ひびのきりん

ある作家さんへのファンレター

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最近の記事

恋人

つい先ごろ我が人生に初めて恋人が実装された。それまで、いわゆる年齢イコール恋人いない歴だったわけだ。 そういう言葉を使う多くの人がそうであるのと同様に、私も例に漏れず恋だの愛だのを渇望していた。思い詰めて気がどうかしたこともあった。単なる知り合いを恋人のように錯覚したこともあった。哀れなる個よ。 翻ってどうだ今は。恋人のある私とない私を比べてどうだと言えば、これが何も変わらないのだ。いったいなんということだ。私は天地がひっくり返ると思っていた。この飢餓のような孤独から逃れ

    • 10 ある作家さんへのファンレター

      ポツネンさんへ こんにちは、ファンです。 夢を見ました。 ジャケットを脱いだあなたが立っています。 客席にはお客さんが、ソーシャルディスタンスを保ちながらそわそわ座っています。 あるふつうの人にスポットライトがあたりました。 あなたは舞台に立っているのですが、客席にどんどん入っていきます。あなたが足を進めるとそこは客席のままなのに舞台になります。 表彰されるなど思ってもみなかったふつうの人がびっくりして首をすくめているのを、あなたは落ち着かせるようにねぎらうように触れて

      • 9 ある作家さんへのファンレター

        ゴールデンボール(馬)さんへ こんにちは、ファンです。 おぼつきません。 先週、会社からの帰り道に人間の部分をすべてふるい落としてきたので、月曜の朝にひろうまでは人間以外の部分が書いています。おぼつかないファンレターです。 人間にもどってから書くべきなんですが、良かろうが悪かろうが続けるとはじめに決めたので、めっぽうやたらに筆をしたためています。リスがしっぽで書いたとでも思ってゆるしてください。 うさぎ。 眠れない日がつづいてふらふら入った雑貨屋で、うさぎのオブジェを

        • 8 ある作家さんへのファンレター

          ビーバーさんへこんにちは、ファンです。 「こういう具合にヒヤシンス」が耳に残るので、TAKE OFF を観たあと、野球拳の由来を調べました。 家元がおられましたよ。すでにもう3代目。ご説明の中に「踊りの妙味」とあって、野球拳の妙味?と思いながら動画を見たのですが、なるほど。宴会芸の伝承、大事ですね。 作品をただ鑑賞しているときは、わーきゃー楽しく拝見していたのです。 でもこういう、宛先無記名の空中に放り投げているだけのファンレターもどきでさえ、書くとなると好きをカタチにす

          7 ある作家さんへのファンレター

          新橋駅をご利用のみなさんへこんにちは、ファンです。 前が見えません。 気候がすずしくなるとともにメガネが曇り模様となりました。 ええ、くもりどめシートのことは常々。ただどうしてか、私がやるとレンズが虹色になっちゃうんです。昔の車ってよくガソリンがこぼれませんでした?ちょうどあんなようです。 もしも私がトンボだったら虹色お空もステキですが、まだ人間をするのに手いっぱいで。だから虹か曇りか見えないか、選べるようで実質一択の毎日をすごしています。五里霧中の初秋は少しばかりメラ

          7 ある作家さんへのファンレター

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          常盤さんへこんにちは、ファンです。 存在っておもしろくないですか。 通勤路に、めちゃめちゃ高価なのにめちゃめちゃアホみたいな服を売っているお店がありまして、そこを通るのが毎回楽しみです。あの、マネキンで顔がないやつありますでしょう?トルソーっていうのかな。それがちっちゃいショーウィンドウにひとつあって、お店の人が毎日着替えさせているんです。コーディネートがまた激渋で、もう本当に気に入ってて毎日眺めているんですが、ある日のぞいてみたらもぬけの殻だったんです。いえ、お店はちゃ

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          さだきちくんへこんにちは、ファンです。 私はこんな届かない空に言葉をほうっている場合ではなく、本当は魔法使いに手紙を書いたほうが良いのです。 ドリトル先生とクレヨン王国がすきな子どもでした。 星新一とアシモフがすきな若者でした。 スヌーピーとムーミンがすきで作家にあこがれて 谷川俊太郎と宮沢賢治がすきで詩人になることが夢でした。 本に没頭するのが好きですきでたまらない子どもは、現実に埋没して本が読めない大人になりました。人が大すきでその分大こわくて、人から離れるという名

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          プリマ―さんへこんにちは、ファンです。 表現をするのってこわくないですか? いえ先日駅でね。閉じたカサを槍のようにかかげて走っているサラリーマンを見ましてね。今からいっしょにこれからいっしょにどうするつもりだと。24時間戦えますかじゃないですよと。ビートルズが来ればいいのに。昭和も遠くなりましたね。ヤー。 谷川俊太郎がすきです。中学高校でずいぶんはまって、けれどその後受験とか興味が別にいくとかで一時期離れていたのです。そんなある日、本屋さんで最新刊を見つけました。わーい

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          夏歩香さんへこんにちは。ファンです。夏が暑いですね。 忘れられない詩ってありませんか。ほら、かまきりりゅうじの「あつがなつい」とか。「自転車のかごからわんとはみ出して」とか、「林檎がひとつ日あたりに」とか「●」とか「ネリリしキルルしハララして」とか。 『二十億光年の孤独』での三好達治の序にかへてが好きです。「この若者は意外に遠くからやってきた」から始まる詩です。これのおかげで私、谷川俊太郎さんは地方出身だとばかり思っていました。まだ幼さの残る青い体に、ふくらんだ鞄以上に未

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          小宮山さんへ。こんにちは。ファンです。 さんざん悩んだのですが、一度もお目通りしたことがないので、仮に小宮山さんと呼ばせていただきます。私はあの方がすきです。 出会いは違法アップロードでした。ひらにお詫びを申しあげます。でも仕方なかったのです。不可抗力だったのです。「ゴドーを待ちながら」を検索したらたまたまヒットしました。そのまましばらく違法の波をサーフィンし、今は(当時は)お芝居もやってなさると聞きつけ、すかさずチケットを取りました。そしてはい、当然仕事が入りました。O

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          1 ある作家さんへのファンレター

          こんにちは。ファンです。 芸術方面にからきし素養がなかったもので、はじめてファンレターなるものを書きます。いろいろご寛恕ください。 何とお呼びしたらよいでしょう。劇作家?演出家?舞台の端まで踊ってはねて演技して。笑って泣いておしゃべりをして。怒ってどなって笑わせて。歌をうたって絵をかいて。それからそれから。名刺が何枚にも及びそうです。 作家さん、と呼ばせてください。あなたの作品が好きです。抱えられるかぎりいっぱいの尊敬と愛をこめて。 はじめまして。こんにちは。また書き

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