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「卵 音を出さずに割る方法」と調べていた私が住める家

「目標とかってあるんですか?」と聞かれると、大真面目に「一軒家で猫と共に暮らすことです」と答えてしまう。いつか訪れてほしい描との穏やかな暮らしを想像して、のほほんとした気持ちで言っているのではなく、心から「そうしないと、きっとうまく生きていけないから」という理由で、答えている。

私は「感情が伝わってくる生活音」がとにかく苦手だ。
バンッと扉を閉める音、ドスドス廊下を歩く音。自分が出した音に、まるでハミングしてくるかのように連なって音が鳴ると、「あれ…もしかして、これって私の音が嫌な音だったのかな?」と思い込んでしまう。

人生初めての一人暮らしは、アパートに住んでいて、隣は引っ越し直前まで住んでいなかったけど、上階にはある一定の時間になれば、バタバタと動き始める人が住んでいた。引っ越した当初気になったのは、その「音の意味」が、自分に向けられているんじゃないかということだった。

正直何かをしたという自覚もなければ、「そんなもの気にしなくていい」と言われてしまえば、それで終わりなんだけど、気になるものは気になる。

今でも鮮明に覚えているのが、冷蔵庫が届いたある日の昼下がり。
「なるべく大きな音は避けたいし、できるだけ人がいない時間を…」と、わざわざ平日の13時過ぎを時間指定して、業者さんに冷蔵庫を持ってきてもらった。

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色々と設置が終わって、初めて冷凍庫の扉を開けたとき、中にプラスチックの引き出しのようなものが入っていたらしく、ドンッと音を出し、落下した。

高いところから落ちたというよりは、ちょっと下に落としてしまったぐらい。プラスチック製で中には物は入っていないけど…それでも心臓はバクバクしていた。

私の部屋は下が駐車場の2階にあったので、下の階の人にご迷惑がかかることはないけど、上の階の人が部屋にいて、もし聞こえていたら…と思うと、全身がブルブル震えてきて、そんなことでグスグス泣いて、「何してるんだろうな」って布団にもぐってそのまま、「何もなかった」と言い聞かせて眠りについた。

「音が気になるなら上階に住めばいい」と言われたこともあるけど、私は「音」より「感情がこもってそうな生活音」が苦手なので、それはどちらかというと、自分が出した音に対して誘発されるものだと認識している。

自分が出した音で誰かがイライラすることが本当に嫌でたまらないので、自分が誰かの上の階に住むなんてことは絶対に考えられない。

もし、そうなったら、音を出さないように大真面目につま先で歩くと思う。

今思えば、ちょっと笑ってしまうような話だけど、引っ越した当初は「スーパーのカシャカシャ音が聞こえてたらどうしよう!」って不安になって、息をひそめながら中に入れてる野菜やお肉をゆっくり取り出していた。

ゴンゴンッと勢いよく卵なんて割れるわけなくて「卵 音を出さずに割る方法」と調べて学んだ、2つの卵をカチンと合わせて割る方法に、「これだ!!これで音を出さなくて済む」と人生を救われたような気持ちすら感じたのだった。

住み慣れると「生活音ってある程度静かだったら聞こえないんだ」と思うことも多く、「テレビの音があると落ち着くな…」と嬉しくなる日もあった。

そういえばある日、アパートのエントランスに「トランペットを吹かないでください」って書かれた注意書きを見て、「えっ。スーパーのカシャカシャ音で悩んでいた私ってなんだったの」と可笑しくなって、トランペットを吹いた住人に勇気をもらったことだってあった。

そうやって、少しずつ「自分の出す生活音」にも許しが出せるようになったように思う。

でも、やっぱり実家に戻ってきて、最初に思ったのが「そこまで音を気にせずに出せる一軒家のありがたみ」だった。もちろん、窓を開け放題で時間関係なしにやりたい放題していいとは思っていないけど、ある程度生きていくために必要な動作を気にせずできたり、卵だって普通に割れる。

今思うと、もっとちゃんと不動産屋さんに「音の質問」をしたらよかったなあと思っていて、自分で「生活音がとことん苦手」なのに、「そうですねえ。集合住宅ですからねえ」と言われ、「そんなもんかあ」と思ってしまった自分に喝を入れてやりたい。でも、この経験は絶対に次に活かせるからナイス自分…!(甘い)

アパートでの一人暮らしを経験したからこそ、絶対に一軒家に住まねばならん…!と改めて再認するようになったのが、去年の5月ぐらい。

ただ、この1年でその考え方が少しだけ変わってきた。

コロナ禍の影響で、たまに友人と食事をする機会があると、割高だけどレンタルスペースを利用することや、打ち合わせやちょっとした撮影でレンタルスペースを利用する機会が増えた。

ときに、その部屋はただのマンションの1室になっていることがあるのだが、驚くぐらい、世の中にはいろんな構造の家があった。

そのなかでも特に魅力的だったのが、1フロアに2室しか部屋がなくて、部屋が隣りあわせではなく、対角線上にある。なので横は誰も住んでいませんよ!といった部屋とか、引くぐらい天井が高すぎる部屋とか。

これまでは「一軒家こそ私の生きる希望」と思っていたけれど、この1年でレンタルスペースを利用することで、ちょっとずつ「もしかすると見つけられるかもしれない鉄筋マンションへの希望」も抱けるようにはなった。

今すぐ引っ越しをするわけじゃないけど、「このぐらいで家を出る」といった目標はあるので、その時に、息を殺さず、卵も自由に割れる家に住むために、とりあえず車の免許を取ろうと思う(まずはそこから)




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