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歌は人が集うきっかけ 珍しい常設店で居場所づくり 女川・うたごえ喫茶 「そらおと」

 生演奏に合わせて懐かしの歌謡曲や童謡を歌い、心を通わす「歌声喫茶」。東日本大震災後、石巻地方でも各所でイベント的に繰り広げられ、被災した人の心に癒やしを与えてきた。この歌声喫茶を「いつでも、誰でも」楽しみ、常に交流の輪が育まれ続ける場にしようと、昨年10月にシーパルピア女川内で開店したのが「うたごえ喫茶『そらおと』」。常設型の歌声喫茶は珍しく、開店以降ファンを増やし続ける。齋藤武代表(46)は「人と人が自然につながり、皆にとって心安らぐ居場所になれば」と話していた。【山口紘史】

女川に常設の歌声喫茶 (108)

歌を楽しみながら交流を深める利用客ら

 介護福祉士の資格を持つ齋藤代表はかつて仙台や石巻の介護施設で働き、認知症の高齢者と接してきた。「認知症ケアで大切なのは当事者とその家族を地域ぐるみで理解し、支えること」と語る。一方で「いまだ認知症への負の印象が根強く、当事者も家族も『人に迷惑をかけられない』『認知症と知られたくない』と社会から孤立するケースが目立つ」と現場感覚を語る。

 「認知症になる前に地域とのつながりを育める場を作ることが大切。誰でも気軽に立ち寄れる〝居場所〟が作りたかった」。齋藤代表は、15年以上関わった介護の現場を離れて、昨秋、シーパルピア女川内に「うたごえ喫茶『そらおと』」を開いた。

 歌声喫茶は地域の包括支援センターや集会所などでも開かれているが、ここはもっと気軽に参加できるようにした県内でも珍しい常設の店舗型。「いつでも誰でも」に軸足を置いて体制を整えた。

 常に音楽を楽しめるようにギターやピアノ奏者らが日替わりで演奏。客は軽食を楽しみながら伴奏に合わせて口ずさむ。歌わず、客や店員と世間話に花を咲かせても構わない。各テーブルにひまつ防止のアクリル板を置くなど感染対策も講じている。

 4連休初日の22日は大衡村に住む黒田広輝さん(27)、妻の愛希子さん(29)が奏者。賛美歌を披露し、透き通った歌声と心に染みるメロディーで集まった人たちを楽しませ、リクエストで昭和の歌謡曲も演奏した。
 石巻市の稲井地区から頻繁に足を運ぶという女性(72)は「歌が大好き。開店してからほぼ毎日来ている」と石巻線の定期券を見せてくれた。「皆とお話をするのも好きで店の雰囲気も落ち着く」と話し、この日は「なごり雪」「愛燦燦」などを伸びやかに歌った。

 皆の居場所を作りたいという店の趣旨に賛同する広輝さんは「つかの間でも音楽を楽しんでもらい、皆の心をつなぐお手伝いができれば」と話していた。
 店内ではカフェのほか、駄菓子や手作りの小物なども販売。サークル活動の場としても使うことができ、アクティブシニアの主体的な活動も後押しする。

 齋藤代表は「年配者だけでなく、世代を超えた交流の輪が広がれば理想。歌は人が集うきっかけになればいい」と話す。「集う人たちがそれぞれの困りごとや悩みを共有できる場にしたい。それこそ私は介護士なので話を聞くのは得意分野」と語った。

 営業時間は午前10時―午後5時。演奏は午後1時半―3時。定休日は毎週火曜と第2、4金曜。問合せは同店(090―9747―7549)まで。


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