【エッセイ】文字が頭に入らない。だからオーディオブックを聴いた。
作:相見美緒
文字が頭に入らない。文章を目が滑り抜けて、バッタのように視線がジャンプしていく。頭もうまく回らない。ずっと頭に靄がかかっているようだ。それに最近、人と会話していると内容がとっちらかってお互いに頭にはてなが浮ぶ現象が多発してしまっている。その度に、相手が上手く話が運ぶように気を遣ってくれて、私は自分が無能だということを認めざるを得ない。
文字が頭に入らないということは、文系学生にとって死を意味する。これでどうやって本を読み、論文を書くというのか。存在の否定である。それに、私は今まで本を読んで来ることしか能のない人間だったのだ。即ち、人生の否定でもある。
理由は分かっていた。1年の間に起こった、度重なる挫折。私はそのいくつもの挫折に脳を破壊され、もはや死んでいるか生きているかわからない体を引きずって私は生きて来た。
でも、もう私には無理だ。もう頑張りたくない。それでも身体が「もっと本を読んで勉強しろ」と説教する。もうそんな体力さえないというのに。
そんな時、オーディオブックが私を救ってくれた。グーグルブックのオーディオブック。「時をかける少女」のオーディオブックは、朗読者の声を通じて私に青春の風を届けてくれた。おせっかい焼の主人公。どこか冴えないが頭脳明晰な同級生2人。
あの日、中学生の頃に読んだ「時をかける少女」の本は、音声となって再び私の前に現れた。紛れもない名作。眼を通しておきたい1冊であった。
私はその音声を聞いて、もう一度本を読みたいという熱意に駆られた。もう一度、もう一度、私の眼で文章を読み通したい。だが、もう一度挑戦しても、ストレスで脳髄が焼き切れてしまって、やはり文章を通しで読むのが難しかった。
だから、私は文学作品をオーディオブックで探して、聞こうと思う。私は文学部生だ。腐っても、文学部生だ。休養を取りながらオーディオブックで勉強し続ける。絶対にだ。