昔観た映画『さらば愛しき大地(1982)』

市井の人々が、ふとしたきっかけで破滅のスイッチを押してしまう。

そして、逃れようとすれども、這い上がることが叶わない、蟻地獄のような状況に陥る。

映画としての印象を述べれば、そんな作品である。

癇癪持ちで酒飲みのトラック運転手の男。

苦労しながらも、ようやく家庭を持ち、幸せな家庭を築くと思われた矢先、不幸に見舞われる。

それをきっかけとして男はドラッグと酒に溺れ、どこまでも堕ちていってしまう。

それが実に日本人的な、陰湿な暗さで徹底的に描かれていく。

あらすじだけを見てしまうと、アメリカンニューシネマのような筋立てではあるが、映画好きであっても、カタルシスが見出せないほどの暗さだ。

そこに映し出されているものは、あまりにもリアリティに満ちた、とある日本の家族が崩壊に向かう様である。

時代設定を振り返ってみて、思う。

「あぁ。高度成長期の裏でこういうことも絶対あったよな・・・」


と、後追いで悲しくなるほどに、徹底的にリアルな描写が溢れている。

ある意味では、華やかなりし時代の裏には、こういう人々が確実に居たということを刻み付けた作品であるのは間違いない。

昨今の日本人監督も、現実に即した重々しい作品を作ってはいるのだけれど、ここまで痛々しいほどのリアルな作品というのは、作ることはおろか、企画時点で速攻潰されてしまいそうな気がする。

だって

商業ベースに乗せるの無理だよ、こんな話。



「昭和」という時代がそれが許されるくらい自由だったというか、おおらかだったというのもわかるのだが、逆に言えば、これを撮り切ってしまった柳町光男という監督がすごいのである。

そして、とにかく根津甚八演ずるトラック運転手が転落していく様というのが、語弊を恐れず言えば、ダイヤモンド級の好演である。

前々から根津甚八といえば、ピカレスクロマンで輝くタイプの、アウトロー向きの俳優と思っていたのだが、これはピカ一の演技であると思う。

秋吉久美子演ずる女のダメっぷりも相当なものである。

「人生捨てた感」が、とても演技とは思えぬほど。

蟹江敬三も実にいい味の演技をしている。


あまりにも救いが無く、正直、人におススメできるタイプの映画ではない。

しかしながら、昭和という時代の裏の顔と、日本人としての自分の性質を今一度見つめ直すには、良い作品だと思う。

強いて言えば、映画の印象を思い出すと、とてもやさぐれた酒が飲めます。

それでは。

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