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にぎやかな静寂

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S38年生まれの低空飛行モノカキがのんびり語ります。
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2015年5月の記事一覧

誰かに言葉を贈るということ。

 ぼくがクルマの免許を取ったころ、滋賀の若者は運転免許を取ったらまず琵琶湖一周をし次に福井県の東尋坊まで遠出するという、現在ではテレビの娯楽番組のネタとして揶揄されるしかないようなことが、ある種の通過儀礼のように行われていた。
 とはいえ元々特別な謂れがあるわけではなく、誰もがなんとなく思いついて誰もが実際にやってみる行為、だったに過ぎない。初心者には景色も楽しめて適度な練習になる良い行程というこ

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雲枕

 毎年三月の下旬、穏やかな日差しに春の兆しを感じ始めた頃、突然寒気が戻り、琵琶湖の西岸に連なる比良山系から冷たい突風が吹き下りることを「比良八講荒れじまい」(突風を指す場合は「比良八荒」とも記す)という。
 比良山系で行われる法華八講と呼ばれる法要と時期が重なることからそう呼ばれるようになったとされる。
 冬、琵琶湖に吹く風は、強く冷たい。
 冬の名残りのようなその突風が吹いて、ようやく湖国に本当

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道草

 いまさら宣伝もなにもないけれど、話の取っ掛かり上ちょこっと触れることにします。「幽」怪談実話コンテスト傑作選「痕跡」の中の拙作「黄昏」という文章は、三十年来の友人と数か月にいちど京都駅で落ちあい、無駄話をしながらぶらぶら歩くという、アラフィフ親父のささやかな愉しみを元に書いたものでした。
 京都駅を出て、ふたりで延々歩くだけです。カメラのない「夜はくねくね」(古過ぎ)あるいは「もやもやなんとか」

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