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車で流され「まるで洗濯機の中」 石巻市のぞみ野・佐々木蘭さん(29)

 あの日、大きな揺れの後、十分な情報がない中で「すぐ家に戻って」という父親の出先からの電話に従い、買い物途中の石巻市中里から南浜町四丁目の自宅に車を走らせた。わずか10分ほどで到着。周囲の人たちは津波に備えて避難したらしく、シーンと静まり返っていた。

 当時、石巻専修大1年生だった佐々木蘭さんは母親とほぼ同時に家に着いた。それから30分後、どこからか「ゴーッ」という聞いたことのない不気味な音が聞こえ、次第に大きくなった。

 ふと見ると、100メートルほど先に黒い水の塊が。あわてて車に乗り込んで、母親に「早く」と声を掛けた。

 母親のたまえさんも相当焦り、自分の車ではなく、蘭さんが座る軽ワゴンの運転席に乗り込んできた。ドアを閉めた直後、巨大な力で車が横転したかと思うと、「まるで洗濯機の中にいるみたい」に水中をゴロゴロ転がって、数百メートル先まで流された。

 「水死するのかな」。本気でそう思ったという。「長く感じたけど、1分くらいだったのか、1分かからなかったのか」。止まった時は、車が縦になり、後部ガラスが天井になって2人とも立っている状態だった。

 同じように流されてきた車があちこちに見えた。煙が立ち込めて来て、爆発の危険も。「助けて」という叫び声が届いたのか、男性がハンマーをもって駆け付け、ガラスをたたき割って助け出してくれた。ずぶ濡れだったが、見ず知らずの人が声を掛けてくれ、着替えることができた。

復興の階段・佐々木蘭さん (2)

恐怖の体験を鮮明に覚えている佐々木さん

 父親は、避難先の石巻高校で偶然みつけた。「大人になって最初で最後のギュッ」で感動の再会。結局2世帯7人家族は、全員が無事だった。避難所や親類宅などを経て双葉町のアパートで両親、2番目の姉との4人暮らしが始まった。

 自宅は奇跡的に残ったが、内部はぐちゃぐちゃ。屋根の上にも漂着物があり、「家にいたらダメだったかも」と話す。

 大学は3年まで進級したが、アルバイト先で知り合ったフェイシャルサロンの女性オーナーに誘われ、中退して平成25年から同じ道を歩んだ。そして昨年7月、のぞみ野に一軒家のサロンを開設して独立した。

 10年前には想像もつかなかった展開。「今、あんだたちのとこへ行ってるヒマなんかないんだがら」などと店のインターホンで中傷されたこともあったという。それでも、子連れでも来店可能な完全個室のサロンとして工夫を凝らしてきた。

家族無事で 10段目 でも…

 復興を最大10段の階段で例えると「うーん」としばらく考え込み、「自分のことなら、10かな」。家族全員が無事だったことが最大の理由だ。「でも」と付け加えて「亡くなった人を考えるとゼロの人もいる」と顔を曇らせた。

 来店客に家族のことを聞くのは、控えている。震災でだれがどんな被害を受けたか分からないから。自分から話し出す人には、寄り添うように耳を傾ける。「ストレスを吐き出して悩みを解消し、心身ともにきれいになって癒やされる、そういう非日常の空間にしたいです」と願う。

 壊滅状態の南浜町はスマートフォンのアプリで震災前の元の姿を見たりする。同じ町内だった人と話が盛り上がり、「お客様から癒やされることもある」そうだ。【本庄雅之】




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