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個人と組織。目的もスタンスも異なる2人のデザイナーが語る、モノづくりのためのコレクティブの在り方

こんにちは!hicard PRのannaです。
今回は、hicardのパートナーであるデザイナーのHanamiさんと、代表のLeoさんに対談していただきました。海外経験豊富なHanamiさんのキャリアから、Leoさんと語る組織論まで終始大変興味深いお話でした。

Hanami Itagaki プロフィール

淡路島出身。東京とサンフランシスコをベースに活動するデザイナー。
17歳でビジネスとビジュアルマーケティング、心理学の独学を始め “自分を、人生をデザインする”というコンセプトの元、講座とセッションを展開する。ビジュアルコミュニケーションの世界の奥深さに魅了されてシリコンバレーにある Academy of Art 大学でグラフィックデザインを専攻し、Design Leadership Awardを受賞。
在学中から独立し、仕事ではブランディングやイベントキャンペーン、商品開発や顧客体験のデザインなどを幅広く手がける。自身のもってうまれた ’共感覚’ とスキルを掛け合わせて、本質の美をとらえた感性と感情に語りかける新しいデザインのあり方を提案している。

https://www.hanamiitagaki.com/


淡路島からシリコンバレーへ

――まずはHanamiさん、自己紹介をお願いします。

Hanami:私は神戸で生まれ、淡路島で育ちました。小さい頃から書道が大好きで、その情熱を色彩に昇華させたくてグラフィックデザインや、ビジュアルコミュニケーションに興味を持ち始めました。中学2年生の頃には美術部に入り、その時に既にグラフィックデザイナーになるぞ!と思っていました。色立体を見た瞬間、この世界に触れたいと心から思ったんです。大学の進学では日本だけでなく海外の美大も視野に入れて英語も合わせて勉強を進め、最終的にはアメリカの大学に進学しました。大学2年生からはフリーランスとして活動を始め、Goodpatch Anywhereのチームに入っていたり、IDEOのインターンで働いたりしました。

――すごい学生時代ですね!Hanamiさんの現在のお仕事内容についても教えてください。

Hanami:私の仕事は、ビジュアルメイキングというよりも、上流のコンセプトデザインから関わり、アートディレクションに落とすことが多いです。シリコンバレーではデザイナーがUXデザインを含む上流工程から参加することが一般的で、どのようにクライアントと共創していくかを考えます。
また、自分のリソースの約10%は教育に関わっています。中学生向け感性教育のカリキュラムデザインを作成したり、YOXOカレッジで横浜大学を含めたの4つの大学と企業・行政が連携したカレッジにてデザイン講師も務めていたりしました。また、Global Shapersという世界経済フォーラム(通称ダボス会議)により組織されるユースコミュニティにも所属しています。
他にはVERDEという4人のコレクティブにも所属しており、編集者のメンバーもいて、みんなで植物の探究と表現に取り組んでいます。昨年は小石川植物園で植物祭に出展しました。これらの活動を通じて、植物の美しさや五感を刺激するような体験を提供しています。

同年代とは、同じ時間軸の未来を一緒に描ける

――Hanamiさんがhicardと仕事を始めることになったきっかけは何だったのでしょう。

Hanami:Leoくんが私の知り合いの仕事を手伝っていて、彼がLeoくんと私を繋ぎたいと紹介してくれたんです。同い年だったので私からはフレンドリーに話しかけてたんですが、Leoくんは最初すごい静かで(笑)。でも彼に私のポートフォリオを見せたらクリエイティブについて熱く語り始めて、「この人考えていること面白い!」って思って。それからはUIUXについてだけでなく、モノづくりという概念やクリエイターのあり方までをも深く話し合える友人としても仲良くしていました。

Leo:Hanamiちゃんがあまり経験してこなかったUIデザインを僕がスキルセットとして持っていて、逆に僕はグラフィックデザインはそんなに得意としていなかったので、お互いに持っていないスキルを補い合えると思いました。Hanamiちゃんは日本のスタートアップシーンにどっぷり浸かっているわけではなかったので、僕も話していて心地よかったです。それからしばらくして、一つ一緒にクライアントワークのプロジェクトに取り組むことになりました。

――hicardと一緒に仕事をしてみてどう感じられていますか。

Hanami:丁寧なエクスペリエンスを提供する会社だなと思いますね。組織の在り方や、社内外の人との関わり方…丁寧に洗練された実験がずっと行われている感じがする。みんな考え方の柔軟性が高く、すぐ試してみようというマインドセットがあるように見えます。それって多分若いからできることなんじゃないかと思うんですけど。
同年代の良いところは同じフェーズの未来を見ることができるところだなと思っていて。バックグラウンドが一緒なだけでなく、これからの楽しみなことも一緒に描けるんです。同じ時間軸でこれからを生きる仲間なんですよね。
私は組織を持っていないし、これからも持つことはあまり考えていないので、hicardの文化や組織がどんな風に形成されていくのかを近くで見させてもらえるのはすごいありがたいことです。


一人のフリーランスデザイナーとの向き合い方

――hicardからも定期的にお仕事をお願いしているフリーランスのレムさんは、Hanamiさんともよく一緒にお仕事をしていると聞きました。レムさんとの付き合い方について詳しく聞かせてください。

Hanami:レムちゃんは2年前くらいかな?熊本から上京してきたばかりの若いデザイナーで、定職にはつかずフリーランスでやっていくと決めていました。hicardと最初のプロジェクトが始まるタイミングでレムちゃんもそこにアサインされて私に紹介されました。それでレムちゃんのポートフォリオを見せてもらったんですが、クオリティが高かったし彼女の作品には独自の感性があるなと感じました。私がレムちゃんのお姉さんに似た雰囲気があるみたいでお互いにバイブスも合うなと感じて、すぐに打ち解けることができました。
レムちゃんとはムードボードで会話できるんです。デザインにおいてはこの感覚的な部分は一番教えるのが難しいですが、彼女とは最初から感覚がマッチしていて、言語化する手前でお互いの考えを共有できるのが、一緒に仕事をしやすいと感じているところです。

――Leoさんに、hicardとレムさんの関係性についてもお聞きしたいです。

Leo:レムさんには社員ではなく業務委託という形で関わってもらっています。レムさんと出会った当初、hicardでは彼女が成長できるような仕事を十分に提供できなかったため、Hanamiちゃんに紹介しました。彼女はまだ熊本から出てきたばかりで狭い世界しか知らないところもあり、幅広い仕事をすることで視野を広げてもらうのが良いかなと思いました。
hicardでは、社員と業務委託の関わり方の違いははっきりしていません。社員だから、業務委託だから、とはっきり線引きをすることはあまりしていませんね。レムさんは自由に動きたいタイプなので、社員として囲い込むのはあまり彼女にとってよくないかなと。法人と個人の関わり方をレムさんともよく議論しています。

Hanami:hicardはこのような柔軟な関わり方ができるのが良いところですよね。

Leo:hicardとレムさんは法人と個人の関係性ですが、法人同士であったとしても、契約形態の一般的なイメージに流されることなく、お互いにとってどのような関わり方が良さそうか、最初に認識を揃えるようにしてますね。実際Hanamiちゃんとhicardの関係が良い例ですが、意識的にあえて曖昧な関わりを持つことで実験の余地を残していることが多いです。そういう意味では、僕がやろうとしていることもHanamiちゃんのVERDEのようなコレクティブ的な取り組みなんですよね。Hanamiちゃん・レムさんとは「良いモノづくりがしたい」という共通の目的のみで繋がっていればそれで良くて、無理にhicardに染め上げたいわけでも人材として囲い込みたいわけでもない。良い距離感、違う文化圏だからこそ生まれる会話やシナジーがあると思っています。

組織型と個人型、それぞれが目指すコレクティブの形

――Hanamiさんは個人で、hicardは組織で、それぞれのスタイルを取っていますが、お二人の思い描く理想のコレクティブの形をお話しいただけますか。

Leo:まず「コレクティブ」という言葉はクリエイティブ界隈では多用されている気がしますが、その語源や定義について先に話しておいた方が良いと思っています。最近ではアート・コレクティブが注目されてますが(VERDEもその一つです)、一般的にアート・コレクティブは「プロジェクトベースでアーティストが集まって共同制作をする」という意味合いで使われることが多いです。ただ本来、コレクティブ(collective)という英語はフランス語の「collectif(コレクティフ)」が由来となっていて、フランスの精神科医ジャン・ウリの定義では「構成員である個々人が、自分の独自性を保ちながらしかも全体に関わっていて、全体の動きに無理に従わされるということがない状態(ジャン・ウリ著『コレクティフ』2017年、月曜社)」と言われています。Hanamiちゃんや僕が「コレクティブ」という時は、このコレクティフの定義に近いです。

Hanami:そもそも私とLeoくんとでは、ミッションが違うと思っていて。だから行動も形態も変わってくるのかなって。

Leo:僕がやりたいこととして、モノづくりを一つの経済活動として捉えた時に社会にどのようなモノづくりのための組織や制度が存在するべきかを考えていきたいのがまずあります。現在は、会社同士の関係だけでなく、フリーランスと会社との関係など、さまざまな形態があります。さっきの話にもつながりますが、hicardでは、これらの関係を実験的に探求しより良い働き方を模索しています。特に、モノづくりを通じて人々が豊かに生きることができる環境をどのように整えるか、それに注力しています。
モノづくりには、人々を豊かにするものもあればそうでないものもあります。僕及びhicardは、豊かになれるモノづくりを推進しそれに没頭できる人々を増やしたいと考えています。そのためには大規模な社会的に影響力のあるプロジェクトに関わることも必要だと思っています。そうなった時に個人ではやりきれないので、組織として対応していくことになります。
一方で、Hanamiちゃんのように独自の世界観を追求し創作活動に没頭するため、意図的に組織にはせず個人で活動するクリエイターもいます。彼女のようなスタンスは、資本主義的な視点から見れば収益性が低いように見えるかもしれませんが、そのような創造性豊かな活動も社会にとって非常に価値があると僕は考えています。彼女のような個人の方々の意思決定を尊重しながら、どのようにして一緒に面白いモノづくりを行えるかも考えています。

Hanami:私は、自身の感受性を最大限に楽しむ人が次世代に増えることを願っています。五感の声をちゃんと聞いて、美学で意思決定をする人が増えてほしい、それを届けるものとしてデザインが存在していると考えています。
私は小学生の頃から感性をシャットダウンするような教育に疑問を持ち続けてきました。本当は一人一人に美学がありそれぞれが感受性を開けてる状態が人らしいのではと思っていて、それに沿ってクリエーションができるべきではないかと私はずっと思っています。限定的な定義の勉強が重視される環境の中で、感性を捨ててしまい社会に出た時に何をやりたいかわからなくなってしまう人がすごく多いことに対して、とても怒りを感じていた学生時代でした。
私自身が大好きなことを情報として能動的に捉え続けて、感受することを楽しむあり方を、日々を過ごす過程で証明したいと思っているのかもしれません。会社が自分の名前になっているのも、自分らしさを選び続けるミッションに正直でいるためというところも大きいですが、そのためには軽やかに動けることが大事なので一人で活動を続けています。
そのためには、軽やかに動けることが大事なので一人で活動を続けています。ただ今後自分の中で納得することがあれば組織を始めることもあるかもしれないです。VERDEはまさにその、人とのつながりの中でモノづくりをする幸せを感じる体験だと思っています。VERDEは本当に家族のように愛せて信頼できる少数の人たちと深く関わりながら、愛するものを作り上げています。

Leo:Hanamiちゃんはとても健全にモノづくりに没頭できているように見えます。人との向き合い方も健全で誠実。良いモノづくりのスタイルができていますし、Hanamiちゃんのように、モノづくりに没頭できる人がもっと増えてほしいなと思います。そのための環境を僕らは整えていきたいし、まず自分たちの周りの小さな社会で試していく。
そのためには今の当たり前の基準に則さないような関係性を模索していく必要があります。例えば法人と個人の関係性も、契約的にどうかではなくお互いがそれをどう思うのかが1番大事で。

――それぞれ違うスタイルを取りつつも、「良いモノづくりがしたい」という根本の欲求は共通しているのがわかりました。だから一緒に手を取り合って活動していけるのかなと。

Hanami:私がLeoくんの考え方がすごく良いなと思っているのは、人間は絶対一人では生きていけないと前提として思っているからなんですよね。大規模なプロジェクトを進めるのには一人の力ではやはり限界があります。私自身は大企業で働くことには興味がありませんが、良いモノづくりのために世界中のリソースや知識にアクセスしたい気持ちはあります。それで、私は「将来会いたい人リスト」を作っています。

Leo:大きな組織やプロジェクトに対する憧れはみんな持っていると思うんですが、そこにアクセスしようと最短距離で目指すと、不健全で将来性のない繋がりが生じやすいです。わかりにくいかもしれないし時間がかかるかもしれないけど、より良い方向性の健全な繋がりは他にないのかを、僕たちは模索していきたいです。



インタビュー・執筆:石原杏奈 @anna_ishr


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