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19:憧れなのか違うのか

4歳ごろ。
当時も、世の少年たちに人気だったのはやはり『仮面ライダー』だったようだ。私は保育園、幼稚園ではなく家で過ごしていたので、同世代の間でどの程度の人気だったのかは知る由もないが。

ちなみに同列で語られがちな『ウルトラマン』や『ゴジラ』は、いまだに1作もきちんと観たことがない。作品の存在を知ったのも、ずいぶんあとになってからだったと思う。

***

世代ではない『仮面ライダーV3』が、もともとのイチオシだったらしい私が、リアルタイムの放送ではじめて視聴したのは『仮面ライダーBLACK』だった。
といっても、毎回観ていたわけではない。物語は穴だらけで曖昧だ。
以前にも書いたが「テレビ番組」というものを私は知らなかった。
毎週同じ時間に続きをやっている、というシステムがわかっていなかったのだ。
チャンネル権は、日中は祖母、夜は帰宅後の父であったので、姉がリクエストしなければ、私の眼に入ることはなかったと思う。
そんなわけで、むしろ姉のほうが「特撮ヒーローモノ」を観ていたんじゃないかと思う。『スピルバン』はいつだったか、DVD-BOXを買っていたし。

***

私の興味は、関連グッズのほうに向いていたと思う。
流れてくる物語を観るより、自分で思い描くほうが好きなのは、昔もいまも同じだ。

『BLACK』の作中に出てくる宿敵シャドームーンの剣も、憧れの眼差しで見ていた。
確かラストで、この剣を突き立ててとどめを刺し、崩壊する場から逃げるのだが「あ~あの剣を置いていくなんて、もったいないことを!」などと思っていた。
一番の見せ場、完結へ向けてのクライマックスだというのに、完全に物語そっちのけである。

なんと2021年に商品化されていた
(https://p-bandai.jp/item/item-1000155381/)

当時、仮面ライダーとは無関係の、電池を入れて光る剣のおもちゃを持っていたが、赤い色を選んで光らせて、頭のなかではこの剣を思い描いていたものだ。カタチはまったく違うものだったが、想像で補完することで楽しんでいた。

玩具は『BLACK』関連もいくつか買ってもらっていた。
母による「処分or親戚へ譲渡」一掃処理のタイミングで旅立ったものがほとんどだが、いくつか拾いあげたものは、いまでも持っている。

BLACKの愛機「バトルホッパー」
続編BLACK RXの愛機「アクロバッター」
デフォルメの「かっとびライダー」というシリーズだったらしい

***

さて、そんな『仮面ライダーBLACK』だが、地元に来たことがある。
いわゆる遊園地の「ヒーローショー」だ。

8月。両親は私をヒーローショーへ連れて行ってくれた。

さぞかし喜ぶに違いない。

ショーの最中、怪人が客席に降り、人質を選ぶ素振りを見せる。
そこに颯爽とBLACKが登場。定番の演出だったのだろう。

ショーが終わり、握手会のようなものが設けられる。
子供たちが集まるなか、私も親に連れられて近づいた。

さぞかし喜ぶに違いない(2回目)。

少しずつ順番が近づいてくる。
憧れた仮面ライダーがすぐそこにいるわけだ。

さぞかし喜ぶに違いない(3回目)。

ところが、私は怖がって泣いた。なんでやねん。

当時の写真より(子供だらけの周囲は加工して消しました)

いま思えば「なにか違う」と感じていたような気もする。
マスクはそっくりだが、肩から先は袖に柄がプリントされた服を着ている。
本物はそうではない。
そういう細かいトコロまで気になって、素直に楽しめないようでは、ある意味では子供失格である。

とはいえ、単にビビリで状況に怖がって泣いた可能性のほうが高いか。

***

時は流れ、高校で仲良くなった友人の家に遊びに行ったときに、ひと際眼を惹く「黄色いカセットテープ」があった。CDなどが入った箱のなかに、埋もれるようにそれはあった。
『仮面ライダーBLACK』の主題歌などが収録されたグッズである。
懐かしくなり、貸してもらった。
同世代というのは、ときどきこういう記憶の共有を成すものだ。

そんな彼は、警察官になることを目指しはじめた。
通っていたのは普通科だったが、公務員科に移動することを打診されても、そのままクラスに残り、独学で公務員試験に合格した。

目指していたのは、白バイ隊員。
高校二年の11月、クラスメイトをバイク事故で失ったこともあり、彼は意志を固くしたと思う。

そして彼は、夢を叶えた。

その脳裏に、幼い日の『仮面ライダーBLACK』があったのかはわからない。
わからないが、彼は確かにヒーローになったのだ。
『BLACK』ではなく『WHITE』なバイク乗りに。
いや、でも若手の白バイ隊員を指導する「鬼教官」になっているらしいから、ある意味『BLACK』なのかな……。

***

そしてまた時は流れて、つい最近、はじめてまともにBLACKを描いた。

(2023,08,19)仮面ライダーBLACK

このエッセイを書いていなければ、このタイミングで描くことはなかっただろう。過去の振り返りが、実はいろんなことへのキッカケになっているという気がする。

そして、白バイ隊員になった友人の黄色いテープにも収録されていた、エンディング曲を歌ってみた。

この時代に、すでに人の世の変化を憂いている歌詞が、興味深い。
テレビ放送のエンディングでは、この曲をバックにBLACKが歩いているところがずっと映されているのだが、あまりにゆっくりでなかなか近づいてこないので「これもしかして遠ざかってる?」「ホントに近づいてきてる?」と気になったりしていた。

***

ところで、私は定番の「電車」「重機」「車」といったものに、あまり惹かれなかった。機械的なもの、無機質なものが好きではないのだ。
「子供のころ、仮面ライダーに憧れてバイクに目覚めました」という人も少なくないようだが、私はバイクにも惹かれなかった。
父は車やバイクが好きで、幼いころにはバイクの後ろにも乗せてもらったことがある。それでも、好きにならなかった。

創作の分野でも「SF」よりも「ファンタジー」のほうが好きだ。
「科学者」よりも「錬金術師」というワードに惹かれる。

仮面ライダーは、私にとってどういう位置だったのだろう。
バイクにも興味ないし、ヒーローショーで会って泣くし。
仮面ライダーは改造人間などとも呼ばれるので、どちらかというと、SF寄りのヒーローだ。

憧れてたの、そうじゃないの?


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