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【エッセイ】以心伝心のお月さま

【以心伝心のお月さま】

月曜日が辛い朝。見上げた空に、昨日どこかでみたような白い三日月が映ります。

満員電車に乗って吊り革を握りしめた時に、思い出したのです。どこかで見かけた三日月は自分の爪の中にあったことを。

近頃は忙しすぎて爪の先までかまっている暇なんて忘れていました。そう思いながらみつめているうちに、中途半端に伸びて白くなった私の爪の中の三日月が今日は愛おしく思えてきました。

生きているから伸びてくるゆびさきの爪と。この星の空にあるから満ち欠けするまあるい月と。似ても似つかぬ時空に生まれた、私と月だけの以心伝心と。偶然にも繋がり合えたような、なんでもないようだけど、なんでもなくないような、うまくいえないような小さな奇跡のような繋がり。

ほとんどの人が太陽しか見えない忙しい朝に、私には空の隅っこにあった、自分と似たようなあなたが真っ先に見えたから、今日は嬉しくなって、朝の始まりが、なんだか眩しい出来事のように見えてきたのです。

今朝の月が教えてくれたのです。ひょっとしたら、目立たない存在であっても、そこにあるだけで何かのためになることがあるかもしれないということを。そんなささやかな希望の薄明りを与えてくれたのです。

次の朝、私の注意信号の役割を果たしてくれた、くたびれかけた自分の三日月にさらりと、サヨナラ、アリガトウを言うことができました。昨日の朝の月が自然に今日の月になるみたいに。

相変わらず爪切りが下手くそな私の爪は、猫の肉球のような、まんまるい満月のかたち。今朝の空気の中で、空の月も、こざっぱりした私の新しい満月の爪も、たった今の朝にありのまま、静かに輝きます。

似てないようで似ている二つの月。同じように繋がっていました。言わなくても伝わってくるよ。いつも、いつも、命ある日々、生きてゆく平穏を願って過ごしているよ。

今日の日のルーティン。その他モロモロ。ヨレヨレになりかけつつも、一日のお約束をどうにかやり終えたら、今宵も互いに輝ける空の間で、再び会いましょう。






















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