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今日も、言葉を探してる。

人に会う。何十億のうちのたった一人。
ただそれだけなのに、大勢の前でスピーチをするよりも、数億円の案件のプレゼンをするよりも緊張する。
嫌な緊張じゃない、騒がしい心臓の音が少し愛しく感じる。

初めて会うとき、二回目に会うとき、三回目に会うとき…それぞれにそれぞれの緊張があって、胸の高鳴りがある。そして、その高鳴りを感じる相手はそんなに多くない。

時間をかけて服を選んで、整えた肌にメイクを乗せていく。いつもよりほんの少しだけでいいから可愛くなるように、すこしばかり祈りながら。どうやって行ったら君に早く会えるか考える。何を話したら君がいつもよりわらって、いつもより穏やかになれて、今日を生きてよかったと思えるかを考える。そんな時間が嫌いじゃないし、私はむしろ好きだ。

色々考えて考えて考えても、いざ目の前にすると何も言えなかったりする。ただただ見てしまう。愛おしいなぁとか、素敵だなぁとか、なんかいいなぁとか。言葉が好きで、言語化する力をいくら仕事で褒められていたって、敵うわけがない。口を開けば漏れてしまう様々を、必死に喉元に留める。言ってしまえば全てが終わるそれを、軽々しい言葉に変えて吐く。生きていて最も自分が不器用に感じ、ずるいもののように感じ、そして弱く情けなくどうしようもない人間に感じる瞬間。

私は、言葉が、言葉にすることが好きだ。
昔は音読が好きだった。声に出すたび、言葉は私の中に落ちてきて綺麗なリズムを保ちながら 素敵な色を放っていた。歳をとるにつれ 言葉の使い方が何となくわかってきて、それとともに言葉を受け取る時の人の気持ちもなんとなくわかってきて、気がつけば「桂子さんは、言葉を大切に使うんだね」と言われるようになった。

けど、私はそう言われるたびに にこやかに笑いながらも、現実は違うんだよなとも考える。本当は毛布のような温かさを持つことも、ナイフのような鋭さを持つことも知っていて、だからこそ 人一倍言葉を恐れているのだと思う。言葉によって全てが伝わるなんて一ミリも考えていなくて、いつもどこか言葉を疑いながら それでいて限りなく言葉を信じながら生きている。言葉には何も期待していない。ありがとうとか愛してるとかだけで全てが伝わるなんて思ってはいない。だから、会って 目を見て 言葉の限りを尽くそうとする。慎重に、丁寧に言葉を選ぼうとする。してしまう。

だから、そんな私にはまだまだ伝えきれていない言葉が沢山あって、それは君に対してもあなたに対してもそうで、いつどのタイミングで どんな言葉でこれを伝えればいいのか考えている。私の感情をもっとも伝えようとしてくれる言葉をずっとずっと探している。会うだけでいっぱいいっぱいになる君に、私は何を伝えられるだろう。もしかしたら何も伝えられないのかもしれないし、伝えないことこそが もしかしたら伝えることなのかもしれないし、それがいちばん伝わるのかもしれない。

そんな私は、今日も言葉を探している。

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