「このくらいで、いちいち通報してたら、切りがありませんから・・。」
「・・・・。」
「驚きました?」
吾郎は素直にうなずいた。
「さっきのバイクは本間が運転してましたけど、
後ろに乗ってたのは、本校の3年生の問題児です。」
「・・え?・・。」
「こいつはヤバいですね、ということは、
本間から『番』をもらったって事かな・・。」
「え・・・?何ですか?その『番』って・・。」
「言ってみれば、『ツッパリの感染源』とでも言うべきかな。
・・・ああいう風に卒業生とつるんで、自分の格を上げて、
校内での手下をどんどん増やしていくんです。」
なるほど、「虎の威」を借りながら、
影響力を増やしていくというわけか。
そういえば、大学の体育会でも似たようなモノがあったな。
と妙な納得の仕方をしていた。
こういう子どもたちの中でも「人脈」とか「派閥」みたいなモノが
未熟ながらも作られていることに、吾郎は逆に感銘すら覚えた。
もちろん、「口に出してはいけない」事ではあった。
こういう流れは、「反社会的」な組織の入り口となるからだ。
こういう現象には、TVの青春ドラマのような、
熱血教師一人のパーソナリティで対応できるものではないことを、
吾郎はこの一件であらためて思った。
「まもなく分掌部会の時間です、各先生は、部活動を修了させて、下校指導に当たってください。」
校内放送が入った。
ジャージ姿の生徒たちが次々と下校準備に取りかかり始めた。
校門、裏門、自転車乗り場、生徒玄関、
それぞれに何人かの教師が立って、生徒を送り出していた。
ものすごく自然な流れで、それが整然と行われていた。
吾郎にはそれがものすごく不思議に見えていた。
・・・なぜこのように自然に動けるのだろう・・・。
「この動きができない人たちが、去って行ったんです。
・・正直ぼくは好みじゃないですがね・・。」
財前が少し不機嫌な感じでそうつぶやいた。
「そうだ、やっぱり今日帰りに一杯やっていきましょう。
実はもう一人誘ってあるんですよ。」
吾郎は、まぁ、それもよかろうと承諾した。
もしかしたらこの財前先生も「派閥」を作りたがっているのだろうか?
なんとなくそんな気もしていた。
「あ、分掌部会始まりますよ、行きましょう。
ぼくも生徒指導部です。ヨロシクね。」
生徒指導部会が行われるのは、職員室となりの普通教室だった。
そこに入ると、さっき「暗号」を告げていった
イガクリ頭に白衣を着た教師が、
集まった教師たちに向かって指示をしていた。。
「お疲れ様です、早速ですが、作業から始めます。
おのおのそこのバケツと火ばさみを持って
2号棟校舎の「おそうじ」に向かいます。
それが終わってから、またここに集合です。
3つの班に分けます、A班は3階、B班は2階、C班は3階をそれぞれ巡回してください。
特にトイレと踊り場を重点的にお願いします。」
・・いったい何が始まるのだろう・・
TO BE CONTINUE
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