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教室のアリ 第38話 「5月30日②」〈嫌いな奴に頭を下げても…〉

 オレはアリだ。長年、教室の隅にいる。クラスは5年2組で名前はコタロー。仲間は頭のいいポンタと食いしん坊のまるお

〈友のためにプライドを捨てる〉
 
「ブーーン」聞いたことのある羽の音が聞こえた。配膳のワゴンが隅に並べられ、食器が重ねてある給食室。その扉の隙間から『あの蝿』が飛んできた。オレは話しかけた。
「久しぶり」
「どうしたんだ?3匹揃って。ちょっといい匂いがしたから空の飛べないアリ達がまたエサを集めてるのかと思ってやってきたぜ」
「話がある」オレはいった。
「なんだよ、かしこまって。相談なら聞いてやってもいい。棚の中のエサを全部くれるならだけどな」
「エサはくれてやる」
「やけに気前がいいじゃないか。要件は何だ」
オレは蝿にもわかりやすく説明を始めた。
「来週の月曜日の2限目、5年生は社会のテストだ。その時、2組にきて欲しい」
「行くのは別に構わない」
「廊下側の前から2番目にピンクのリボンで髪を結び、ピンクの筆箱を使っている女の子がいる。その子の答えを見て、オレたちに教えて欲しい」
「それ、カンニングっていうんだぜ、インチキじゃん!」
「ルールを破っても、やらなきゃいけない時もある(人間にもアリにも)」
「お前たちはどこにいるんだ?」
「その子から3つ後ろ、男の子の机の下にいる。(ア)とか(イ)とかを選ぶ問題だけでいいから、頼む」
「ボクからも頼む」まるおも下げたくない頭を下げ、ポンタも後に続いた。蝿はオレたちが集めたエサを確認した。
「あ、ハイチュウ!これがあるならやる」そう、言い残して蝿は飛んでいった。オレたちは2組に帰り、少しモヤモヤしながら寝た。

 真夜中、目が覚めた。隣を見るとポンタはスヤスヤと寝ていた。でも、まるおはいなかった。散歩か、お腹が空いたから先生の机を漁っているんだろうと思って行ってみたら、まさにその通りだった。机からハイチュウの小さなかけらを取り出した。オレは食べる瞬間に驚かせてやろうと大声を出す準備をした。だけどまるおは食べなかった。丁寧に運び、廊下に出た。帰ってきたのは20分後だった。ちょうど、教室と給食室を往復する時間と同じだった。オレは2匹にバレないように、泣いた。

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