タイトル1

「ネットの機能を拡張する」ってどういう意味?

「重すぎる日本のIoT」における「ネット」

 今日の日経新聞 Deep Insightに「重すぎる日本のIoT」というコメンテーターの中山敦史氏の一文が掲載されている。主張されていることはまったくその通りだと思う。ただ、一点だけ、単なる表現上のあやだと思われるが、私にはミスリーディングだと思える点があったので、それについて問題提起しておきたい。
 それは、『中国と欧米は「ネットの機能を拡張するために新しいモノ(ハード)を作る」という発想でよく似ており(後略)』という部分についてである。私はここで中山氏が言いたかったのは「提供されるサービスの機能を拡張するために新しいモノを作る」ということではないかと理解したが同時に一抹の不安も感じた。それは、中山氏の頭の中では「ネット」というコトバは広くインターネットとそれに接続された端末を含む「インターネットシステム全体」を思い描いているようだが、それでは「ネット」の意味を広く使い過ぎていて誤解を招く恐れがあり、もう少し分析的な表現が適切ではないかという点である。

「ネット」というコトバの意味

 なぜこんな点にこだわるかと言うと、ここが「ネット」か「サービス(あるいはプラットフォームと言い換えても良いかもしれない)」かでは、その先の展開がまったく変わってくるからだ。「ネットの機能を拡張するために」というときに、これを「ネット=ネットワーク」と理解すると、ネットワークの運用会社の視点になってしまうので意味が全然違ってくる。

「ネット」における付加価値の奪い合い

 コンピュータが登場した時から、コンピュータ(端末側)とネットワーク側との間での機能の奪い合いの競争が繰り広げられてきた。端末側の要望は常に「ネットワークは限りなく透明なパイプであってくれればよい。パイプの太さを太くすることだけに専念して欲しい」であったのに対し、ネットワーク側は「ネットワーク内に出来るだけ付加価値を取り込みたい」だった。
 しかし、ネットワーク側の付加価値の取り込みはほとんどの場合うまく行かなかった。古い例ではプッシュボタン電話による「電卓サービス」がある。このサービスはプッシュボタン電話の普及の速度よりも電卓(これも端末)の価格の低下が早かったのでものの見事に失敗した。
 次がISDNの付加サービス。付加サービスの多様化を目指してITU-Tで仕様化されたISDNのプロトコルであるLAP-DにはSAPI(Service Access Point Identifier)というフィールドが設けられたが、活用された例はほとんどなかった。結局、ISDNはトランスピアレントな64kbps×2のモデムとして便利に活用された。
 現在、世界の通信市場の巨人であるGAFAも一つとして運用会社発の企業はない。ネットワークの運用会社がサービスの覇者になることを期待するのは無理があるというのが、歴史からの教訓ではないかと思う。
 余談だが、上記の「端末」対「ネットワーク」の歴史を見ると、IoTで注目されている「エッジコンピューティング」という概念は一見もっともらしいが、なんとかネットワーク側に付加価値を取り込みたい運用会社の思惑を反映しているものでもあり、魅力的だがそう簡単には実現しないのではないかと思える。

「ネット」という用語の使い方に注意!

 このような背景から、「ネット」が普及し、巨大化し、多機能化したこの時代には「ネット」という単語の意味するところが広くなりすぎて、単に「ネット」と表現しただけでは、それが「端末を含んだインターネット全体」なのか、「端末側に存在するサービス」を示すのか、「ネットワーク側」を示すのかについては読み手にとって都合の良いように解釈されるリスクがあり、それによって解釈が著しく異なってしまう。
 IoTを論じる場合にも、単に「ネット」ではなく、それが「端末」なのか「サービス」なのか、「ネットワーク本体」なのかを区別して論じないと、ビジネス的には意味をなさない時代になっていることを認識すべきと思う。

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