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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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#MT法

フィールド調査・大霧地熱発電所#2

昨日は午後2時過ぎくらいに、大霧地熱発電所に到着しました。大霧地熱発電所には、地熱発電の概要を説明した展示館がありますが、その二階が日鉄鉱業さんの現場事務所になっています。 到着の時間を3時頃と伝えていたので、少し早く着きすぎましたが、少しして担当者の方が現場事務所に戻ってきて、”保安に関する現場講習”をしてくれました。地熱発電所構内で作業(MT法の探査など)するには、この現場講習が欠かせません。地熱発電所構内には、守るべきルールが厳しく定められています。 例えば構内では

フィールド調査・大霧地熱発電所#1

普段のブログはその日の夜に書くのですが、今日は珍しく、朝に書いています。今日は、これから鹿児島に出張です。鹿児島にはいくつか地熱発電所があって、そのひとつである大霧地熱発電所に行ってきます。大霧発電所は事業用として九州では、大岳発電所、八丁原発電所、山川発電所についで4番目、全国では10番目(自家用を含めると17番目)の地熱発電所です。 大霧発電所がある牧園町と栗野町は、鹿児島県の北部にあり、宮崎県との県境に接しています。8月に実施した宮崎県えびの町は、山を挟んで反対側の位

年度末はいつも忙しい!

 どこの職場でもそうでしょうが、年度が切り替わる3月末から4月初旬にかけては、忙しくなります。私の場合、いつもはそれほどではないのですが、今年はビッグプロジェクトが採択されたこともあり、実験や報告書の作成に追われて、てんてこ舞いです。  本当はこんな記事を書いている余裕はないのですが、最近はブログ書きが習慣化したので、日記代わりに書いています。ビッグプロジェクトというのは、MT法(地磁気地電流法)という電磁探査法の測定機を作るというプロジェクトのことです。令和3年度は、最初

地磁気と地電流

 地磁気は、地球が持つ磁気や地球によって生じる磁場のことを指します。地球は、北極側にS極、南極側にN極がある一つの大きな磁石と考えられます。この強い地球の磁場は、大気や水が宇宙空間へ拡散するのを防ぎ、地球に降り注ぐ宇宙線や太陽からの紫外線を減らす役割を担っています。地磁気は、我々を含む地球の生命を守る役目も果たしています。  この地球による磁場は一定ではなく、さまざまな時間スケールで常に変動しています。そのなかでも、地磁気脈動と総称されている現象は、周期が0.2秒から100

伊都キャンパスでMT法探査

 現在進行中のMT法プロジェクトの一環として、伊都キャンパス内でMT法の試験調査を実施しました。今回使ったのは、大学の研究費で購入したMT探査装置・V-8の新型モデルです。何故だか、このプロジェクトは計測機器などの備品が購入できないので、自腹(といっても研究費ですが)で、新しいMT探査機を買いました。1つ前のタイプの装置も持っているのですが、あまり使わないうちに古くなってしまいました。  今回は、新装置のお披露目&訓練を兼ねて、この装置の日本の総代理店である日鉄鉱コンサルタ

ぶったん偉人伝#2 Louis Cagniard

 Cagniardは、「フランスの地球物理学者であり、数学的地球物理学の様々な分野で重要な業績を残したことで知られています」と紹介されますが、私の中でのCagniardは、”地球のことに興味を持った数学者”です。  私の専門は、物理探査の中でも電気探査や電磁探査が主なので、CagniardはMT法という電磁法の論文で、初めて名前を知りました。しかし、彼の代表的な著作であるReflection and refraction of progressive seismic wav

見えない世界をお見せしましょう

 ディズニーアニメの『アラジン』では、主人公のアラジンが魔法の絨毯にお姫様を乗せて、お城の外の世界を見せます。その時の劇中歌が、『A whole new world』で、その時の歌詞が、「I can show you the world.」です。直訳すれば、「私はあなたに(外の)世界をお見せすることができます」です。  アラジンは、目に見える地上の世界をお姫様に見せていますが、物理探査を使えば、目に見えない地下世界だってお見せすることができます。英語で表現すれば、「I ca

こんな測定装置を作りたい!

 今回は、本気で本格的な研究のお話です。  10月から始まったプロジェクトでは、MT法(地磁気地電流法)の新しい測定装置の開発を目的としています。現状でも、高精度のMT探査機はあるのですが、高価(一式で高級外車が買えるくらい)ですし、磁気を測るセンサが重い(1本が10kg程度)などのため、1つの地域で多くの調査を実施することは、そう簡単ではありません。  そこで、このプロジェクトでは、小型・高精度のMT測定装置を開発し、ついでに探査コストも低減させようと目論んでいます。今

MT法の先駆者たち

 地磁気地電流法(magnetotelluric method; MT法)は、1950年にロシアの地球物理学者Andrey Nikolayevich Tikhonov、1953年にフランスの地球物理学者Louis Cagniardによって、それぞれ独自に研究されました。 当初は、探査理論や測定の難しさから実用化に時間がかかりましたが、測定装置、データ処理、数値モデリングの進歩などにより、MT法は地球深部の研究における最も重要なツールの1つとなっています。  Tikhonov

新プロジェクト始動

 2021年10月1日です。今日から、新プロジェクトを開始します。新プロジェクトと言っても、noteブログの記事のことではありません。  九州大学の私の研究室では、独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構の委託を受けて、物理探査に関する新しいプロジェクトを始めることになりました。このプロジェクトは、再生可能エネルギーである地熱エネルギーの探査の効率化を目的としたプロジェクトです。  日本は世界第3位の地熱エネルギーのポテンシャルを持つ、地熱の有望国ですが、実際の地熱発