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数学の小ネタ#4 数の拡張(2) 四元数

 前回の記事で、複素数について少しだけ触れました。複素数は実部と虚部の2元から構成される二元数ですが、虚数単位をさらに2つ追加した四元数しげんすうという、さらに変わった数の概念があります。

 この四元数(quaternion:クォターニオン)とは、複素数を拡張した数体系で、3つの虚数単位 i, j, k を用いて a+bi+cj+dk と表せる数のことです。ここで、a, b, c, d は実数であり、3つの虚数単位の間には以下の演算規則があります。このような演算則を使うと、四則演算が破綻せずに成立します。

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 この四元数を考えたハミルトンは、アイルランド・ダブリンのブルーム橋を渡ろうとしたときに、このアイデアがひらめいたらしく、この橋の袂には四元数を記念する碑文が残されています。その碑文には、「1843年の10月16日、ここを通りかかったウィリアム・ローワン・ハミルトンは、天才の閃きを以って四元数の乗法の基本公式を思いつき、この橋の石にそれを刻んだ」とあります。

 複素数をさらに拡張した四元数は、一体何の役に立っているのでしょうか?。この四元数は、単なる数の遊びではなく、実用上も大きな意味を持っています。CGやゲームにも使われる三次元の回転の計算は、ロール・ピッチ・ヨーの3軸の回転の組み合わせで計算されますが、この方式ではジンバルロックという不都合が生じます。

 ジンバルロックは、航空機やロケットの姿勢制御のためのジャイロで、機体の回転によって3つのジンバルリングのうち2つの軸が同一平面上に揃ってしまう現象のことです。こうなると、本来ジャイロが持つ3つの自由度が2つに制限されて、正確な姿勢が保てなくなります。このような実際の物理的な問題だけでなく、3次元CGの計算などにおいても、全く同様の問題が生じます。

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 ジンバルロックの回避の仕方は色々ありますが、四元数を使うのが回避法のひとつです。文章で説明するのは難しいのですが、本来は3つの自由度があるオイラー角の回転の問題に、もう一つ自由度を追加することで、ジンバルロックを回避することできます。

 二元数(複素数)や四元数があるのなら三元数はないの?、というのは当然の疑問です。当初、三元数のアイデアも試みられたようですが、四則演算のうちの除算(割算)がうまく行かないらしいのです。興味がある人は、その辺りのことを自分で調べてみて下さい。

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