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「困窮者支援」 ④展望 酒に頼らず、人に頼る

 石巻市大宮町の下宿「青森屋」で暮らす渡邊高司さん(49)は生活困窮を経験した一人。「数年前まであすを考えることさえできなかった。今苦しんでいる人が前を向くきっかけになれば」と自身の体験を赤裸々に語ってくれた。

 女川町出身の渡邊さんも当初は順調な人生を歩んでいた。それが人間関係のもつれや障害から次第に酒に頼る生活になり、離婚も経験した。5年前に神奈川県から両親の住む石巻地方に戻ってきたが、両親も生活保護を受ける都合から、障害年金支給を受けていた渡邊さんは一緒に生活できず、アパート暮らしを始めた。仕事も得たが、長続きせず生活費の大半も酒代に。携帯電話料金や家賃の支払いが滞るようになり、アパートから退去を求められたその日に、くらし安心サポートセンターの及川貴之所長に救いを求めた。

 「自分の力で何とかできると当初は思っていた。気に掛ける声にも耳を貸さなかったが、次第に体力も気力も湧かなくなり、不安をお酒で忘れようとした。ただ、それも限界で、アパートの退去を契機に相談することにした」という。

自身の体験を語る渡邊さん(写真の一部を加工しています)

 相談後、及川さんらのサポートで家計を見直し、各種返済計画を立てた。生活拠点として青森屋の協力も得た後、石巻市の就労支援カレッジ「ぴゅあ・サポート」に通うことになった。最初のころは若い世代が多く、「きっとなじめず、また続かないだろう」と思っていたが、しぶしぶ通い続けたところ転機が訪れた。きっかけとなったのは、なじめないと思っていたその若者の存在だった。10代の後輩から頼られる立場になったのだ。

 「後輩が頼ってくれ、先輩としてだらしないことはできないという意識が芽生えた。そこから気持ちが前を向き始め、徐々に自分の進むべき道も見据えられるようになった」と語る。懸命な努力により、現在は冷凍設備メンテナンスの仕事に就いて安定した収入をつかみ取った。今後の目標は、下宿先を出ての一人暮らしと、免許を取得してマイカーを購入すること。明確なビジョンを持って日々を生きる。

 「振り返れば、酒に頼らず、人に頼るべきだった。相談をきっかけに多くのサポートをもらい、変わることができた。今後も後輩たちの手本として仕事に励み、目標を実現したい」と笑顔をみせた。

 渡邊さんに限らず、個人の力で脱出できない状況に陥った際は、早期の相談が早期の課題解決や自立につながる。石巻地方には、頼れる自立支援機関が存在し、連携して支援策を講じる各種専門機関や民間団体がある。相談が課題解決と自立につながることを、地域からも発信し、誰一人取り残さない環境を実現することが、持続可能な社会の実現には不可欠だ。 【横井康彦】



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