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お寺の可能性を広げる、ハイブリッド僧侶の奔走【前編】

福井県の北端に位置する、あわら市北潟。北潟湖を臨むのどかな場所に佇む天王山安楽寺は、1300年以上の歴史を持つ古刹です。

安楽寺の住職である杉本成範(せいはん)さんは、ランニングが趣味であることから“走る住職”、浄土真宗の幼稚園からキリスト教の小中高大学で16年間を過ごした経験から“ハイブリッド僧侶”など一風変わった肩書きを持ち、幅広く活動しています。

兵庫県出身の杉本さんが、福井で住職になったいきさつや、今の活動についてお話を伺いました。

集落から少しのぼった高台にある安楽寺。そばには自然豊かな北潟湖がある

杉本成範さん
兵庫県宝塚市出身。2020年からあわら市安楽寺住職を務める。ほかにも若狭地方の2つの寺の住職、副住職を掛け持ちしながら、保護猫活動や朝のお勤めのライブ配信、精進スイーツ教室、お寺での婚活イベントなど次々と新しい取り組みを打ち出している。

幼少期の福井の記憶

兵庫県で生まれ育った杉本さん。
福井県は実家の寺がある場所で、
幼少の頃からお盆とお正月には
小浜市にある「飯盛寺」に家族で帰っていました。

杉本さん:父親は建築関係の仕事をしていたので、実家がお寺だという感覚はなかったです。普段、家でお経を唱えることもなかったですし、小中高大学はキリスト教の学校にも通っていました。「そういえば、うちってお寺だったな」と思い出すのは、毎年、お盆とお正月に小浜の寺に帰った時くらいでしたね(笑)。

「小浜の思い出といえば海。お寺はお盆が忙しいので、よく兄弟を連れて近くの勢浜(せいはま)で1日中遊んでいました」と杉本さん


大学卒業後、関西で会社勤めをしていた杉本さん。
ところが父からの勧めもあり、
高野山で半年間の修行を経て僧侶の資格を得ます。

杉本さん:大学の頃は服が好きで、将来はデザイナーになりたいと思っていました。服飾関係かデザインに関係する仕事がしたくて、学生時代はいろんな服屋さんのアルバイトをしていたんです。希望がかなってアパレルの会社に就職できたのですが、職種はなぜかシステムエンジニアで。当時はいつやめようかと思ってました。

25歳の時には父の勧めで高野山で修行し、僧侶の資格をとりました。平日は関西で働き、休みの日を利用して飯盛寺での法事や行事を手伝うことになったんです。ハードな生活でしたが、次第にお坊さんとして仕事してる感覚を持つようになってきました。

大人になり、再び小浜に通い始めた杉本さん。
子どもの頃の小浜の記憶とは異なる側面に気づきます。

杉本さん:小さい頃は親が運転する車に乗って移動していたので、車からの景色しか覚えていませんでしたが、自分で小浜のまちを回ると、山と海が近い独特の景色があることにあらためて気づきました。

港町なので、近所の漁師さんが魚や一斗缶で牡蠣をくださったり、農家さんから野菜をいただいたり…。物のやりとりが当たり前にある環境もすごく新鮮でしたね。

僧侶として人生を歩む決意

しばらくの間、会社員と僧侶の二足のわらじで
関西と福井を往復する暮らしを続けていた杉本さん。
このまま会社で仕事を続けていくのか、
それとも僧侶としてやっていくのか。
大きな問いに足を止めたのは、30代後半のことでした。


杉本さん
:転職やキャリアアップを重ねるなかで中間管理職になり、いろんな人から相談を受けるようになりました。

ある時、産休・育休を取得している部下から「職場復帰をしたいが子どもの預け先が見つからない」と相談を受けたんです。何とかできないか人事部にかけあったのですが「会社の規則を簡単に変えられない」とのこと。上司も色々と考えてくれたのですが、結局、彼女は復帰できませんでした。

きっといろんな会社で似たようなことはあると思うのですが、大切に育てた部下やメンバーが「復帰したい」と希望してくれているのに、それを適えることができない。本人にとっても、会社にとっても、お互いに嬉しい結果ではないなぁ、と。

他にも、キャリアのことや職場での人間関係や様々な相談や愚痴を聞くうちに「大きな会社なのに、思ってる以上にみんなが幸せになれていないんだな」と感じました。

「働き方や生き方が多様化してるのに、社会の仕組みが追いついていない。日々働くなかで痛感することが多かったですね」

杉本さん:今後、人口はますます減っていくのに心にモヤモヤを抱えながら生きる人は増えていく…。そんななかで、自分はどうしたらいいのか。その時にあらためて自分の僧侶としての役割を強く実感しました。

お寺の役割って葬式や法事だけじゃない、できることがもっとあるはず。こういう時にお寺が活躍しなかったら、きっとお寺の未来はないぞって。
そんな時にこの安楽寺の先代の住職さんがお亡くなりになり、私が住職として赴任することになったんです。


2020年に安楽寺の住職として
あわら市にやってきた杉本さん。
後編は安楽寺でのさまざまな取り組みや、
杉本さんが目指すお寺のあり方について伺っていきます。

後編へ続く


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