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戻りたくなる夜がある寂しさに触れて

目が覚めて、エアコンの電源を一度切る。部屋の窓をあけて、冷たい部屋にモワッと漂ってくる生暖かい風を感じたとき、9年前に、サンボマスターのライブで沖縄に行った、7月のある日を思い出した。

飛行機が那覇空港に着陸して、扉が開いた瞬間、機内に入ってくる生暖かい空気に、乗客がザワザワし始め、暑いのが苦手な私は「…やってしまった」と7月の沖縄に来たことを後悔した。

そんな日を思い出してしまうぐらい、大阪にある自宅で朝8時に感じている空気は異様なぐらいに暑く、起きた瞬間からぐったりしてしまう。

「こんなに暑いなら、窓を開けても部屋の空気の入れ替えなんてできないんじゃないのか」といった疑問すら湧いてくる。暑い、とにかく暑い。

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朝の8時にアラームをセットして、目が覚めた瞬間から、12時まで、てきぱきと働き、前日にホワイトボードに書いておいたタスクをクリアしていく。記事の納品も、事務の仕事も、「ここまでやっておきたい」というものは全て終わらせて、勤怠表に時間を入力したら今日の仕事は一旦終了。

珍しく予定があって、27日は午後休、28日は丸一日仕事の休みを取った。休みを取ったといっても、自分で仕事をしているので、お仕事で関わっている方に「休みます」とは言うけれど、どこかに休みを申請したり、お願いしたりすることはない。

それでも、「午後休」などという言葉を使うのは、そうやって自分に「休みだ」言い聞かせることで、ついついやってしまう仕事から手を遠ざけることができる気がしているからだ。

大好きな「はちくちダブルヒガシ」を聴きながら化粧などの準備を終え、まず向かった先は美容院。インナー部分にライム色を入れてもらい、誰よりも夏を楽しんでるっぽい髪色にしてもらった。

夏が苦手な私は、海とか川とかプールとかキャンプとか、そういったイベントとは縁遠い人生を送ってきた。それに今年の8月は山盛りの仕事があるので、今のところ8月に出かける予定は1回のみ。

何のために、このタイミングで夏っぽい髪色に染めたのかが分からなくなってしまうぐらい、本当にこの夏は出かける予定がない。だけど、「夏だから」という理由で、こんな髪色に染めてしまう自分の潔さは、あまり嫌いじゃないなとも思う。

かれこれ5年以上お世話になっている美容院は、自宅から電車に乗って45分ぐらいかかる場所にある。美容師さんが好きなのと、その圧倒的な技術に惚れているので、もし美容師さんが将来的に宮古島とかに移住して、サロンを開くと言ったら、私はそこに通うと思う。だから、たかが45分ぐらいで行ける場所に素敵な美容師さんがいるということには感謝をしなければいけない。

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そんなこんなで、髪の毛を染めた後に向かった先は京都。

美容院を経由してから京都に向かうのは初めてだった。見知らぬ駅で乗り換えをする必要があるのがちょっと不安だ。それに、乗り換えのために阪急の駅からJRの駅まで一度歩かなければいけないのも不安要素を強めている。

名前も知らない見知らぬ駅に降りると、ホームの見渡しがとてもよくて、目の前には山が広がっていた。「ここどこ?」という感覚は、自然を目にしたときに芽生えるんだと、感動さえ覚えた。

降りた駅からJRの駅までは改札を出たところに「こちら」と看板が出ていたので、迷うことなくいけそうだった。

きっと同じタイミングで乗り換えをするであろう人たちが複数人いたこともあり、無事にJRの駅に到着し、「もうすぐ京都だ」と思ったら、どうやら電車が遅延しているようだった。

遅延の時間は50分を超えていて、「もしかして阪急の駅まで戻らないといけないのかな」と少し不安になったけど、同じように電光掲示板の表示を眺めていた一人の女性が、覚悟を決めたかのように改札を通っていった。それに続くように、私の近くにいた男性も、改札を通っていく。

「なんとかなりそう」と、私も改札を通り、ホームで電車を待った。流れてきたアナウンスに耳を傾けると、電車は50分以上遅れているようだったけど、順次運転が再開していて、5分ほど待てば、50分前に到着する予定だった電車に乗れそうだ。先に改札を通ってくれた二人に、とびきりの感謝を伝えたい。

それに、初めて降り立ったJRの駅の看板を見ていたら、どうやら隣の駅は「島本駅」というらしい。こんなところでも推しの名前を見つけちゃうなんて、最高人生だなあと、嬉しくなった。

無事電車に乗り、京都駅に降り立つ。夕陽がとても綺麗だった。

友人との待ち合わせ時間までにはまだ時間があったので、駅中にあるカフェに入った。店内が極寒だったので、ホットコーヒーを頼み、はちくちダブルヒガシを聴きながら時間を潰す。

待ち合わせの15分ほど前にお店を出て、向かったのは駅前にある商業施設。
お目当てのワンピースとたまごっちがコラボしたガチャガチャを見つけた。300円を投入し、「無欲、無欲…」と頭の中で唱えてからレバーを回す。

ガチャガチャが出てきた瞬間、おいせさんのお浄め塩スプレーを振りかけるの忘れたことを思い出した。「推し関係のランダム商品を購入するときは、己の身を清めてから行うと自引きしやすくなる」という謎のジンクスが私ののなかにあるのだが、そんな大事なことを忘れてしまうというポンコツぶり。

カバンの準備をしたときに、ちゃんと取りやすいように、外側のポケットに入れたのに。どうしてだかこういう凡ミスをしてしまう。ちょっと落ち込みながら、「でも、無欲で引いたから……」とカプセルを空けると、推しキャラじゃないキーホルダーが入っていて、「まあ、人生そんなもんですわな」と自分に言い聞かせた。

もう1回ガチャガチャをしようかなと思ったタイミングで、友人から施設前に着いたとの連絡がきたので、待ち合わせ場所に向かう。

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合流して向かった先は「HOTEL SHE, KYOTO」

泊まれる演劇「雨と花束」に参加するのが、この日のメインイベントだ。

ちょうど2週間ぐらい前に、泊まれる演劇に初めて参加したのだが、そこで体験した衝撃が頭から離れず、「千秋楽までにもう1回行かないと、絶対に後悔する」と、部屋が空いてる日を探したら、月末に少しだけ空きがあったので、その場で行くことを即決。

誘った友人が偶然公演の翌日に休みを取っていて、あれよあれよという間に予約まで進めてもらい、公演が終わる前には次の公演に行く日が決まっていたぐらい、スムーズに話が進んだ。

ホテルに着いて、チェックインをして、雨と花の晩餐会に参加をする。泊まれる演劇について、あーだ、こーだと書きたいことはたくさんあるのだが、今日を入れて残り2回公演があるので、そういった感想はまた今度書くかもしれないし、書かなくてもいいのかもしれない。

なんでもかんでも言葉にしないと、頭の中がいろんなことでゴチャゴチャして気持ち悪くなってしまう私は、書くことを手放せない人間なのだと思うことがある。

そんな私が「言葉にしなくてもいいかな」と思えた体験は、なんとも不思議だ。それに、書いて伝えたいというよりは、話して伝えたいという感覚が強く、1回目の参加後に会った人には結構話を聞いてもらった。

書きたい!というより、話したい!という気持ちで胸がいっぱいになる経験は、これまであまりなかったので、この差はなんなんだろうなとも思う。

今回参加して印象深かったことを一つだけあるなら、同じ日に参加していたお客さんと過ごした時間だった。

あの日、あの時間にモーテルに漂っていた特有の雰囲気や、キャストさんと交える言葉とそれぞれが抱える想いに脳みそがフル回転した結果、「ちょっと一息つきたいかも」と感じた瞬間があった。

あまり何も考えずに一人でエレベーターに乗り、なんとなくボタンを押して止まった階で降りると、ドアの開いた部屋に、他の参加者の方がいて、何故か分からないけど、「話しかけてみようかな」と思った

話しかけてみると、それはそれはとても素敵な方で、気づいたら、キャストさんのいない空き部屋で遭遇した出来事や、ここに来るまでの雑談を結構長い時間話していて、その時間がとても楽しかった。そうやって話をしていると、部屋にキャストさんが戻ってきて、そのままみんなで話すことになった。

その瞬間、どこにいても、どんな話をしていても、このホテル全体で演劇が繰り広げられている以上、私たちもストーリーに必要な参加者なんだと感じたし、少し強い言葉になってしまうけど、「逃げられないんだな」とも思った。

別に逃げたかったわけではないけれど、「自分もこのストーリーに必要な一員なんだ」と自然に思える体験って、きっと簡単なことじゃないと思う。

泊まれる演劇を初めて訪れたとき、「ちゃんと話せるものなのかな」といった不安もあったけど、そんな懸念点なんて忘れてしまうほど、ごく普通に、自分がそこに存在している感覚が何よりも印象的だった。

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前回も今回もそうだけど、家に帰ってきて、いつも通り仕事を始める日常との切り替えがとても難しく感じる。あの夜は自分の記憶のなかにちゃんと存在していて、たしかに晩餐会に自分はいたはずなのに、振り返ろうとすればするほど、遠い昔の出来事のようにも感じる。

こうやって思い返しながら、言葉にすると、自分の目で見て、言葉を交わしたことで積み重なったはずの濃い記憶が、なぜだか分からないけど薄まってしまいそうで怖くて、書くことを躊躇ってしまう。

(まあ、結局はこうして書いてるんだけども)

だから、キャストの人と話したことや、公演の具体的な感想とかについては書かずに心に閉まっておきたいのかもしれない。といいながらも、いつか書きたくなる日がきたら、きっとそれは自分のなかで何かが昇華できた証なんだろうし、それはそれでいいとも思っている。

「帰りたい」と思える夜があるというのは、こんなにも儚くて寂しいものであることを知らずに生きてきたので、新しい感覚に触れることができてとても良かった。

そういえば、昨日、帰宅したら、3ヶ月ほど前に頼んでいたルフィのピンバッジセットが届いていた。22時にはファーストテイクでサンボマスターの「できっこないをやらなくちゃ」が公開されていて、「そうそう、これが私のいつも通りの日常だ」と、今回はすんなり元の世界に戻ってこれた感じがしている。

気づいたら4000文字も書いていた。2024年の公演を楽しみに、今日も、明日も、明後日も、夏満喫カラーのヘアスタイルでバリバリ仕事を頑張っていこう。







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