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電気を食べる微生物

 人間は自ら栄養を作り出すことはできませんが、一部の生物は生命の維持に必要な栄養分を自ら合成します。しかし、栄養分を作るにはエネルギーが必要です。例えば植物は、太陽光をエネルギーとして二酸化炭素からデンプンを合成します。一方、太陽光が届かない環境には、化学合成生物と呼ばれる水素や硫黄などの化学物質のエネルギーを利用する生物が存在します。二酸化炭素から栄養分を作り出す生物は、これまで光合成化学合成のどちらかを用いていると考えられてきました。しかし、どちらの方法も使わない微生物の栄養合成が発見されました。

 理化学研究所の研究チームは、に太陽光が届かない深海熱水環境に電気をよく通す岩石が豊富に存在することを見出しました。そして、電気を流す岩石が触媒となって、海底下から噴き出る熱水が岩石と接触することで電流が生じていることを発見しました。これらを踏まえて、海底に生息する生物の一部は光と化学物質に代わる第3のエネルギーとして電気を利用して生きているのではないかという仮説を立てた研究を実施しました。

 研究チームは、鉄イオンをエネルギーとして利用する鉄酸化細菌の一種であるAcidithiobacillus ferrooxidansに着目し、電気のみがエネルギー源となる環境で細胞の培養を行ないました。その結果、細胞が体外の電極から電子を引き抜き、タンパク質を介して二酸化炭素から有機物を合成する能力を持つことを突き止めました。さらにA.ferrooxidansは、わずか0.3V程度の小さな電位差を1V以上にまで高める能力を持ち、非常に微弱な電気エネルギーの利用を可能にしていることもわかりました。A.ferrooxidansの研究から、電気が光と化学物質に続く、地球上の食物連鎖を支える第3のエネルギーであることがわかってきました。深海にはまだまだ不思議な生物がいそうです。

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