大人向け作品を作る大人が陥る罠

 大人向けに作りました! って作品で面白い作品が世の中には少ないのだが、どうしてだかクリエイターは大人向け作品を作りたい病にかかるものである。

 と、いうのが今回の内容。それ以上のことはないので、これだけ読んでサヨナラしてもらっても構わない。noteの文章はその程度の価値であるべきだし、時間潰し以上の何かであるのはよろしくない、と俺は思う。

 ともあれ。
 大人向け作品という言葉は作品において、よく聞くものである。だがここで忘れていけないのは、作品に触れる人のすべてが大人であるわけではない、ということであるし、同時に、大人たちが大人向け作品を必ずしも好む、というわけではないことだ。

 オタク界隈で言えば、いわゆるなろう系の、特におっさんが転生だとかタイムリープだとか、そういう作品は子供たちを無視して、大人を対象にしている作品だが、そちらに舵を取ったライトノベル界隈の市場が縮小しているのが事実だ。
 当たり前の話だが、何が悲しくておじさんになった俺の人生は糞だった、と言われないといけないのか、という話だと思う。オタクはもっといい人生があったんだ、環境が悪かったんだ、というかもしれないが、賭けてもいいが、彼らは何度リトライしても素敵な青春は得られない。なぜなら、大人になってから後悔しているようでは遅すぎるからである。

 そんな大人たちに、意外とクリエイターたちは、うるせぇ現実を見ろてめぇは大人になって次世代のために死んでいけ、という作品は作られている。富野由悠季や押井守、宮崎駿なんかがその代表だろう。

 だが、彼らの影響を受けに受けた庵野秀明は結局、幼児がえりをして大人向け作品を謳いながら自分の子供らしさを全開にしただけの作品を作り、宮崎駿の後継者と謳われた細田守も、自分の世界に引きこもることを選んだし、その意味では新海誠も大して変わらない。

 彼らは大人向けに、子供の頃の思い出や空想に引きこもることを肯定した作品を作り続けている。
 その作品たちの、すべてが支持されているわけではない。新海誠は好調だが、残りの二人はそろそろ危険域である。まぁ庵野秀明はテレビのエヴァ以降はシンエヴァ以外、大体が駄作だった気もする。破はエンタメ作品としてよかったが、他に何かいいところあっただろうか……

 引きこもることが悪い、と全面的に言いたいのではないが、少なくとも、健全な精神を伝える方法として正しくないのではないか、と思う。それを理解していないクリエイターと客がメインストリームになれば、その界隈が衰退していくのは必然である。つまり、彼らは成長をしない。人は成長することで他の種族よりも発展した生物であるのに、それを捨てて停滞を選べば歪んでいくのは必然だろう。

 もちろん、それを否定するための大人向け作品を作るクリエイターがいるのは事実なのだが、そういう作品は話題にすらならずに消えていく。
 ここで特撮界隈をたとえに出すが、この界隈は長年子供相手に勝負をやっているのだが、同時に、その歴史の長さゆえに、定期的に大人向け作品というものを作っている。そして九分九厘が失敗している。なぜだろう。子供が見ないからか。それはある。
 だが大きいのは、子供受けを狙っていない作品=大人に受ける作品、という構図が成り立たないからだ。ウルトラマンシリーズなんかが顕著だが、この作品が大人向けを謳った作品は基本的に失敗している。初代とセブンは大人にも受けたが、別に大人向けには作っていなかったし、これはゴジラもそうだ。大人向けに作ったわけではなく、ただ、誠実に客と向き合った作品が結果的に子供にも大人にも受けただけの話だ。

 それがわかっていないはずがないのだが、なぜだか、ウルトラマンもゴジラも、他の特撮作品も定期的に大人向けを意識した作品を作る。
 いわゆるニュージェネウルトラマンたちが失敗をしていない理由は、大人向けはあくまで脳の一部に置いておくだけで、メインは子供たちと家族で見られるものを意識しているからだろう。ゴジラだって、最新作のマイナス1は大人もオタクも考えず、ただ真摯であろうとした。子供に受けるかはわからないが、子供たちが見ても受け入れられるだけの作品の余裕があった。それがシン・ゴジラとの違いであったと言える。

 そういった、結果を出している大人向けではなく、子供だけを狙ったわけでなく、ただ客に真摯であろうとした作品が受けているのだが、なぜかクリエイターと、彼らをサポートするスポンサーは大人向け作品、という幻想を追いかける。彼らが見ている景色は、一体どんなものなのだろう。彼らの見ている大人たちは、どこの誰なのだろう。

 その答えは、ハヤカワ新書の「2020年代の想像力」を読めばわかる。知識人の系列のいるはずの作者が、成長をやめて停滞して劣化していく様が描かれているので、反面教師的な意味でおすすめだ。まともな論評を読みたいなら、がんばってXを検索した方が早い。もちろん、SNSなんてものは成長を放棄した大人たちの吹き溜まりであり、その大人たちの見て希望を捨てた若者がたむろしているだけなので、精神衛生上、見ない方がいいものではある。しかしながら、臭い物に蓋をするだけでは、やはり成長できない。
 バキの一説ではないが、うまいものもまずいものもしっかりと食べて、己が栄養にすれば、自ずと成長できるものである。栄養を取らずにそれができるほど、人間はよく出来ていないし、病気を治すにも栄養は必須である。

 大人向け作品をありがたがる、不健康な大人たちはいつになれば、健康になるのだろう。と思うが、俺ももうおじさん。いつそちら側になるかわからない。成長は困難だが、停滞は今すぐにでもできるのだから……

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