本当のようで嘘な話
海洋にはいくつかの大規模な水平方向の流れがあります。全球規模でみると、三大洋(太平洋・大西洋・インド洋)の亜熱帯域などに大規模な循環が存在しています。例えば、北半球亜熱帯域では時計回りの循環、南半球亜熱帯域では反時計回りの循環となっています。このような海洋表層の循環は、主に海上を吹く風が海面に及ぼす力に、地球の自転による効果が加わって発生する現象です。
北半球での南北方向の物体の運動は、地球の自転の効果で、進行方向に対して右にそれるように見えます。この現象は、地球上の人から見ると、あたかも物体を右へそらす力が働いているように見えます。この、地球が球体で自転しているために起きる”見せかけの力”をコリオリの力といいます。南半球でのコリオリの力は、物体を進行方向に対して左にそらす力となります。そのため、南半球では北半球と逆向きの力が働きます。
この原理を悪用した”インチキな実験”があります。それは赤道付近の渦の実験です。この実験は赤道直下の場所で、北半球と南半球を行き来して2つの実験を行ないます。北半球でバケツから排水すると、”時計回りの渦”が発生します。次に赤道を超えて南半球に移動して同じ実験をすると、「何という事でしょう!」、渦は反時計回りになります。
これは”観光客を楽しませる巧妙なインチキ実験”です。海洋の潮流の向きやコリオリの力を”科学的に説明する”と、何となくそんな気になります。しかし、コリオリの力はそんなに強くないので、数m離れた場所で渦が逆転することはありません。これは実験する人が練習してテクニックを見に付けただけなのです。
渦の方向は最初に加えた力の方向が肝心です。実験する人は観光客に気付かれないように、渦をコントロールしているわけです。科学実験としては全くのインチキですが、観光パフォーマンスと考えれば問題ありません。この実験は印象に残りますし、地球の自転やコリオリの力の原理を認識できるようになります。
このように、一見科学に見えて、じっくり考えると非科学であるような事例は数多くあります。結果を盲目的に信じるのではなく、疑うことが必要です。この実験がインチキかどうかは、自分だけで比較実験してみれば簡単にわかります。
大プリニウスの『博物誌』には、「磁力はニンニクを近付けると弱くなる」みたいなことが書いてあるそうです。これなんかも、実験をすれば簡単にわかります。誰がやっても結果が変わらない、再現性が担保されてこそ、はじめて科学と言えるのです。
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