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「小世界大戦」の【記録】 Season1-12

ほめごろし

永山先生は、静かに言った

「女の子の荒れはね、【情】が主な原因だから。
男の子のそれとはもっと微妙な違いがあるんだな。
ぼくは文学的表現が苦手だから、まぁ、雰囲気でしか言えないけど。」

そして、少し時間をおいて、言った

「うん・・匂いというか、空気だ。」

なんだ、十分に「文学的」じゃないか・・。

しかし、イメージとしてはなんとなく判った気がした。
それは、恋人の涼美とのやりとりで、なんとなく理解できた。

「理」ではどうしても納得されない場面は、
自分でも恋人との間ではよくあったことだった。
中学生の女子ともなれば、
心の中はもうそれと同じレベルになっているのだろう。

 女子がもし「荒れる」となれば、
ある意味厄介だろうなということは、
容易に想像できることではあった。

永山先生は、後片付けを終え、
職員室に戻るすがら、気になることを言った。

「女子の本当に悪いやつはね、
外面はとてつもなく『良い子』に見えるから。」

「・・え?、そうなんですか?」

「そう、外面の不良な子は、案外すっきりしていますよ。
三白眼で対峙してくる子より、異常なほど積極的に関わってくる子に、
若い先生は気をつけた方が良い。
まぁ、きみはデモしか教師みたいなタイプだと思うので、
ぼくはあまり心配はしてないけどね。」

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  吾郎は、まだなんとなく腑に落ちなかったが、
ちょっと本質を突かれた言葉だったので、ぎょっとした。
そして、この永山先生とのレベルの違いを、肌で感じたのだった。

・・いわゆる「熱血教師」こそ、この罠にかかりやすい。・・
永山先生はそう言っているのかも知れないと吾郎は思っていた。

昇降口にさしかかると、もう何人かの生徒が登校してきた。

「おはようございまーす!」
生徒より先に永山先生の方が大きな声で挨拶をしていた。
吾郎もつられて、大きな声で挨拶をした。

「ほう、いいよ、その声で生徒より先に挨拶することだ。
・・・あ、体育会だったっけ。
じゃあ、生徒を『先輩』と見立てて挨拶するのも悪くない。
意識改革できるよ。」

「・・・そんなもんなんですか?」
「そんなもんだ、とにかくおだてて、良い方に図にのせることです。」

吾郎は、ちょっと理解に苦しんだ。
「何かこびてませんか?」

永山先生は、にやっと笑って小さく言った。
「褒め殺し・・、って知ってますか?」
「・・・・。」
「褒めて褒めて、その子をがんじがらめにするんです。」

よく考えると、ものすごいやり方だった。


To be CONTINUE

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