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【いまさらレビュー】映画:ブータン 山の教室(2019年、ブータン)

山岳国・ブータンの作品『ブータン 山の教室』ですが、いわゆる“語りたくなる”タイプの映画です。ということで、今回も記録として私も語っておきたいと思います。
第94回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作。日本での公開は2021年でした。監督・脚本は作家・写真家でもあるパオ・チョニン・ドルジ、同作のプロデューサーを務めたのは奥さまのステファニー・ライ。映画初主演のシェラップ・ドルジはシンガーでもあるので、サウンドクラウドなどで歌声を聴くことができます。

おはなし

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

ストーリーは非常にシンプル。都会育ちのちゃらんぽらんな青年が山暮らしを経験し覚醒する。サスペンスフルな展開や燃え上がるような恋物語はゼロ。だが、圧倒的な山岳地帯の風景、そこに響く美しい歌声、そして目の輝きがあまりにも眩しい子供たち…だれもがつい語りたくなってしまう要素に満ちあふれている。

教師なんかさっさと辞めてオーストラリアで歌手デビューしたい都会の若者ウゲンに、超山奥の学校赴任の辞令が下る。道のりはバスと徒歩で片道約1週間。ぶつくさ言いつつも目的地に向かうウゲンだったが、接する人たちはみんな敬いの心を持ち歓迎してくれる。想定外の事態に困惑する。

「ボクには無理、すぐ帰る」と宣言したが、子供たちのいい子ぶりにも心を動かされたウゲンは授業をスタート。ヤクの物語の歌を教えてくれた村の娘セデュにも惹かれ、宣言を撤回し村の学校の教師として仕事を続けることにする。

季節は過ぎ山暮らしが気に入り始めた頃、雪で道が閉ざされる冬場を前に、ウゲンは帰ることに。ただ、今度は逆に村への未練がたっぷりだ。後ろ髪を引かれつつ帰路につくウゲンを、村長の歌声が送る。その後、当初の目的通りにオーストラリアで“流し”をするウゲンがふと歌いだしたのは、村で憶えたあの歌だった。

映画は余韻を残しつつここで終わるが、いつの日か、どんな形であれ、ウゲンが村に戻ることを観客に強く印象づける。

夢を見るのは悪いこと?

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

ドルジ監督自身、ブータンを離れて国際的に活躍してきた人物だし、奥さまは台湾の方だ。また、撮影監督のジグメ・テンジンも拠点のひとつをニューヨークに置いて活動している。

海外でスポットライトを浴びることを夢見るウゲンは、故国を軽んじるダメなやつだと否定されるべきなのか。映画は、単純に地に足をつけて生きることだけを説いているわけではない。ブータンで生まれ育ったということは、逃げようがないレベルでパーソナリティの根幹にある。その一方、格差に目を背けて海外を目指す人間がいても不思議はない。夢を見ることは決して否定されるべきではない。

おそらくは監督自身が体験してきたように、生きる場所がどこであれ、自分のパーソナリティと向き合わなければ未来は見えない。忘れかけていたパーソナリティを強く呼び起こしてくれるのが、ブータンの雄大な山岳風景であり、自然や家畜とともに暮らすことでもある。そんなメッセージが込められていると、個人的には感じている。

ポツンと一軒家で半ば自給自足生活するのが夢だという方もいるので、夢は人それぞれなんだけど。

※写真はイメージ。本文とは関係ありません

映画の内容は直球勝負。ブータンの空気に身を委ねるだけで、おのずと心が癒やされる。過激表現に疲れた方にはぜひ一度、ご覧頂きたい作品である。

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