15:私が最初に描いた絵は
4歳ごろ。
私はいつから絵を描いていたのだろう。
4つ離れた姉がいるので、一緒に描いたりもしただろう。
小学生で自由帳に描いたものなどは見返す機会もあったが、古いものとなると、すべてが残っているわけでもない。
ところが、有り難いことに母が保管していた絵があった。
これ以前にも絵は描いていたのだろうが、年月が明確なもののなかでは、現存する最古のものだ。
誰がなんと言おうと、猫の絵である。
6本のヒゲ、首輪に鈴、左側の猫の腹にはポケットもあるので『ドラえもん』の影響を受けていることは明らかだろう。
立ちあがっているし、爪はかなり鋭い。なにやらやる気のようだ。
近所の人が飼っている猫がたまに庭に来たりしていて、私は猫が好きだったので、その影響もあるのか、4本脚のほうも、前脚と後脚のカタチをまあまあ描き分けられている。
世のなかには、鶏を4本脚にして描いたり、パンダの柄を黒ブチにして描いたりする人もいるので、4歳でこれはまずまずなんじゃなかろうか。
蝶ネクタイや尻尾のリボン、毛柄もそれぞれ違う。
横になにか見本にする絵があったのかもしれないが、いろんな種類を楽しんで描いた様子は見てとれるという気がする。
ちょっと待てよ、と思う。
私はいまでも、猫のオリジナルキャラクターを描いているじゃないか。
毛柄も装飾品もさまざまな猫のキャラクター。
4歳から、成長しているのか、あるいは変わっていないのか、わからないような気になる。
なんにせよ「最古の絵」と「最新の絵」が、こうして繋がっているのは面白い発見だった。
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この機会に、同時期に描いた絵を並べてみることにしよう。
これは父の飾っていた車のプラモデルを見本に描いたものだろうか。
あるいはアンテナが伸びているので、ラジコンかもしれない。
時期ははっきりしないが、オフロード向きの大きなタイヤがついたラジコンをプレゼントで貰ったことがある。
こちらも車のようだが、前後の描き分けがあやうい。
排気ガスを出すことで、どちらに進むかアピールしているが、車体の形状的にはそっちが前じゃなかろうか。
いまでも機械を描くのは得意ではないので、その片鱗もうかがえる。
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ここでウサギが登場した。
先に紹介した猫と似通っているので、自分なりに描いていたのかもしれない。それにしても爪が鋭い。
眉毛のあるほうがオスで、まつ毛のあるほうがメスだろうか。
首輪的なものがパンクロッカーあたりが好んで着けるゴツいやつに見える。
背景を描くようになっていて、なにやら物語性が感じられる。
絵のなかに想像できる余地を描くのはいまでも好きだが、このころから培われていたのかもしれない。
ウサギもわりと好みのモチーフだ。
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バッタらしい。
いまやすっかり虫嫌いなので描くことはないが、庭にはバッタの姿も見かけていた。
これは『仮面ライダーV3』だろう。
放送当時の世代ではないのだが、思い入れは強かったようだ。
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この時点で『ファミコン』が登場している。
まだ我が家にはなかったので、隣に住んでいた従兄妹の部屋で遊んだ思い出を描いたのだろう。
現物を見て、記憶を頼りに描いたものと思われるが、本体にはしっかりと電源ボタンとカセット取り出し用のノブ、リセットボタンが描かれている。
右側の巨人は、歳上の従兄妹だろうか。伯母だろうか。
従兄妹の部屋には『機動戦士ガンダム』のプラモデルもたくさん飾られていて、童心に惹かれるものがあったことを覚えている。
しかし私はガンダムを観ていなかったので、当時はそれがなんなのかを知らなかった。
のちに区別がつくようになるのだが、基本の白と青のボディと、赤いボディのもの、深緑のボディのもの、マスクを着けた人物などが、当時の記憶に刻まれたのだった。
卓上に電話が描かれているので、外出している親からの帰宅の連絡を待ちながら、隣の家で過ごしていたところではないかと思う。
親から連絡があればゲームをやめて帰ることになるので、電話が気になって何度も見ていたのだろう。
描いているものによって、当時の心理が筒抜けである。
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ドラえもんとのび太。猫やウサギと同様に、ヒゲが上に向かっている。
腕の形状が「6」になっているので、なにかの本の裏表紙に載っていた『ドラえもん・えかきうた』を参考に描いたな、というのがわかる。
▼ちなみに『ドラえもん・えかきうた』はこういうやつ。
その本でも背景が黄色だったので、この動画をそのまま画像に転用したものだったのだろう。
続けてドラえもん。
猫型ロボットなので、やっぱり猫が好きなんだろう。
ポーズや『ドラえもん・えかきうた』にはない舌の描写があるので、自分なりに描いたのだろう。
ドラえもんは青と赤の配色バランスなど、つくづく秀逸なデザインだなと思う。
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題材がさっぱりわからないが、姉の見ていた雑誌などを見本に描いたのだろうか。モチーフがいかにも少女漫画的である。右の本の背には「おまじない」と書かれている。
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やはり機械モノは苦手のようだ。
母の字で「単車に乗った人」と書き添えられていた。
その言葉が書かれていなければ、判断に迷いかねない完成度である。
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「料理をしているところとテニスに行くところ」と母の字で添えられている。
いろいろヒドいが、テニスへ向かう人の腕には腕時計が描かれているあたりに「時間」に対する心理が表れているという気がする。
私は出かけるのが好きではないし、早く帰りたい気持ちも手伝って、外に出ると時間ばかりが気になってしまう。落ち着かないのだ。
このころからそうだったのだろう。
時間を気にして行動することは、いまでも変わっていない。
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父と母を描いたものらしい。
こちらは母を描いたものらしい。
9月17日が母の誕生日なので、贈りものの意図があったのだろうか。
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色鉛筆で塗ってある絵がいくつかあったが、よく幼児に与えられるクレヨンやクーピーはニオイが苦手だった。
それもあってか、基本的に色鉛筆を使っていたという気がする。
さて、そんな色鉛筆だが、実はいまも持っている。
もともとは姉のもので、確か祖母も使っていた。
祖母はなぜか天気を記したりしていたのだが、そのときに丸枠を塗りつぶしていたのも、この色鉛筆だったと思う。
短くなって背をセロハンテープで連結してあるのは、祖母の知恵なのか、もしくは母がやってくれたのか。
さすがにいまは使う機会はないが、のちに何度か使ったことはあった。
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4歳から今日まで繋いできたものは、どこかで実を結ぶだろうか。
ルーツを深掘りしてみたり、かつての自分が描いた絵のなかに潜んでいる「言葉にならない心理」を読み取るのは、案外面白いものだ。
そして今回私としては、最古に描いたものが猫のキャラクターだったことで、なにか満足感にも似たものを感じたのだった。継続は力なり。
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