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薄霧の中で #03 38週目での転院

すっかり泣き腫らした目で主人の待つ病院へ向かう。
とにかく受診をすれば、産後に同じ病院で過ごすことができる。
主人の意識が戻ったときに駆けつけられるし、なにより待ち望んでいた我が子と会わすことができるのだ。
私は必死だった。

3人目とはいえ、これまで全く診てもらっていない病院で産むのだから、もっと不安に感じてもよさそうだが自分のことを考える余裕がなかったのだろう。
病院としても、いきなり産みたいと正産期に入った妊婦がきたと思ったら、待ち時間があるやいなや
「主人の病棟行ってきていいですか?」
といなくなるし、変なのが来たなと思っていたかもしれない。

いや、大学病院だし急な受け入れも別に珍しくないはずだ。
看護師さんも先生もとても優しくほっとした。

「3人目だし、産気づいてからが早いから、陣痛きたら悠長にせずに早く病院来てくださいって、念を押されたよー。
10年ぶりでも2回伸びた産道は伸びやすいってことなのかなーいつ陣痛くるかなぁ」
主人に受診の報告。
返事はない。

2、3日で退院との見立てなのだから、そろそろ快復してくれるはずだ。
そう信じたい気持ちと、2日経っても一向に変わらず意識混濁している姿に、不安が増してくる。

いや、きっと大丈夫だ。あんなに楽しみにしていた新生児との対面なのだ。今にケロッと目を覚ます。

そう信じなければ、、
という強い気持ちということも、正直なかった。

目の前で事実が上滑りしていく、そんな感じで。
心はどんどん鈍感になっていくようだった。



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