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卵を内側からツツく音が聞こえますか?

さて今日は、「成長の機会を活かす」という、お話です。
 
 

~~ ロールモデルを持つ大切さ ~~


 自分を成長させるために、「この人の様になりたい」
「この人のレベルに達したい」と、ロールモデルを定めて精進することは、モチベーションやエネルギーを維持する上で有効です。
  
ロールモデル。
ゴールとして目指したい「理想のイメージ」を体現してくれるいわゆる
「お手本」にしたい人ですね。
  
自分がロールモデルにどれだけ近づいているか?
時にレビューしてみることは大切ですが、「理想への距離感」、理想を仰ぎ見る自分の視点と、既に理想や、それ以上の位置にいる人、つまりロールモデルと定めた人の視点には違いがある、ということを理解しておきましょう。
 
 つまり、これから目指すゴールまでの道が未知である自分と、既にその道程を経験した人の視点の違いということです。
 
 私は、米国駐在中、日本人上司を英語力のロールモデルと定めました。
もちろん、英語だけでなく仕事全般でその人から学ぶ事は山ほどあったのですが、少なくとも英語力については「この人のレベルまでになりたい!」と切に思いました。
 
 その上司は、数十年米国に居住し、米国の会社で仕事をしてきた方なので当然英語能力は抜群、発音も殆どネイティブで、「日系アメリカ人」と言っても疑われない英語力の持ち主でした。
 
 外資系で働くなら、この人の様なレベルまで英語力を高めたいという志をもって、勝手にロールモデルとしたのです。(普通、勝手に決めるものだと思いますが(笑))
  

~~ 未知の道と、既知の道に対する距離感の差 ~~


ところが、なかなか「近づく」というレベルすら実感できない・・・・
 「あ~、やっぱり長年米国で仕事をしないと、あのレベルには達しないのだなぁ。」 「このあたりが自分の限界だなぁ。」と、自信を失うことが度々ありました。
  
ある日、その上司との雑談の中で英語力が話題となり、
「いやぁ流石に、私の様な駐在員レベルで学んできた英語と、米国で長年の仕事を通じて鍛えられた英語ではレベルが雲泥の差ですね。」と、やや自嘲気味に話すと、
 
その上司曰く
「いや、安藤さんの英語は十分なレベルまで来てますよ。
もう私のレベル近く、スグそこまで来てますよ。」と。
  
部下を励ましてくれる親切な意図もあったと思いますが、その時に教えて頂いたのが、前述の「未知の道と、既知の道に対する距離感の差」です。
  
自分が辿ってきた道に照らしながら、私の英語力を評価すれば「あそこは粗いけど、ここは出来てる」とか、「ここを直せばずっと良くなる」とか、
経験的観点で実力が測れるのですね。
  
一方、私からの視点では全体がわからないまま、様々な局面でその上司の圧倒的な英語力を目の当たりにしているので、「あ、自分にはこんな対応はできない」「こんな語彙は使ったことが無い。」「まだまだ修行が足りん!」と、「出来ていないこと」に視点がいって、自己卑下しがちだったのです。
  
例えば、厳しい芸の世界では、師匠は弟子に対し常に「お前はまだまだだ!」と叱咤し、それを糧に成長を促すのでしょうが、私の幸運はその上司が、「いや、もう近くまできているよ。あなたが気づかないだけだ。」
と言ってくれたことです。
 
励ましの意味で言われたことは承知していましたので、この言葉で、安心、慢心することはありませんでしたが、以降、少なくとも無用な自己卑下に陥ることはなくなりました。
  

~~ では、どうすれば? ~~


そして、私は厚かましくも、「では、そのレベルに一歩でも近づくには
何をすればいいでしょうかね?」と上司に尋ねてみたのです。
 
凄く親切なことに、その上司は「いくつかあるけど、今アドバイスできることは2つありますよ」と。
 (以下は余談になりますが、当時頂いた教えです)
 
どんな高度なことが学べるのだろう、とワクワクしながら
教えを乞うと。
 
ひとつめは、慣用句(idiom)の語彙を増やすこと
二つ目は、発音。
「catのaはね、口を「え」の発音の形にして「あ」と発音するんです。」とか、とにかく基本中の基本の話。
 
中学一年生で最初に手にした英語の教科書の裏表紙に図解されていた、舌の位置と発音記号。アレです。
 
はぁ~~。そんなものかぁ・・・・と、一瞬、少しの期待外れを感じたものの、後に、英語のコミュニケーションにおいて
この2つの大切さは身に染みて認識することになりました。

~~ 啐啄同時(そったくどうじ)とは? ~~

 
それから数年後、日本の職場で全く同様に、「安藤さんの英語力にはとても追いつけない」などと言ってくる部下がいるときには、かつての上司と全く同じコメントで激励しました。
  
「自分はまだまだ」という謙遜は、大人の振る舞い、美学として大切かもしれませんが、「自分には無理だ」「なってない」「これじゃダメだ」と卑下することは無益でだということを説きました。
  
実際、「とても追いつけない」なんて、単なる謙遜だと思うほど、
実力を持っている人が多いです。
そうです、下から上がってくる人の道のりはよく見えるものです。
  
そして、励ましてあげて、単なる謙遜やお世辞で終わらず、かつての私がそうした様に、「何をすればよいですかね?」「どんな勉強をしてきたのですか?」と尋ねてくれれば、しめたものです!
 
ロールモデルとは言わないまでも、光栄なことに私のレベルをひとつの指標としてくれて、自らの現状と比較し、そのGAPに対して無意識にも「どうしたら?」という疑問が湧いたのですから。
  
その問いにも、お世辞の意が含まれていないことも無いのですが、私は「自分のケースだけど・・・」と前置きして、極力丁寧に説明することを心が得ています。
 
これは英語力向上のケースに限ったことではありません。
  
禅の教えに、
「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。

「啐(そつ)」とは、叫ぶ、呼ぶの意味で、卵の中にいるヒナが、
「もうすぐ生まれるよ~」と殻を内側からつつくこと。
 
「啄(たく)」とは、ついばむ、という意味で、生まれることを予知した
親鳥が、「出てきなさい~」と殻を外側からつつくこと。
 
この2つが同時に起こらなければ、無事にヒナは生まれてこない。
 
親鳥が、ヒナのつつく音に気付かなかったり、内側からつつかれてもいない未熟な卵の殻を先に破ってしまったりしては、無事にヒナは生まれてきません。
 
つまり、殻を破りたい(成長したい)というヒナの思いと、ここがヒナの生まれる好機と判断する親鳥の思いが絶妙に一致してこそ「成長の機会」が生まれるという意味です。
  
成長の機会をどう作るか?は人それぞれのやり方があると思います。
千尋(せんじん)の谷に落として、這い上がらせるのも一つの方法ですが、
 部下や弟子が、卵の殻をつついた時、それに成長の機会として丁寧に対応するのも有益な方法だと思います。
 
「俺をロールモデルにするなんて10年早いわ!」とか、
「そんな質問する前にもっと基本的なことを学べや!」とか
言わずに、成長の道程を知っている先輩として、導いてあげる機会を活かしてください。
 
部下の成長を促進するコミュケーション技術もしばしば私のコーチングセッションの取り上げられるテーマのひとつです。
  
安藤秀樹
株式会社ドリームパイプライン代表

公式ホームページ: https://dreampipeline.com
お問い合わせ先: hideki.ando@dreampl.com

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