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minuit第1回公演『傷は浅いぞ』感想レポート

2024年2月8日から9日にかけて、芸術文化観光専門職大学の小劇場そぞろ座にて、minuit第1回公演『傷は浅いぞ』が上演された。
minuitは、「真夜中に寄り添う演劇を」を理念に活動する新進気鋭のコメディ集団である。本公演はその記念すべき旗揚げ公演となる。
開演前、席から見えるのは、2段の階段上の舞台、その他には何も置かれていないまっさらな世界だった。会場内で行われるアナウンス、「最前列は大変刺激が強くなっております」。何もない舞台、大変刺激が強いという事前情報、一体どのような舞台が繰り広げられるのかワクワクが止まらない。

ギラギラに光る照明の中、舞台上に2人の人影が現れた。新人アイドルの矢衾愛弓とそのマネージャーの一本槍官兵衛。初っ端からこの2人がいい意味で予想を裏切ってきた。場面は矢衾デビュー後初の音楽番組の直前、鼻血を出してもなお番組に出ようとする矢衾とそれを止める一本槍の争いである。アイドルと鼻血、この時点でこの世界がコメディの世界であることを実感させられた。その後、番組で鼻血を撒き散らす大失態を犯し、矢衾は仕事のないアイドルになってしまう。不貞腐れたアイドルが酒に溺れる姿は見たくなかった。でも面白い。

また、そこに出てくる2人の存在。番組プロデューサーの太刀花鞘花と放送作家の盾林美矛。太刀花が担当する「電波ガールズ」という番組への出演オファーから、矢衾のアイドル人生が再スタートするのだが、この番組が非常に厄介であった。アイドルが毎週大食いやクイズなどで戦うというのがこの番組の内容である。これだけ聞くと、よくあるアイドルのバラエティ番組である。しかし、人が食べるレベルじゃない激辛カレーの早食いやゴキブリ入りもなかの早食い、クイズを間違え続けたら4mの高さからコンクリートの床へ真っ逆さまなど、実際はアイドルつぶしの番組なのである。
この番組で3回勝利すると得られる特典のために、番組に挑戦する矢衾。矢衾愛弓は無事に番組からの苦難を乗り越えられるのか、という物語だ。

この作品の面白さは1人1人の役柄の個性の強さにあると思う。主人公の矢衾愛弓のアイドルとは思えない言動、しかしどんな辛い内容にも挑戦し続ける根性。そんな矢衾を時には支え、時には止める、信頼できる一本槍官兵衛。この2人の息のあった掛け合いは、さながらお笑いコンビのようである。そこに刺激を加える存在となる太刀花鞘花。初めは、いい歳してアイドルを弄ぶ、極悪非道の大悪党である。しかし、太刀花の過去を知ると、なかなか憎めない。放送作家の盾林美矛ははっきりいうとよくわからないやつだ。いつもふわっとしていて言葉に重みがない。でもその言葉が自然と私たちの中に入ってくるから不思議である。これらの個性の強さは役者の力があってこそ際立ったものであろう。

ここまで、感想を書いてきたが、この作品は言葉では表すことのできない面白さがあるように思う。疾走感や臨場感など実際に見た人にしか感じることのできない要素がこの作品の面白さを増幅させているからである。舞台はナマモノであるとよくいうが、この作品こそナマで体感してもらいたい作品である。

中塚慶次

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