マガジンのカバー画像

にぎやかな静寂

72
S38年生まれの低空飛行モノカキがのんびり語ります。
運営しているクリエイター

#エッセイ

みたび お盆にぼんの話など

みたび お盆にぼんの話など

連休初日の朝ほど気分の良いものはない、ということで、唯一の趣味といってもいい「ぶらっとひとりドライブ」にでた。朝の早い時間にコンビニでサンドイッチとコーヒーを買い、琵琶湖岸や田んぼに挟まれた県道を好きな音楽を聴きながらのんびりと二時間ほど走る。
県道の、ぼんが死んだ場所を通ったとき、いつもは思い出さないのに、ふと彼のことが脳裏に浮かんだ。
「おにいちゃん」と、声ではなく、ぼくの魂の端っこの方をツン

もっとみる
心がほわっとした話

心がほわっとした話

ツイッター改めエックスで「三毛猫可愛い選手権」というのをやっていたので、我が家の「ミケちゃん」の写真を貼り付けて参加してみた。
そのタグにはすでに全国から千を越える数の写真が集まり、ツリーは盛大な三毛猫まつりとなっていた。猫好きな方にはぜひご覧いただきたいと思う。
誰もが自分の愛猫が世界で一番可愛いと思うのは自明の理というものだが、冷静・客観的に見ると「ミケちゃん」が世界一可愛い顔をした三毛猫とは

もっとみる
田中さんは山田さん(仮名)かTさんかAさんか。

田中さんは山田さん(仮名)かTさんかAさんか。

怪談本には体験者の名前を別の苗字などを使って(仮名)としたり、アルファベットのイニシャルで書かれたものが多いのはご周知のとおりですが、双方にそれぞれの味わいがあり、どう書くかはつまるところ書き手の好みなのだと思っています。そのどちらかに統一されている作家さんもいれば、作品(本)によって書き分けている作家さんもいらっしゃると思います。
また読者側にも、どちらの方が好みだとか、内容にすっと入り込めると

もっとみる
夏の終わりのじゆうけんきゅう(1)

夏の終わりのじゆうけんきゅう(1)

突然だが、かれこれ50年前、昭和四十年代の終わりごろの話になる。
考えてみれば五十年前ということは「半世紀」も前ということで、そんな大昔に小学生として生きていた子どもがおっさんとなって今も現存していると思うと、自分のことながらなんだか不思議な気持ちになる。
この不思議な気持ちは、ぼくくらいの歳の大人にならないとわからないものだろう。
当時ぼくは小学校の三年生か四年生。
と、少々「時代」を強調した出

もっとみる
夏の終わりのじゆうけんきゅう(2)

夏の終わりのじゆうけんきゅう(2)

夏休みも残り四日ほどになって、小3のぼくは頭を悩ませていた。
自由研究が少しも進んでいなかったのだ。というより、その時点で何をするかも決まっていなかったのである。
「自由~」なのだから、研究ばかりでなく、実験や観察や、工作や絵画などでもいいわけだが、如何せんあと四日でそこそこカタチにする必要がある。
空き箱をいくつか適当にセロテープでくっつけて、画用紙で目鼻を作り、「未来ロボット」をこしらえるか、

もっとみる
夏の終わりのじゆうけんきゅう(3)

夏の終わりのじゆうけんきゅう(3)

かくして自らの身体をはった自由研究でお茶を濁したぼくだったが、クラスのなかにはやはりどうしても夏休み最終日に間に合わなかった友人たちがいた。
男女合わせて五人ほどだったろうか。
夏休みが開けた初日にそれぞれ研究の模造紙や工作を持ち寄り、詳しい内容は端折って、どんなことをしたのかだけを教室の端っこの列からひとりずつ順番に発表することになっていた。
ぼくは『アシナガバチにさされてからなおるまでのけんき

もっとみる
夏の終わりのじゆうけんきゅう(4 最終回)

夏の終わりのじゆうけんきゅう(4 最終回)

一日遅れで提出する自由研究は、教卓とは別に教室の前にある先生の机の上に置いておくことになっていた。
Aくんは先生の言いつけ通り「家のちかくのこんちゅうさいしゅう」の箱を先生の机の上に置いた。
さっそくそれを見ていた他の男子が「どれどれ?」という感じで、蓋を開けてなかを覗く。
すると、その男子は「うっ」という声にならない声を漏らすのと同時に、大きな声で「おいおいみんな見てみ」と他の男子を呼んだのだっ

もっとみる
君の名は?

君の名は?

 高校に通う文学少年少女が書いた小説を読むことがある。めっちゃ面白いし、勉強になる。
  
―――ジリジリジリ。目覚まし時計を止めると、翔は目をこすりながら覚醒した。きょうは期末試験なのだ。いつもより少し早めに学校に馳せ参じるつもりだ―――。

 こんなパンクな文章、擦れた大人にはなかなか書けるものではない。しかも、これが爽やかな青春学園モノなのである。
 翔くん 何者? 
 という感じだが、無駄

もっとみる
真夜中のたたかい

真夜中のたたかい

 なんて題をつけたら、おおっ、どんな心霊現象だ? どんなオバケが現れたのだ? とお思いの方もおられるかもしれないけれど、じつは赤ん坊の「夜泣き」のことである。
 あるお母さんの「赤ちゃんが夜泣きをして苦労している」という旨のツイートが話題になっていた。
 多くの励ましや「うちはこうした」という助言のリプがついているのを見ているうちに、いろんなことを懐かしく思い出したのだ。

 ぼくの場合は、息子が

もっとみる
にぎやかな静寂  「夢の話」

にぎやかな静寂  「夢の話」

 こんな夢を見た。

 仕事帰りに何者かに拉致されたようだ。

 早よ帰らんと、みんな(家族)が心配しよる。
 そう思いながらも、今朝、朝食をとりながら交わした会話が、妻や子どもたちとの今生の別れとなるような予感に、ぼくはすでに絶望している。

 嗚呼、昔あの人たちもこういう風にして、ああいう風になったのか。

 ぼくは冷たい手術台に固定されたまま、遠い昔子どもの時に大好きだった物語が、夢物語でな

もっとみる