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vol.5 未完成の魅力【ちょっと焦げても絶品 キムチとチーズの焼きおにぎり】

子どもの頃から、大人になってからも、よく父とふたり旅をしました。

“移動”そのものを楽しむタイプの父なので、旅といっても飛行機や電車を使うことはなく、自家用車で何時間もかけて目的地へ。到着したらものの数時間でとんぼ返り、といった具合です。


そんな父と中学生の頃、一台のバイクで淡路島へ訪れたことがあります。

南大阪の深日港からフェリーに乗って、淡路島の洲本港へ。父が運転するバイクの後ろに乗り、のんびり島内を周遊しました。島特有の穏やかな雰囲気を、風で感じるのが気持ちよかったのを覚えています。

その中でも特に印象的だったのが、当時まだ建設中だった「明石海峡大橋」まで足を伸ばしたこと。淡路島と神戸をつなぐ、約4kmの大吊橋です。

確かそのときはまだ、骨組みなども神戸と繋がっていない頃。わたし達は適当な場所にバイクを停めて、工事の様子を見上げながら、家から持参したおにぎりを頬張りました。

「すごいでっかいなー」
「これが神戸の方まで繋がるんやもんなぁ」

青い空に響く工事の音と、目の前に広がる圧巻の光景。父とふたり岸の堤防に腰かけて、シンプルなおにぎりを食べた時間。記憶力があまりよくないわたしですが、そのシーンは心にインプットされていて、ときどき蘇ってくるのです。

というのも数年前、久しぶりに家族で淡路島を訪れる機会がありました。今はもう深日港からのフェリーは運航されていないので、神戸まで車で向かい、橋を渡って島へ向かうコースです。

あのとき見上げた「明石海峡大橋」を、はじめて渡る日。わたしはちょっと興奮していました。

とはいえ、橋が開通してからもう20年以上が経過しています。車で実際に走ってみると、すでに貫禄のようなものさえ感じるほど、橋はベテランさんになっていました。

“今まで何台の車がこの橋を行き来したんだろう。開通するまでも、してからも、きっと様々なドラマがあったんだろうな。”

妄想魔のわたしはしばらく思いを巡らせて、中学生の頃に見た景色を脳内に再現してみました。

あの頃、建設中の橋を見上げて抱いたのは、明るい未来を予感させるような、ワクワクとした気持ち。その日、目の前で行われている工事が、近い将来神戸までの道のりを繋いでくれるのだという希望。当時のわたしには途方もないように思えた作業に、来る日も来る日も取り組まれた方たちがいらっしゃるという尊敬の念。

そんなことを思い出してみると、“まだ完成していない”状態とは、外側から見ると、なんて尊いものなのだろうかと思えてきました。

もっと身近なところに視点を移してみると、わたしの日常生活は、恥ずかしいほどに未完成だらけです。

毎日の料理はなかなか上手にならないし、好きなインテリアを並べた理想の家にも全然追いつけません。仕事でつまずくことは山ほどあるし、ダイエットの目標にしたはずの体重からは遠ざかるばかり。

なんでうまく伝えられなかったんだろうと後悔する日もあれば、自分の未熟さに何度も心が折れては包帯だらけ。


でも、そもそも完成された日常なんてあるだろうかと思うのです。傍からはパーフェクトに思える人だってきっと、悩んだり迷ったり、満たされない想いを抱えたりしているのではないでしょうか。

皆それぞれのフィールドで、今日から明日へと進むのみ。誰ひとりとして、変化を止めることも巻き戻すこともできません。


未完成とは、希望でありのびしろであり、生きる活力。

そう考えると、あがいたり、諦めたり、思い描く理想が遥か彼方に思えても、でこぼこの日常を自分なりに過ごすことも悪くないなと思えてきます。不器用に歩く自分の姿を、未来の自分が愛おしく思ってくれたら十分。

きっとわたしたちは、誇るべき未完成なのだから。


- ONIGIRI recipe -

夜食にもおすすめの焼きおにぎり。チーズが少し焦げてしまったけど、その分カリッとした香ばしさが美味しく仕上がりました。

ひろしのおかかおにぎり-2


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