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ミリしら物理探査

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物理探査を1ミリも知らない人に、物理探査に関する専門用語を解説します。
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#物理探査

ミリしら物理探査のまとめ#1 #0から#10まで

この歳になると、知っていることは多少多くなりますが、まだまだ知らないことの方が多いと益々実感します。私の研究分野は物理探査なので、一般の人よりは詳しいですが、専門分野以外の探査ではまだまだ分からないことがあります。研究者だからと言っても、その研究分野全般を隈なく知っているわけではありません。 今回はこのブログの原点に戻って、『物理探査』の紹介をしたいと思います。と言っても、物理探査を”1ミリも知らない”人にはハードルが高いので、まずはよく使われるキーワード的な物から始めます

ミリしら物理探査#35 非破壊検査と非侵襲検査

物理探査は地下を調べる探査法ですが、類似した方法に非破壊検査と非侵襲検査があります。非破壊検査の対象はモノの内部ですが、非侵襲検査の対象はヒトの内部です。 非破壊検査(NDT; non destructive testing)とは、機械部品や構造物の有害なキズを、”対象を破壊することなく”検出する技術です。主なものに、対象内へ放射線や超音波などを入射して内部のキズを検出したり、表面近くへ電流や磁束を流して表面のキズを検出する方法などがある。また、配管内部の腐食などの検査も非

ミリしら物理探査#33 ゼーベック効果とペルティエ効果

 ゼーベック効果(Seebeck effect)は、物体の温度差が電圧に直接変換される現象です。ゼーベック効果は、1821年にエストニアの物理学者トーマス・ゼーベックによって偶然発見された。ゼーベックは金属棒の内部に温度勾配があるとき、両端間に電圧が発生することに気づいたのでした。  このゼーベック効果を利用して温度を測定するセンサが、熱電対です。熱電対は、二種類の金属の熱電能の違いを利用するため、二つの金属を接合した構造になっています。二種類の金属を接合した熱電対を途中に

ミリしら物理探査#25 本質を見抜く力

 ”本質を見抜く力”とは、”目に見えるもの”を手掛かりに、その裏側にある”目に見えないもの”を洞察する力のことを言います。本質を見抜く力を持っている人の特徴は、”目に見えるもの”を手掛かりに”目には見えない、二段目・三段目の奥行き”を見抜ける能力を持っていることです。つまり、最終的に「ああなれば⇒こうなる(こうなりやすい)」という”法則”の発見です。なので、目に見えるものだけで物事を捉えている人には、その法則は決して見通せません。  あなたの周りに、”いち早く仮説が立てられ

ミリしら物理探査#26 二つのマイグレーション

 石油のことを勉強していると、意味が異なる二つのマイグレーション(migration)に出会います。どちらも石油に関係する専門用語ですが、一つは石油の成因に関する地質用語で、もう一つは物理探査のデータ解析に関する用語です。  地質用語のマイグレーションは、石油またはその前駆物質が天然に地下の岩石中を動くことをいいます。もともと、migrationには”移動”という意味があります。この石油の移動は、根源岩(石油が生成した岩石)から貯留岩(石油が貯まった岩石)に達するまでの一次

ミリしら物理探査#29 受動と能動

 物理探査には数多くの手法がありますが、2つに大別すれば受動的な方法と能動的な方法に分けられます。受動的(passive)な方法は、自然(天然)の物理現象を利用する方法で、能動的(active)な方法は、人工的な送信源を利用する方法です。  例えば、電気探査ではSP法(自然電位法)は受動的な方法になりますし、比抵抗法はトランスミッタを使って地面に電流を流すので能動的な方法になります。  また電磁探査では、MT法(地磁気地電流法)は、自然の電磁場応答を利用するので受動的な

ミリしら物理探査#28 自発分極と強制分極

 まずは分極の説明をします。電気などの分極とは、正の電荷と負の電荷が、何らかの原因で物質中で偏ることを指します。通常の状態では、物質中では正の電荷と負の電荷が均等に混ざっているので、”電気的に中性”になっています。ただし、この電荷の偏り、つまり分極が生じると電気的に中性ではなくなります。  自発分極(spontaneous polarization)というのは、何も手を加えなくても勝手に分極をしている電気的な状態を指します。身近なもので説明すると、自発分極の代表選手が電池で

ミリしら物理探査#27 琥珀と静電気

 物理探査学の授業で、電気探査の導入として、いつも静電気の話をしています。静電気は、物質の表面に貯まった過剰な電荷によって引き起こされます。夏場はあまり感じませんが、冬場だと毛糸のセーターによるバチバチという静電気や、エレベーターのスイッチを触れた時のちょっとした感電など、割と身近な電気現象です。  この静電気はかなり昔から知られていて、琥珀が小さなホコリやゴミをくっ付ける不思議な現象が観察されていました。琥珀は貴族やお金持ちの衣服のボタンとして使われていたため、このような

ミリしら物理探査#23 デコンボリューション

 謎の言葉”デコンボリューション”を初めて聞く人には、語感からは全く何も想像できないと思います。音だけなら”デコレーション”に似ていますが、意味は全然違います。  デコンボリューション(deconvolution) の意味を理解する前には、デ(de)を取ったコンボリューション(convolution)を理解する必要があります。コンボリューションは、畳み込みまたは畳み込み積分と呼ばれる数学的な操作です。コンボリューションは、関数 g を平行移動しながら関数 f に重ねて、掛算

ミリしら物理探査#21 空中物理探査

 物理探査は通常、地表から実施します。しかし、広い範囲を大まかに探査したい概査では、航空機やヘリコプターを使った空中物理探査が使われます。空中物理探査に対比して、通常の物理探査を地表物理探査という場合もあります。空中物理探査には、空中磁気探査・空中重力探査・空中電磁探査・空中放射能探査などがあります。空中○○探査は、英語のAirborne Geophysicsからエアボーン○○探査と呼ばれたりもします。  空中物理探査の特長は、何といってもその探査範囲の広さです。人間が徒

ミリしら物理探査#20 磁気嵐

 地球全体にわたる激しい地磁気の擾乱現象を磁気嵐と言います。磁気嵐は、太陽から飛来するプラズマ (太陽風 ) によって引き起され、そのプラズマ流が地球の磁気圏を圧縮するために生じると考えられています。プラズマ流の一部は、地球の磁力線に沿って極地方の上空から入り込み、オーロラを引き起こします。  大規模な磁気嵐の多くは、太陽フレアに伴なうコロナ質量放出と呼ばれるプラズマの塊と関係があります。このような磁気嵐は、太陽フレアの発生から1~数日後に観測され、太陽フレアが太陽黒点の活

ミリしら物理探査#18 アーチーの式

 岩石の比抵抗(resistivity)と孔隙率(porosity)の間には密接な関係があります。一見、岩石には電気が流れないような印象を持つと思いますが、そうでもありません。岩石を顕微鏡で観察すると、微細な穴(孔隙)が空いていて、その孔隙中には水が含まれています。なお、岩石中の体積に占める孔隙の体積の割合を孔隙率と言います。一般的な岩石の孔隙率は、数%から数十%程度です。この孔隙中の水の存在によって、岩石には電気が流れます。この”岩石の比抵抗と孔隙率の関係”を、実験的に証明

ミリしら物理探査#17 誘電率

 誘電率(permittivity)は、物質内で電荷とそれによって与えられる力との関係を示す係数です。簡単に言うと、電気の貯め易さを表わしたパラメータです。各物質は固有の誘電率をもち、この値は外部から電場を与えたとき物質中の原子や分子がどのように応答(誘電分極)するかによって定まります。この性質を利用して電気を貯める電子部品が、コンデンサ(キャパシタ)です。  誘電率は、地下構造を推定する物理探査では、重要なパラメータの一つです。金属鉱床の探査を得意とする強制分極法(IP法

ミリしら物理探査#10 『スキンデプス』

 地磁気地電流法(MT法)では、自然の電磁場変化を測定して地下を探査することができますが、低周波(長周期)の電磁場を使えば、かなり深い地中まで探査が可能です。このMT法の可探深度を表わす指標に、スキンデプス(表皮深度;skin depth)と呼ばれるものがあります。    元々、表皮深度とは、ある材質に入射した電磁場が 1/e (≒ 1/2.718) に減衰する距離です。 この表皮深度は、透磁率がμ、導電率がσの導体では 1 / √(π f μσ) となります。透磁率に真